
「〇〇ハラスメント」という言葉が次々と生まれる令和のいま、部下を持つ管理職の方々は、部下とのコミュニケーションに悩む場面も多いのではないでしょうか。「叱る」よりも「褒める」ほうがいいことは理解していても、いざ褒めようとすると、どう伝えるのがよいか迷ってしまうことも……。大学を二度中退し、アルバイトとして吉野家HDに入社後、社長に上り詰めた河村泰貴氏は、「実は褒められるのがあまり好きではない」と語ります。著書『自分以外のすべてがわが師 高卒バイトが2000億円企業の社長になれたわけ』(日経BP)より、同氏がその理由と効き目のある「褒め方」について解説します。
「褒める」社会になったが…心を動かす「褒め方」とは
かつて当社の組織には、褒めるという文化はほとんどありませんでした。店長時代に上司に褒めてもらった記憶はあまりありませんが、厳しく接していただいたおかげで鍛えていただいたと感謝しています。
時代は変わって、今はどちらかというと、叱ることより褒めることのほうが奨励されることが多いのではないでしょうか。しかし、この褒めるという行為、なかなか難しいですよね。皆さんはどんなことに気をつけて褒めていますか? 逆に、どんなふうに褒められたらうれしいですか?
わたしは、褒められることがあまり好きではありません。人間が素直じゃないからかもしれませんが、ほとんどがいわゆる「おべんちゃら」や社交辞令なのではないかと感じてしまうからです。
社長や会長という役割からすれば、わたしへの賛辞の多くは、実際にそうだと思いますが、ときとして、心からうれしく感じることがあります。それは、事実に基づいて、その方の率直な感情とともに伝えてもらったときです。
例えば、「昨日A店を利用したら、従業員のBさんがとても素敵な笑顔で接客してくれて元気をもらいました」というお言葉をいただいたときや、「あなたのお話のここがこういうふうにためになりました」と具体的な謝辞をいただいたときです。
褒めるときは具体的に褒める。これが効き目のある褒め方ではないでしょうか。さらに言うと、行為そのものだけを褒められることよりも、その行為の根っこにある価値観や考え方までが含まれていると、なおのことうれしいです。
前述の例で言えば、「Bさんはお客様に喜んでもらいたいという気持ちがあふれていました」とか、「Bさんのような方を育成できるこの会社の教育方針は素晴らしいですね」とか、「あなたの話そのものもためになったが、話しぶりから本当に人を大切にしているんだなということが伝わりました」などです。
なので、自分が褒めるときにもできるだけ具体的に、可能であればその背景まで含めて、褒めるように意識しています(言うほど簡単ではないですが……)。
上司や目上の人が好印象を抱く「褒め方」
これは、部下や目下の人を相手にしたときだけではありません。例えば、セミナーなどを受講して、講師の先生に謝辞を伝えるメールを送る際などにも応用可能です。ただ単に、「ありがとうございました」「勉強になりました」とだけ伝えても相手には何の印象も残りません。
わたしもときとして、そのようなメールをいただいたりすることがありますが、「勉強になりました」とだけ書かれている場合は、社交辞令と受け止めることが多いです。具体的に、どんな気づきがあったのかが書かれていると、受け取る側の印象が全く違います。相手に強い印象を残すことができれば、次にお目にかかったときに自分のことを覚えていてくれたりします。
ただ何となく漫然と褒めるだけではあまり効果はありません。「より具体的に」を意識してみてください。
「褒める」より「ありがとう」が効果的なシチュエーション
褒めることは大切、とは今や誰もがおっしゃることですね。皆さんも、さまざまな機会でそのようなことを聞いたことがあると思います。すでに述べたように、褒めるときは「具体的に」褒めることも大事ですね。
漠然と褒めるのではなくて、「〇〇さん、さっきお客様をお見送りするときの笑顔、素敵だったね」とか「〇〇君、前回一緒に働いたときよりおすすめが上手になったね」というような感じです。褒められて嫌な気持ちになる方はいらっしゃいませんものね。
チームやメンバーのモチベーションを維持向上させるうえでも、褒めることはとても大切であることは論をまたないと思います。
ただ、この「褒める」という行為、相手との関係性によっては少しアレンジが必要です。相手の方が自分のことを上位者として認めていない場合は、仕事に関する「褒め」はあまり効果がない。というよりも、素直に受け取ってもらえないことがあるのではないかと思うのです。
例えば、異動などによって店舗やエリアが変わったばかりのとき、まだお互いの関係性がそれほど深まっていないとき、年上や先輩の部下を持ったときなど、その方が(うわべだけではなく心から)わたしのことを上位者として認めていただけていない場合は、仕事に関する「褒め言葉」は効果が薄かったりします。
「褒め」も一つの「評価」なので、関係性ができる前に中途半端な「褒め」を使うと、「お前に何がわかるんだ」的な反発心を起こさせてしまう可能性もあります。
ではそんなときにはどうするか。「褒め」の代わりに「ありがとう」を使いましょう。「僕の休日に〇〇さんが〇〇をしてくれてうれしかったです。ありがとうございます」「〇〇さんがビシッと言ってくれて引き締まりました。ありがとうございます」などがその例。単に自分の感謝の気持ちを伝えるようにするのです。
これだと、相手を評価しているのではなく、単に自分の気持ちを伝えているだけなので、受け取ってもらいやすい。少なくとも、反発されるリスクは小さいです。
これ以外のケースでも、なんか照れくさいとか、急に「褒め」を使いこなすのが難しい、わざとらしく感じられてしまうんじゃないか、と感じたときなども同じく「ありがとう」を使うとよいでしょう。褒めることはコミュニケーションの質を良くしていくうえで、とても大切なことです。
仕事とは直接関係ないことで、相手が褒めてもらってうれしいと感じることを褒めることで、関係を良くしていく方法もあるのですが、ともすると「おべんちゃら」に聞こえてしまいます。そのため、使いこなすのはなかなか難しいので、自分の素直な感謝の気持ちを伝えることがよいと思います。
河村 泰貴
吉野家ホールディングス
会長
