『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは「自分で作って、自分で食べる弁当」。果たして、お味はいかに?

◆孤独のファイナル弁当 vol.29「自分で作って、自分で食べる弁当」
この連載を始める時から「自分で作る弁当の回があってもいいな」と思っていた。が先送りにし続けて数か月。ついに作った。弁当箱はBS番組『ニッポン箸休めさんぽ』で行った木曽の奈良井宿で、ボクがイラストを描いて作ってもらった曲げわっぱ。初めて使う。曲げわっぱ、最高。
弁当は何も考えず、ふだん朝昼兼用に自分で作っているものを、玄米ごはんと詰めることにした。
まずフライパンで、刻みネギと切った油揚げとしめじと小松菜を炒めて、少量の五島列島の塩で味付ける。
それから、オリーブオイルにホールのクミンとフェンネルを入れて熱し、そこにベランダのプランターからちぎってきたローズマリーとタイムとオレガノを加える。そこに塩麹で味付けした鶏胸肉の細切れを入れる。さっと炒めたら日本酒をかけ、ようとしたら料理用日本酒がなかったので、白ワインをかけ回す。ワインはどんどん蒸発する。肉をフライパン上で転がして軽く焦げ目をつける。
フライパンを洗って熱して乾かし、油を引いて玉ねぎの千切りを炒め、賽の目に切ってレンジでチンしたじゃがいもを加えて、塩を振り、カレー粉をパサパサ振りかける。カレー粉が馴染むように箸で混ぜ炒める。
またフライパンを洗って、ピーマンとトマトを塩でさっと炒める。
さて、弁当箱に詰める。この作業はなかなか楽しい。が難しい。ピーマンとトマトをどうするか悩んで、最後に飯に埋め込んでのせた。ごはん部分に白ゴマをパラパラかける。そして梅干しを大きすぎるので1個の半分だけ詰めて完成。
こうやって書き連ねるとなかなか「料理」した感じがするが、全部切って炒めただけ。煮物、焼き物、茹で物、なし。こんなものしかできない。ここに目玉焼きつけるくらい。あと作れるのはカレーぐらい。
さて弁当に蓋をして、作ったおかずの残りとトーストとコーヒーで朝ごはんを食べた。弁当には少しずつしか入らないから十分だ。
弁当は仕事場に持っていって夕方食べた。パンとごはんが違うだけで、同じおかずの朝と昼になった。
やっぱり買った弁当と比べて、自分で作った弁当のおかずはどれも薄味だった。日本のごはんは基本的にやや塩っぱいもので白飯を食べる。だから病院では物足りない。
だけどこの弁当は、玄米がそれ自体おいしくてゴマと少量の梅干しだけで食べられる。となると、おかずはごはんに頼らずそれ自体で食べる感じになるので、薄味でちょうどよいのだった。
ボクは満足したが、この弁当を知らない人に出したらどうだろう? 生ハーブを使ったハーブチキンも「うーん、これかぁ……」ってなるかもしれない。でもこれが一生の最後の弁当だったら「ま、こんなもんだな俺なんて」と納得はすると思う。

―[連載『孤独のファイナル弁当』]―
【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi

