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高市早苗氏の「ワークライフバランス捨てる」発言を称賛している人が見えていないもの

高市早苗氏の「ワークライフバランス捨てる」発言を称賛している人が見えていないもの

◆仕事に熱中していれば、自分自身と向き合わずに済む

 しかしながら、このように仕事(ワーク)の存在や役割を過大評価することに疑問を投げかけた人がいました。精神科医の神谷美恵子氏です。彼女の代表作『生きがいについて』で、こう書いています(以下、太字部引用)。

<男のひとは一応まともな職業につき、家族を養うことができれば、自分の生活は生きるに値するものと心のどこかで簡単にかたづけてしまうし、女のひとはなお一層そぼくに、一応平和な家庭を営み、家族そろって健康で仲よく暮せれば、その中心である自分の存在意識を十二分に感じてやすらっている。男のひとにしても女のひとにしても、単に社会的な役割を果たすだけで人間の生存意識のすべてがみたされるかどうか、一個の独立人格としての存在理由は何か、というような問いは意識にのぼらないのが一般であろう。それは一種の防衛本能のようなものかも知れない。なぜならば、うっかり本気でこういう問題に立ちむかうならば、今まで安全にみえていた大地に突然割れ目ができ、そこから深淵をのぞきこむような不安や不気味さにおそわれる恐れがあるからである。>(pp.30-31)

 これは、仕事なり社会や他人に説明のつく役割なりをしている方が、自分自身のことを深く考えずに済むから楽だということです。しかし、仕事をしている間はそれでやり過ごせても、自分自身とは何かという決定的な問いを先延ばしすることでもあるから、仕事の価値を高く設定して生きることは、非常に危険なことだと言っているのです。

 その裏返しとして、仕事に対する熱っぽくも無節操な信仰が生まれるわけです。

<社会的にどんなに立派にやっているひとでも、自己に対してあわせる顔のないひとは次第に自己と対面することを避けるようになる。心の日記もつけられなくなる。ひとりで静かにしていることも耐えられなくなる。たとえ心の深いところでうめき声がしても、それに耳をかすのは苦しいから、生活をますます忙しくして、これをきかぬふりをするようになる。>(p.40)

◆本当に“致命的なミス”だったのは…

 高市総裁の発言に共感している人たちに刺さるのではないでしょうか。あえて汚い言葉で言うならば、あんまり仕事仕事エラそうに言ってんじゃねえよ、という話だからです。スケジュールの空白を恐れ極端に仕事を詰め込んで忙しくしていることが一体何を意味しているのか、という問いも生むでしょう。

 だから、党員に対して発破をかけるためのただの比喩だったとしても、「馬車馬のように働いていただく」との言葉が国民の耳に届いてしまった意味は大きいのです。

 それを美徳として考えている、その前提が高市総裁に根付いていることが印象づけられたことこそが、致命的なミスなのです。

 さて、高市総裁に続いて挨拶をした石破茂前総裁が「大丈夫かいな?」と、冗談っぽくツッコんだ場面がありました。

 しかし、いまだ反響が止まない状況を見ると、どうやら冗談では済まなさそうです。

 保守的な思想ゆえに、多様性の時代の傾向に異を唱えたかった思いもあったのでしょう。しかし、その発想こそ反動というもの。

「馬車馬」発言は、高市総裁の掲げる“保守”に大きな疑問を投げかけたのです。

文/石黒隆之

【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
配信元: 日刊SPA!

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