「報連相(報告・連絡・相談)ができない」
「業務命令に違反して物事を進める」
「反省しない」
「反省すべきポイントがズレている」
ある企業で、このような社員が試用期間終了と同時に解雇された事件について、裁判所は「解雇は有効である」と判断した。
以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)
事件の経緯
事件の舞台は、従業員数15名程度の小規模な出版社だった。この会社は原則として新卒採用をしておらず、出版社の経験を有する者を優遇して採用していた。
Aさんは、この会社の求人に応募し、2度の面接を受けた上で採用された。面接でAさんは、書店や出版社での経験をアピールし、出版社で勤務していたときに作成したチラシやポップなどの販促物も面接官に披露した。
会社は、Aさんの実績を評価し、営業担当として管理職待遇(課長代理)で採用した。試用期間は3か月である。
しかし入社から3か月後、試用期間終了と同時にAさんは解雇された。これに納得できないAさんは「解雇は無効である」と主張して提訴した。
裁判所の判断
裁判所は「解雇は有効である」と判断した。以下、理由を見ていこう。
■ 営業経験者として採用されたのだが...
Aさんは、会社から期待された業務を果たさなかったのである。具体的には、「書店担当者の不在を確認せず客先に訪問する」「電話営業で不在であった担当者に再度電話をかけないまま放置する」などの行動が目立った。その結果、営業担当者に期待される売り上げを達成できない日が多かった。
■ 業務命令違反・報連相不足①
営業部会でのエピソードだ。Aさんが、ある書籍について「帯替え(書籍に巻く帯を新しくすること)」を提案したが、予算不足との理由で却下された。そして、社長がAさんに対して「帯の制作が進んでいるなら中止するように」と指示を出した。
しかし、Aさんはデザイナーに対して明確に中止の報告をしなかった。それどころか、帯を使用する場合に備えて制作は進めておくかのようなメールを送信したのだ。結果、デザイナーは帯を完成させ、会社に報酬請求をした。
会社は、Aさんに対して始末書の作成を命じたが、反省すべきポイントがズレていた。そこで会社は始末書の再提出を命じたが、Aさんは、「私が悪いわけではない」と弁解した。
この点につき、裁判所は「社長の指示や営業部会の決定に反し、デザイナーに対して帯の制作を止めるよう連絡せず、あたかも使用する場合に備えて制作は進めておくかのような連絡をし、デザイナーから帯のデザインが送られてきても営業部内で情報共有を行っていない」と、業務命令違反を指摘している。
■ 業務命令違反・報連相不足②
Aさんは「帯」に強い執着があったようだ。後日の営業部会でも再提案して却下されたときに、「これはスゴイことなんだ」「絶対スゴイことになるんだ」と何度もつぶやいていた。
Aさんは、どうしても自分のアイデアを実行に移したかったのであろう。会社に無断で、帯を印刷した用紙を書店に送付した。送料はAさんの私費から捻出していたが、業務命令違反であることに変わりはない。
この点につき、裁判所は「却下されてもなお帯を送り、それを会社に報告しない。注意や叱責を受けてもこれを不当と捉えて内省しない」と指摘している。
■ 裁判所の最終判断
裁判所は、以上のようなAさんの問題行動を総合考慮して、「このようなAさんの勤務態度、業務成績等を踏まえれば、Aさんは、小規模出版社における営業職としての適性を有すると認め難い」「Aさんの本採用を拒絶し、試用期間満了をもって契約を終了させることにつき、やむを得ない事由がある」と判断。試用期間終了と同時の解雇を有効と結論づけた。
小さな会社だと解雇のハードルは下がるのか?
本件で印象的なのは、裁判所があえて「小規模出版社(従業員約15名)の営業職としての適性」を問題にしている点である。
大企業であれば、多少のミスやコミュニケーションの齟齬(そご)があっても、周囲のフォローや分業によって吸収される余地がある。しかし、本件のような小規模組織では、1人の営業担当の判断や行動が、そのまま売り上げやコストに直結する。たとえば、上司の指示を正確に伝えないだけで過分なコストが発生し、報連相の欠如がそのまま組織の混乱につながる。
この意味で裁判所は、「能力そのもの」だけでなく、「組織規模に応じた適応力」を厳しく見ていると考えられる。
本採用の拒否は、どんなケースで可能か?
一般的に、本採用拒否は「解雇よりはハードルが下がる」とはいえ、難しい。
本件は、①業務命令違反・報連相意識が欠如している、②しかも改善の兆しがない、などの点が重要視されたのであろう。裁判所は、Aさんの一連の行動が小規模企業秩序の根幹を揺るがすものであると判断したと推察される。

