2月8日に投開票が行われた衆議院議員総選挙について、議員定数の配分や選挙区割りが憲法に違反するとして、三竿径彦(みさお みちひこ)弁護士らのグループ(三竿グループ)が国に選挙の無効を求めた訴訟の第1回口頭弁論が、5月20日、東京高裁で開かれた。
三竿グループは、1962年に越山康弁護士(故人)らにより始まった「定数是正訴訟」の活動を引き継ぎ、衆院選のたびに無効訴訟を提起してきた。裁判所はそのつど請求を棄却し続けてきたが、判決理由中において国会に対し是正を促し、実際に制度改正につながってきた経緯がある。
本期日では、原告側と被告側双方の意見陳述が行われ、弁論は即日結審した。判決は6月12日に言い渡される。
「一票の格差」ではなく参政権の「有無」が問題と主張
三竿グループの訴訟は、他の弁護士グループ(「升永グループ」とよばれる)が提起する選挙無効訴訟と一くくりに、「一票の格差」訴訟として語られることが多い。しかし、原告の三竿弁護士は、問題の本質はそこにはない、と主張する。
三竿弁護士:「私たちが問題にしているのは、『一票の価値』の問題ではない。国民一人ひとりに『参政権』そのものが『ある』か『ない』かの問題だ。
これは人の命に『0.5』があり得ないのと同じだ。『一票の価値』の問題に落とし込んで『1:2』以内ならいいなどと手を打って片がつく話ではない。
ごく大雑把に説明すると、人口20万人のA選挙区、人口40万人のB選挙区からそれぞれ1人の代表が選ばれるとする。この状態について、私たちは『B選挙区では一票の価値が半分』と考えるのではない。
40万人の選挙区では、そのうち20万人には代表を選出する権利すなわち参政権が奪われている、選挙民として数えられていない、無視されていると考える」
山口邦明弁護士も、個人の尊厳と参政権の強い結びつきを強調した。
山口弁護士:「一人ひとりの『どういう社会に住みたいか』という政治的意見は、みんな同じ価値を持っている。
その人が考えていること自体に、絶対的に不可侵の価値があり、これを犯すことはできない。選挙権に『差』を許容するなどという考え方自体、到底許容できない」
原告らは、こういった観点から、議員一人ひとりが同じ数の国民を代表するように、人口に比例して定数を配分することが憲法の要請だと主張している。
衆議院の小選挙区選挙制度は、①全国47都道府県への議員定数の「配分」と、②各都道府県内での選挙区の「区割り」という2段階で構成される。原告側は、その両段階で憲法違反の状態が生じていると主張する。
「各都道府県への定数配分」段階での「アダムズ方式」の問題
まず、第一段階の①各都道府県への定数配分については、2024年10月の衆院選から「アダムズ方式」が採用されている。これは、各都道府県の人口をある数「x」で割り、その商の小数点以下を切り上げて算出した議席数の合計が、総定数とほぼ同じになるような「x」を見つけて配分を確定する計算方法である(※)。
※出典:高橋和之「立憲主義と日本国憲法 第5版」(有斐閣)P.364
アダムズ方式では、各都道府県の人口を共通の「除数」で割った商の小数点以下を切り上げて定数を算出する。端数を切り上げるため、事実上、全ての都道府県に「+1」議席が配分される効果があり、人口の少ない県に有利に働く構造となっている(【図表】参照)。
原告側は、この方式には小規模な都道府県を優遇する構造的な偏りがあり、人口比例の原則に反すると批判する。原告はアダムズ方式について、上述のように、結果的に各都道府県に「+1」議席が配分される点をさし、「大法廷判決で批判されてきた『1名別枠配分』と実質的に同じ」と指摘している。
さらに、原告の國部徹弁護士は、この方式が採用された経緯自体が不透明であると主張する。
國部弁護士:「アダムズ方式を勧告した『衆議院選挙制度に関する調査会』の議論は、最初から『アダムズ方式ありき』で進められたものだ」
調査会の公式な「議事概要」と、当時オブザーバーとして参加していた逢沢(あいさわ)一郎衆議院議員(自民党)がSNSに投稿した内容との間に食い違いがあると指摘。逢沢議員は以下の通り投稿していた(2014年11月20日)。
〈20日14時から「衆議院選挙制度に関する調査会」。第4回。明日解散になりますが、佐々木座長のもと、みっちり2時間議論。今日のテーマは較差問題。都道府県較差の是正方式の絞り込み。アダムズ方式、ラウンズ方式を中心に検討を深める事を確認。安定的に2倍以内にしないと。選挙後に再開です。〉
しかし、議事概要にはそのような内容は記載されていなかった。
この点について、原告側は真相を明らかにするため逢沢議員の証人尋問を申請したが、裁判所は「必要がない」とのみ理由を付して却下した。
「区割り」と「較差論」の限界
第二段階の「区割り」について、現行の区画審設置法は、選挙区間の人口差が「2倍以上とならないようにする」と定めている。
今回の訴訟対象となった第51回総選挙では、有権者数が最も少ない鳥取1区(22万368人)と最も多い北海道3区(46万2088人)との間で、最大2.097倍の較差が生じた。
しかし原告側は、最大値と最小値のみを比較して「1:●」という数字を問題にする従来の「較差論」では、不平等の実態を見逃してしまうと批判する。原告復代理人の永島賢也弁護士は、289ある全選挙区の較差の「分布の偏り」に目を向けるべきだと主張する。
永島弁護士:「較差が1.6倍から1.8倍の範囲にある選挙区は132区にのぼり、全体の45.6%を占めている。さらに、1.6倍以上の差が開いている選挙区は、全体の半数を超え、6割弱に及んでいる(【図表2】参照)。
最大と最少を比較するだけでは、その間にある多数の選挙区について、『投票価値の差』がどれだけ開いているのか、その分布状態がどれほど偏っているのか、という最も重要な点が見逃されてしまうという問題がある」
訴状では、ドイツ(全国基準人数の±15%以内)やイギリス(同±5%以内)など、より厳格な基準を設ける諸外国の例を挙げ、日本の区割り基準の緩さが不平等を拡大させていると指摘している。
議論がかみ合わず
これに対し、被告の国側は、選挙制度の決定は国会の広範な裁量に委ねられているとする従来の最高裁判例(昭和51年(1976年)4月14日)をもとに、現行の区割り規定は合憲だと反論した。
国側は、現行制度がアダムズ方式の採用や10年ごとの国勢調査に基づく見直しを定めており、「投票価値の平等の要請を調和的に実現し、かつ、これを安定的に継続することのできる制度」だと主張。今回の最大較差2.097倍についても、制度の合理性を失わせるほど著しいものではないとの見解を示した。
この反論は、原告側の主張と議論がかみ合っていない。なぜなら、原告側が「投票価値の平等」を問題としていないのに対し、国側は「投票価値の平等」「較差が著しいか」という問題の立て方を前提に立論を行っているからである。
なお、今回の第一回口頭弁論期日では、他の弁護士グループの代表格である升永英俊弁護士が原告側の「補助参加人」(※)の訴訟代理人として弁論を行った。その中で、升永弁護士は、その意図は不明ながら「一票の格差」「投票価値の平等」の議論に立脚し、原告側の立論を「壮大なる誤り」と激しく論難した。
※補助参加:他人間に係属中の訴訟の結果について利害関係を有する第三者が、当事者の一方を勝訴させることにより自己の利益を守るため、訴訟に参加すること。被参加人の意思に反しても行うことができる。原告側によれば、本訴訟において補助参加について一切了承していないとのこと。
この事実からも、原告側のロジックは「一票の格差」「投票価値の平等」論とは根本的に性質が異なるものであることは明らかといえる。
三竿弁護士は、この、議論がかみ合わない状況について、「50年前に最高裁が打ち立てた判断の枠組みを数学の公式のように扱い、そこに代入すれば答えが出るようになってしまっている。国はその枠組みの中で粛々と主張しているだけだ」と分析した。
また、國部弁護士は、被告側が「国会の立法裁量」を強調している点について、次のように批判した。
國部弁護士:「国会に広範な立法裁量があるというのは明確な誤りだ。
定数不均衡であるということは選挙制度が歪んでいることを意味し、その状態で行われた選挙によって選出された議員で構成される国会は、民意を適正に反映したものといえず、制度の歪みを是正することが期待できない。広範な裁量を認めることは論理的に不可能だ」
国側の反論の「問題点」
被告側は、「憲法が要求する投票価値の平等は、選挙制度を決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、(中略)他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきもの」とし、「国会の裁量権の行使として合理性を有するものである限り、それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩をもとめられることになっても、憲法に違反するものとはいえない」と主張している。
ここで、「他の政策的目的」の内実は明らかにされていない。しかし、従来からよく見られる議論は、「地方と都会の格差を是正するため、地方からより多くの代表を出すべき」といったものである。
これに対し三竿弁護士は、最大較差が生じているのが「鳥取1区」と「北海道3区」であるという客観的事実を挙げ、「都会と地方で不平等な状態が生じているわけではない」と指摘した。
そのうえで、政策的な配慮が国民の基本的な権利である参政権の平等を侵害してはならないという考えを強調した。
三竿弁護士:「被告側がいう政策的目的が、仮に『地方からより多くの代表者を出すべき』という意味だとしたら、それは間違いだ。
アメリカの裁判所の言葉にもあるように、木や草や動物に投票権を与えているわけではない。人間の頭数を基準にする以上、人口が少ない県は代表を少なく、人口が多い県は代表を多くしなければならないのは当然だ。
もし地方に都会との格差の問題があるならば、定数配分以外の方法で解決すべき筋合いのものだ」
この点について、國部弁護士は、仮に平等を犠牲にして地方を優遇すべきというのであれば、その政策目的の妥当性について、国会で正面から徹底的に議論されるべきだと主張した。
國部弁護士:「もしも、定数配分について地方を優遇したいと考えるのならば、なぜ地方を優遇したいのか、どのような事実があって地方は冷遇されていると言えるのかということをちゃんと議論をすべきだ。
また、その結果、都市が冷遇されることについては、それでいいのかどうか、冷遇されることに対しての代償措置も含め、きちんと議論しなければならないはずだ」
比例代表選挙についての違憲の主張も
原告らは小選挙区だけでなく、比例代表選挙についても複数の問題点を指摘し、無効を訴えている。
主な争点は以下の通りである。
①アダムズ方式の採用:11の選挙ブロックへの定数配分に、小選挙区と同様にアダムズ方式が採用された。原告らは、もともと採用されていた「ヘア式最大剰余法」より偏りが大きい「改悪」だと批判している。
②重複立候補制度と惜敗率:小選挙区で落選した重複立候補者の比例復活順位を決める際に用いられる「惜敗率」は、小選挙区の得票率のみで算出される。これは、比例ブロック全体の有権者の意思とは無関係な結果で当落が決まる不合理な制度であり、憲法に反すると主張している。
③ブロック議員数の不平等:小選挙区選出議員と比例代表選出議員は「不可分一体」であるとし、各ブロック内の小選挙区議員数と比例議員数を合算した「ブロック議員数」も、人口に比例して配分されるべきだと主張。現状では近畿ブロックで2人、南関東と東京で各1人不足するなど、不平等が生じていると指摘する。
小選挙区選挙、比例代表選挙いずれについても、判決は6月12日午後3時から東京高裁で言い渡される。

