
2025年10月8日から二十四節気は「寒露(かんろ)」に
「寒露」とは、草花に宿る「寒さを帯びた露」を意味する節気です。
二つ前の節気「白露(はくろ)」が寒さの兆しを表していたのに対し、晩秋に入る「寒露」は、より明確な冷え込みを感じさせます。
寒露の季節感
■ 神無月
寒露の頃、十月の和風月名として知られるのが「神無月(かんなづき)」です。
もともとは旧暦の十月を指すため、現代の暦とは1〜2か月ほどのずれがあります。
この「神無月」という名には、全国の神々が出雲大社に集まり、各地を留守にするという言い伝えに由来します。この説は、江戸時代以降に民間信仰として広まったとされ、出雲地方では逆に「神在月(かみありづき)」と呼ばれています。
いずれの由来であっても、神無月の頃には収穫を終えた田畑に感謝を捧げ、五穀豊穣を願う祭礼が全国各地で行われてきました。
なかでも、伊勢神宮の「神嘗祭(かんなめさい)」や出雲大社の「神在祭(かみありさい)」は、いにしえより受け継がれてきた重要な神事として、現在も続けられています。
こうした祭礼の背景には、「神がいない」という文字面だけでは捉えきれない、日本独自の宗教観や自然観が息づいています。
神々の動きに心を寄せ、人と人との縁をつなぎ、秋の実りに感謝する——。そうした文化的・宗教的価値観が、「神無月」という名前に象徴されているのです。
神々の存在を、日々の暮らしのなかで感じ取り、祈りを通して自然とつながってきた日本人の感性が、いまもこの月に静かに宿っています。
*神嘗祭(かんなめさい):毎年10月17日に伊勢神宮で行われる、新米を天照大御神に奉納する神事。
**神在祭(かみありさい):毎年旧暦10月11日〜17日ごろに出雲大社で行われる、全国の神々を迎える神事。
神々に捧げられた花 ― マリーゴールド
□切り花出回り時期:通年
□開花期:4月~12月
□香り:あり
□学名:Tagetes
□分類:キク科 マンジュギク属(タゲテス属)
□別名:万寿菊、千寿菊、孔雀草(くじゃくそう)
□英名:Marigold
□原産地:メキシコ
■ 起源
マリーゴールドはメキシコ原産の花で、アステカ文明の中心地・メキシコ盆地に自生していました。
16世紀にスペイン人によってヨーロッパに持ち込まれ、やがて世界各地へと広まっていきます。
特によく知られているのは、背が高く花の大きなアフリカン・マリーゴールド(Tagetes erecta)と、背が低く花の小さいフレンチ・マリーゴールド(Tagetes patula)です。
いずれも中南米原産で、アステカ文明では薬草や祭祀の花として用いられていました。
日本には江戸時代末期から明治期にかけて渡来し、「千寿菊」「万寿菊」といった名で親しまれてきました。
■ 名前の由来
学名「タゲテス」は、エトルリア神話で占術を人々に授けたとされる神「ターゲス(Tages)」に由来します。
アステカ文明では「センポアソチトル(cempohualxochitl/意味は“20の花”)」と呼ばれ、人生や時間の完結を象徴する神聖な花とされていました。
英語名「Marigold」は、「聖母マリアの黄金(Mary’s gold)」に由来し、その鮮やかな黄金色の花姿にちなむといわれます。
日本での別名「万寿菊」「千寿菊」は、その長い花期にちなんで名付けられました。一般には、「万寿菊」がフレンチ・マリーゴールド、「千寿菊」がアフリカン・マリーゴールドを指します。
「千寿菊」「万寿菊」という名のとおり、フレンチ種のほうがアフリカン種よりも花期がやや長い傾向があります。
■ 文化史
マリーゴールドは、世界各地で文化的・宗教的な意味を持つ花でもあります。
タイでは「きらめく星」を意味する「ダーオルアン(Dao Ruang)」の名で呼ばれ、金運や商売繁盛を願う縁起物として寺院に花輪を供える習慣があります。
インドでは寺院の飾りやレイ(花輪)として日常的に使われ、神事や祝祭の場に欠かせない存在です。
一方、メキシコでは「死者の日(Día de Muertos)」に欠かせぬ花として親しまれ、その香りと色が、亡き人の魂をこの世に導くと信じられています。
