就労の有無による影響

移住先で働くか働かないかによって、社会保障の取り扱いは大きく異なります。
1)働かない場合
基本的には移住先国の社会保険制度への加入義務はありません。収入源は主に日本の年金給付や個人の資産となり、日本の年金制度(任意加入の有無)を軸に将来設計を考えることになります。
2)働く場合
移住先で雇用されると、その国の社会保障制度(年金・医療保険など)への加入が求められることが一般的です。この時問題となるのが、日本と移住先国での社会保険料の二重払いです。
この二重払いの問題を解決するのが社会保障協定です。日本はアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなど主要国を含む23カ国と社会保障協定を結んでいます(2025年9月時点)。
協定国で働く場合は、二重加入の防止や両国の年金加入期間通算などが可能になります。ただし協定がない国では、保険料が掛け捨てになるリスクもあるため、事前の確認が不可欠です。
移住パターン別のメリット・デメリット
移住期間や家族構成によって、考慮すべき点が大きく異なります。
1)永住移住の場合
メリット:
・生活基盤を完全に移すことで、移住先国の社会保障や医療・介護サービスを本格的に活用できる
・物価の安い国を選べば、日本の年金収入でも経済的にゆとりのある生活を送れる可能性がある
・移住先国の税制優遇措置を長期的に活用できる場合もある
デメリット:
・日本の社会保障制度から完全に離脱するため、将来日本で高度な医療や介護を受けたくなった場合に対応が難しくなるリスクがある
・年金を海外で受け取る際、長期間にわたり為替変動リスクを負うことになる
・相続が発生した場合、両国の法制度にまたがるため、手続きが複雑になる可能性がある
2)10年限定移住の場合
メリット:
・将来日本へ帰国することが前提のため、帰国時に日本の社会保障制度へ比較的スムーズに再加入できる
・海外生活を試すことができ、合わない場合は帰国するという柔軟な計画が立てられる
・ライフスタイルの多様化を図りながら、一定期間の非居住者期間を活用した税務上のメリットを享受できる可能性がある
デメリット:
・移住期間中、日本の社会保障に空白期間が生じやすくなる。国民年金の任意加入を怠ると、将来の年金額が大幅に減る可能性がある
・住民税や所得税の取り扱いが複雑になりがち
・帰国後の住居の確保や、日本の生活への再適応が課題となる場合がある
3)配偶者の有無による違い
配偶者がいる場合:
夫婦それぞれの年金受給権や健康状態、移住への意向を総合的に検討する必要があります。一方が日本に残る場合は、世帯分離による税制上の影響や健康保険の扶養関係の整理も必要です。夫婦で支え合いながら新生活に臨める精神的なメリットがある一方、どちらかの適応が難しい場合にストレスとなる可能性もあります。
単身の場合:
移住先やライフスタイルを柔軟に決められる自由度の高さがメリットです。その一方で、病気や怪我など緊急時の対応体制を一人で構築する必要があり、医療・介護リスクへの備えが一層重要になります。また現地で孤立しないよう、コミュニティとのつながりを意識的に作ることも課題となります。
