「世帯合算」のしくみをうまく活用しよう
「高額療養費制度については知っています」という方は増えてきていますが、世帯合算については十分にご存じないケースもあります。
「同じ月に複数の病院で医療費がかかった」
「家族も医療費がかかった」
このような場合に、1か所で2万1,000円以上(70歳未満の場合)かかっていたら、高額療養費の世帯合算の手続きを行うことで、再計算され医療費が戻ってくる可能性があります。
限度額適用認定証やマイナ保険証では世帯合算は行えませんのでご注意を。
[図表2] 出所:『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)より引用
家族の場合は、同じ健康保険に加入していることが要件です。税金の医療費控除の家族の考え方(生計を一にする)とは違いますので、ご注意ください。
[図表3] 出所:『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)より引用
世帯合算は一人でも可能
「世帯合算」というと、「家族全員の医療費を合算する制度」と思われがちですが、実は一人でも適用できるというのは、知っておきたいポイントです。
がん治療の場合、入院治療したその月に通院で抗がん剤治療や放射線治療を継続するケースが多くあります。こうした場合、入院と外来の医療費を合算することができるのです。
例えば、次のような場合です。
[図表4] 出所:『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)より引用
もちろん、他の病院での治療も対象です。これらを合算することで、高額療養費制度の再計算が行われ、超えた分の医療費が実費で戻ってくるしくみになっています。
お知らせがない場合もある
合算の対象となる医療費があったとしても、全国健康保険協会(通称:協会けんぽ)などはお知らせがないこともあります。
時効は2年ですので、医療費がかかりすぎている月がないかを確認しましょう。
[図表5] 出所:『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)より引用
また、院外処方を出された外来診療科と、調剤薬局などの処方薬の代金については、いったんはそれぞれ高額療養費の自己負担額まで支払わなくてはなりませんが、合算して医療費の払い戻しを受けられる場合があります。
申請が必要な場合もありますので、加入している健康保険や共済に確認してみましょう。
[図表6] 出所:『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)より引用
「多数回該当」のしくみ
多数回該当のしくみが分かっていると、長期的な医療費の予測がしやすくなります。長期治療の強い味方になってくれる制度です。
治療が長期になる時は「多数回該当」
がん治療は、診断直後から3ヵ月間は検査・手術・入院などで費用がかさむ時期ですが、4ヵ月目以降になると治療の進み方や経済的な負担が変化していきます。
予定していた手術や放射線治療、抗がん剤治療が終了し、経過観察となる方もいれば、通院での抗がん剤治療が続き医療費の支出が続く方もいます。このように長期治療となった場合に適用されるのが「多数回該当」です。
[図表7] 出所:『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)より引用
手続きは不要なのですが、ちょっと複雑です。理解しておくことで医療費の変動の予測に活用できますので、どのような時に減って、どのような時に増えるのかを知っておきましょう。
直近12ヵ月以内に3回高額療養費に達していたら、4回目以降は約半額(収入区分によっては半額ではありません。図表8~9を参照)になります。
[図表8] 出所:『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)より引用
[図表9] 出所:『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)より引用
[図表10] 出所:『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)より引用
〈よくある質問〉
Q.年収が上がって、9月から高額療養費の適用区分が「エ」から「ウ」に変わりました。多数回該当の回数に影響しますか?
A.高額療養費の自己負担限度額は所得区分によって変わりますが、該当月時点での自己負担限度額に達していれば、多数回該当の回数に入ります。今回の場合は所得区分が変わったとしても自己負担限度額に達していますので影響はございません。
[図表11] 出所:『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)より引用
〈よくある質問〉Q.加入している健康保険が「協会けんぽ」から「国民健康保険」に変わりました。多数回該当の回数に影響しますか?
A.加入している健康保険が変わると、多数回該当の月数はリセットされます。そのため、「協会けんぽ」に加入していた期間の分は、残念ながら回数は引き継がれません。「国民健康保険」に加入した月から、改めて数え始めることになります。
黒田 ちはる
看護師FP®
