
「非正規社員」という言葉に、あなたはどんなイメージを持ちますか? もし、その言葉の裏に「いつでも替えがきく労働力」という意識が潜んでいるなら、その組織の成長は止まっているかもしれません。 アルバイトからキャリアをスタートさせ、あらゆる職階を経験した吉野家ホールディングス会長の河村泰貴氏は、現代の労働市場が抱える「線引きの歪み」に異議を唱えます。本記事では、同氏の著書『自分以外のすべてがわが師 高卒バイトが2000億円企業の社長になれたわけ』(日経BP)より、労働区分が生む偏見について解説していきます。
「非正規社員」という言葉におぼえる“強烈な違和感”
新聞報道などで、「非正規社員」という言葉がよく使われるのですが、常々、この言葉にはものすごく違和感があります。「非正規」ってなんだよ!
正規か非正規かという分け方は、絶対におかしいと思う。吉野家では、F社員(フィールド社員)、エリア社員、G社員(グローバル社員)以外の従業員の方を「キャスト」と呼んでいますが、わたしが働き始めた頃は「パート」と呼んでいました。わたしは、この「パート」という呼び名がなんか好きでした。
当時はそこまで意識していませんでしたが、今思えば、吉野家においては、社員とアルバイトは、「フルタイム」か「パートタイム」かの違いだけで、さらに言えば、拘束時間だけの話ではなく、責任範囲が「フル(=店舗全体)」か「パート(=部分的、時間帯)」かの違いを表現している用語のように感じたからだと思います。
その後しばらくして、「パート」から「キャスト」へ呼称が変わりましたが(キャストという呼称も好きです)、今でも、わたし自身の気持ちのうえでは、社員とキャストさんの違いを考えるときは、この「パート」という考え方がしっくりきます。
吉野家ではパート出身の社員や幹部が多いワケ
ご家庭の事情など、何らかの理由でフルタイム勤務ができない、あるいは異動ができないというだけで、キャストさんも社員も違いはありません。吉野家においては、キャストさんも教育投資の対象です。
定型的な仕事だけを求めているわけではありません。一つのことができるようになればさらにその次というように新しい仕事を教え、任せます。ランクアップ制度もあります。また、事情や環境が変わって、フルタイムでも働ける状況になった方には、さらなるキャリアアップのチャンスも開かれています。このことは、当社においてキャスト出身の社員や幹部が多いことからも明らかです。
「非正規社員」は“非正規な存在”ではない
他方、世間で使われている「非正規社員」という言い方には、「単なる安価な労働力」「いつでも雇い止め可能」という考え方が透けて見えるような気がします。「価値の源泉である従業員に、正規も非正規もあるかよ!」と言いたいです。
パートタイムという働き方は、個々のライフステージに合わせて、さまざまな働き方を選べる、あるいは選択肢があるという意味で、とても有効な制度です。本来、この制度のあるべき概念は、そういうことではないのかと思います。「雇用の調整弁」「正式採用には至らない非正規な存在」という意味では決してないはずです。
もちろん、当社においても、福利厚生面など、社員とキャストさんとでは待遇面で差があり、果たしている責任の大きさにも違いがあります。現時点では、そこを全く同じにしようとは思っていません。しかしそれでも、吉野家は、キャストさんも社員と同じように大切な財産だと考えています。
「非正規社員」には、当社で言うキャストさんのような雇用形態以外にも、派遣社員や契約社員のような雇用契約形態の方も含まれています。特定の短期間だけ必要なスキルを提供してもらう派遣社員や、「特定の組織に属したくない」など労使の互いの利害が一致しているケースの契約社員など、さまざまな働き方の選択肢があることは良いことだと考えます。
けれども、正式採用や本採用を望んでいるのにその選択肢が与えられないというのは労働搾取です。それにしても「非正規」という呼称はどうにかならないのかと思いますね。
河村 泰貴
吉野家ホールディングス
会長
