勤務時間中に自作のボードゲームで遊び、部下の職員にも参加を強要した、また参加を断った職員を無視していたとして、愛知県稲沢市消防本部は4月、40代の消防士長を停職1か月の懲戒処分とした。
また、ゲームに参加していた部下ら9人についても、戒告や文書訓告などの処分を行っている。報道によると、問題となったゲームは勤務中や仮眠時間中に行われており、消防士長は業務日報への虚偽記載を指示したほか、発覚後には口裏合わせもしていたという。
ゲームは文字や数字が書かれたカードを組み合わせ、「しりとり」のように遊ぶ内容で、消防士長が自作して署内に持ち込んだという。参加した職員の中には計35時間にわたってゲームに加わっていたケースもあり、内部通報を受けた消防本部の調査で発覚した。
消防士長の行為には、法的にはどのような問題があるのだろうか。
ゲームへの参加強要や無視が「パワハラ」になる理由
パワーハラスメント(パワハラ)は「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上の必要性・相当性を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されている(労働施策総合推進法30条の2)。
労働法に詳しい荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所) によると、本件における「ボードゲームへの参加強要」と「参加を断った者を無視する」という行動は、上司から部下に対するものであることから「優越的な関係を背景とした言動」といえる。
また、これらの行動には業務上の必要性や相当性がない。さらに、労働者に身体的または精神的苦痛を与える行動であることから、労働者(他の職員ら)の就業環境を害するものといえる。
以上のことから、本件における消防士長の行為はパワハラに該当すると考えられる。
ただし、ゲームに参加を強要する行為や参加しなかった職員を無視する行為は、「犯罪」とまではいえない。
たとえば強要罪(刑法223条)は加害者から被害者に対して「害悪の告知」が必要とされるが、上司から部下に対し「参加しないと無視する」と述べる程度の行為については、害悪の告知に該当するとは評価しにくい。
民間でも懲戒処分の対象になるか
今回の事件は消防本部という地方自治体の組織で発生したが、もし民間の会社などでも同様に「上司が部下にゲームなどの遊びを強要する」というパワハラが発生した場合、会社側はその上司に懲戒処分を行うことはできるのだろうか。
荒川弁護士によると、懲戒処分が有効となるためには、就業規則などに懲戒処分の根拠規定があることが必要とされる。
パワハラに関しても、就業規則内に懲戒処分の根拠となる明確な規定が存在する場合には、懲戒処分が有効と評価される可能性が高い。ただし、その他の要件(手続きの適正性や処分の合理性・相当性)を満たすことも必要とされる。
一方で、明確な規定がない場合には、パワハラを理由とする懲戒処分の根拠規定を欠くとして、懲戒処分が無効となる可能性が高い。
なお、就業規則で「ゲームへの参加を強要したら~」とまで細かく規定する必要はなく、原則として職場秩序違反やハラスメント禁止を含む包括的な懲戒事由で対応可能だ。
民間企業では懲戒処分の根拠は「就業規則」である一方、地方公務員の場合には地方公務員法(29条)が懲戒処分の根拠とされ、具体的には各自治体で定める条例に基づいて懲戒手続きが進行する。
また、民間企業では労働者が懲戒処分に対し不服がある場合には労働審判や訴訟という手続きを取ることになる一方で、地方公務員は訴訟の前に人事委員会への審査請求を行うことが原則とされている。
部下は損害賠償を請求できるか?
冒頭で述べたように、本件では部下が上司からゲームへの参加を強要されるだけでなく、処分を受けるという不利益も被った。この点について、部下は上司や自治体に損害の賠償を請求することは可能なのだろうか。
荒川弁護士によると、ゲームを強要されたことについて、部下は上司に不法行為(民法709条)に基づく慰謝料(精神的苦痛に対する損害賠償)を請求することが検討できるという。また自治体に対しても、「職場環境を整備すべき」という安全配慮義務に違反したとして、債務不履行に対する賠償の請求が検討できる。
文書訓告などの処分については、その処分が違法・不当であるなら、処分によって受けた不利益を「損害」として請求することが理論上は可能だ。

