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「月23万円の生活費を止めた」夫の離婚請求が棄却された理由 。元裁判官が明かす、家庭裁判所の“裁量の実態”

「月23万円の生活費を止めた」夫の離婚請求が棄却された理由 。元裁判官が明かす、家庭裁判所の“裁量の実態”

―[その判決に異議あり!]―

 夫婦関係の破綻を認めながらも、夫が妻への生活費送金を停止したことを「兵糧攻め」と表現し、夫からの離婚請求を棄却した令和4年4月の家裁判決が話題となった。家事事件では裁判官の個人的価値観が判決を大きく左右する典型と言えよう。

“白ブリーフ判事”こと元裁判官の岡口基一氏は、この「離婚訴訟で請求棄却」について独自の見解を述べる(以下、岡口氏の寄稿)。

その判決に異議あり!,岡口基一

◆裁判官個人の価値観次第で離婚裁判は大きく左右される

 離婚訴訟は、裁判官の個人的な価値観が結論を大きく左右する。家庭裁判所の裁判官には、広い裁量が与えられているからだ。

 日本の離婚裁判は基本的には、夫婦関係が破綻していれば離婚請求を認める。破綻した夫婦の婚姻関係をそのまま続けさせても仕方ない──。そう考えて、あっさりと離婚を認める裁判官もいる。他方で、結婚という人生におけるもっとも重大な「契約」をしたのだから、そう簡単に離婚を認めるべきではないとして、なかなか破綻を認定しない裁判官もいるのだ。

 例外的に、夫婦関係の破綻が認定されても離婚請求が認められない場合もある。不倫やDV行為をして夫婦関係を破綻させておきながら、その者自身が離婚を請求するケースだ。自ら夫婦関係を破綻させた者に対する一種のペナルティとして、その者からの離婚請求をすぐには認めないということだろう。

 もっとも、この場合でも夫婦関係は破綻しているのだから、離婚を速やかに認めたうえで高額な金銭賠償をさせたほうがいいようにも思われる。そこで、このペナルティを科さず、不貞した妻からの離婚請求を認めた東京高裁の判決も平成28年にあった。ここでも裁判官の価値観が結論を左右している。

◆月23万円の生活費を送金

 今回取り上げる事案の夫は、報道によると妻と2人の子供のために毎日遅くまで働いていたが、夫婦関係が悪化したことから一人で家を出て別居を開始。妻に月23万円程度の生活費を送金するようになった。

 夫はその約1年後に離婚調停を申し立てたが、話し合いがまとまらず調停は不成立に。夫は妻への生活費の送金もしなくなったという。

 その後、夫が離婚を請求する訴訟を提起したところ、裁判官は夫婦関係の破綻は認めたが、夫が生活費の送金をやめたことを「兵糧攻め」と表現。これに対するいわばペナルティとして、夫の離婚請求を認めなかった。夫がこの訴訟中に過去の未払い生活費の全額を支払ったにもかかわらず、である。

 もっとも、夫婦関係が悪化し別居状態になったのは、この兵糧攻めが原因ではない。夫婦関係が悪化した後に生活費の支払いをストップしたということでしかなく、それに対するペナルティとして離婚自体を認めないというのはやりすぎではないか──そう感じる裁判官もいるだろう。判例雑誌に載ったこの事件の解説でも、兵糧攻めをペナルティとする裁判例は少ないことがわざわざ記載されている。

 では、この裁判官の判断が間違っていたのかというと、そういうことではない。家庭裁判所の裁判官にはこれくらい広い裁量が認められており、この事件の担当裁判官は、その裁量の範囲内でこういう判断をしたということ。そのため、この問題は未熟な裁判官に当たってしまうリスクの問題である「裁判官ガチャ」とはまったく異なるものだ。

 ただし、当事者にとってはどの裁判官に当たるかで結論が異なってしまうことに違いはない。家庭裁判所で裁判を受ける場合は、その裁判官がどういう価値観を持っているかを、その裁判官が過去にした判決などで事前調査しておくことが重要なのである。

<文/岡口基一>

―[その判決に異議あり!]―

【岡口基一】
おかぐち・きいち◎元裁判官 1966年生まれ、東大法学部卒。1991年に司法試験合格。大阪・東京・仙台高裁などで判事を務める。旧Twitterを通じて実名で情報発信を続けていたが、「これからも、エ ロ エ ロ ツイートがんばるね」といった発言や上半身裸に白ブリーフ一丁の自身の画像を投稿し物議を醸す。その後、あるツイートを巡って弾劾裁判にかけられ、制度開始以来8人目の罷免となった。著書『要件事実マニュアル』は法曹界のロングセラー
配信元: 日刊SPA!

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