「労働組合に入ったらシフトを大幅に削減された...」
従業員が会社を相手どって訴訟を起こしたところ、裁判所は「このシフト削減は合理的な理由がないので違法だ」「会社は慰謝料約13万円を支払え」と命じた。
「シフト制だから会社は自由に勤務日数を減らせる」
現場では、こうした認識が半ば常識のように語られることがある。しかし、この裁判例は、その常識にブレーキをかけている。
以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)
事件の経緯
Aさんはアルバイトとして、介護事業や放課後児童デイサービス事業を営む会社の求人に応募した。
Aさんは、社長と副社長の面接を経て採用された。提出した履歴書には「週3日(1日8時間)を希望する」との記載があったものの、これが叶わなかったことが、後に裁判へ発展するひとつの原因となっている。
■ 希望していた「介護事業所での勤務」がスタート
Aさんは会社が営む事業のうち、介護事業所で勤務することを希望していた。
入社してから1年8か月ほどは、希望通り介護事業所で勤務していたものの、この間「利用者の求めに応じて自宅内の荷物を移動した」「入浴介助の際に利用者を風呂場に1人にした」ことなどを理由に、勤務態様について副社長から注意指導を受けている。
■ 介護事業所のほか、放課後児童デイサービスでの勤務も始まる
上記の注意指導が原因かは不明であるが、その後、会社はAさんを、放課後児童デイサービスでの勤務にも携わらせるようになった。介護事業所で働きたかったAさんは不満を持ったのであろう。9か月後には、社外の労働組合に加入して「主たる勤務先を介護事業所とするよう」団体交渉を行っている。
■ 放課後児童デイサービスだけの勤務になる
その4か月後には、会社はAさんを、放課後児童デイサービスだけに携わらせるようになった。介護事業所に携わらせたくない何らかの理由があったのかもしれない。Aさんは、この措置を「不当配転だ」と考えるようになった。
■ シフトの大幅削減
そこから3か月は、Aさんの希望をおおむね認めたシフトになっていた(週3日程度)。詳細は以下のとおりだ。
5月:13日(勤務時間 65.5時間)
6月:15日(勤務時間 73.5時間)
7月:15日(勤務時間 78時間)
ところが、それ以降、会社は下記のように大幅にシフトを削減した。
8月:5日
9月:1日
10月:0日
そしてAさんは10月30日、放課後児童デイサービスでの勤務に応じない意思を明確にし、その後、「シフトの大幅な削減は違法である」と主張して会社を提訴した。
裁判所の判断
Aさんの勝訴だ。裁判所の判断過程は以下のとおりだ。
■ 週3合意があったか
Aさんは「週3日(1日8時間)はシフトに入れるとの合意があった」と主張したが、裁判所は「その合意はなかった」と判断した。雇用契約書には「シフトによる」との手書き文字があり、週3日(1日8時間)はAさんの希望にすぎない、という認定だ。
■ シフトの大幅削減は違法
しかし、裁判所は、使用者のシフト決定権限を無制限なものととらえず、「合理的な理由」を求めて歯止めをかけている。すなわち「シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものなので、削減に合理的な理由がなければ違法」との判断基準を示した。
再度、Aさんのシフトを見てみよう。
5月:13日(勤務時間 65.5時間)
6月:15日(勤務時間 73.5時間)
7月:15日(勤務時間 78時間)
8月:5日
9月:1日
10月:0日
このような削減について、会社は、「Aさんは5月以前の団体交渉の当初から放課後児童デイサービス事業所での勤務に応じない意思を明確にしたのでシフトを組むことができなかった」と反論したが、裁判所は、「Aさんがそのような意思を明確にしたのは10月30日であり、団体交渉の当初から拒んでいたわけではない」と認定。
そして、裁判所は「会社はそのほかにシフトを大幅に削減した理由を具体的に主張していないため、本件の削減に合理的理由があるとはいえず、このようなシフト決定は、使用者のシフトの決定権限を濫用したものとして違法」と結論づけた。
計算方法は割愛するが、裁判所は会社に対して慰謝料約13万円の支払いを命じた。
最後に
本件のポイントは、「会社は無制限にシフトを減少できる」という発想が通用しない点にある。
たしかに、裁判所は「週3勤務の合意」は否定した。しかし、シフトに対する会社側の自由が無制限に広がるわけではない。実勤務実績が積み重なれば、それは労働条件として一定の重みを持つ。
今回でいえば、月13〜15日勤務という実態がありながら、突如として「0〜5日」にまで削減するには、合理的な理由が不足していたと判断されたのである。シフト制で勤務されている方の参考になれば幸いだ。

