栃木県で発生した強盗殺人事件で、指示役とみられる20代の夫婦が逮捕された。
逮捕の際、母親の傍らには生後7か月の長女がいたという。報道によれば、連絡が取れる親族がおらず、長女は保護者のいない「要保護児童」として、児童相談所に引き渡された。
両親がともに犯罪被疑者や受刑者となった場合、残された子どもは今後どのように扱われるのか。たとえば、のちに親族と連絡がとれた場合、その親族には長女を育てる法律上の義務が生じるのだろうか。弁護士に聞いた。
事件の経緯と残された乳児
事件は、5月14日午前9時過ぎに発生した。栃木県上三川(かみのかわ)町の会社役員男性宅に複数人が押し入り、親子3人が死傷した。
通報から約30分後、警察官が現場近くで16歳の少年を発見し、強盗殺人容疑で逮捕。これを足がかりに、県警は20日までに、さらに3人の16歳の少年を同容疑で逮捕した。県警は、この少年4人が住宅に押し入った強盗の実行役だったとみている。
そして、4人の供述などから「指示役」として浮上したのが、横浜市港北区に住む無職の竹前海斗容疑者(28)と妻の美結容疑者(25)だった。
警察は、複数の防犯カメラ映像をつなぐ「リレー捜査」などで2人の足取りを追跡。17日未明、羽田空港で海斗容疑者を、同日、美結容疑者を横浜市内のビジネスホテルで発見し、逮捕に至った。その際、ホテルで美結容疑者と一緒にいたのが、生後7か月になる長女だった。
両親が逮捕され、ほかに連絡が取れる親族などがいなかったため、長女は保護者のいない「要保護児童」として児童相談所に引き渡されたという。
親族に扶養義務は生じるのか
両親が犯罪被疑者となった長女は、今後、被疑者らの親族のもとに受け渡される可能性もあるのだろうか。
刑事事件・民事事件ともに多く対応する安達里美弁護士は、「今回の事件では、子どもから見て祖父母や曽祖父母といった直系血族が見つかれば、法律上、『生活扶助義務』は発生する」と解説する。
「法律上の扶養義務は、夫婦や親子間の『生活保持義務』(民法752条、760条)と、それ以外の親族間に生じる『生活扶助義務』(民法877条1項)に大別されます。
後者は、自身の生活に余力がある範囲で、対象の親族を助ける義務を指します。そのため、祖父母や曽祖父母が見つかったとしても、実際に扶養義務が認められるのは、あくまで祖父母側の生活に経済的な余裕がある場合に限られます。
また、仮に義務が認められたとしても、強制できるのは金銭的な援助(扶養料の支払いなど)が限度であり、子どもを実際に自宅に引き取って育てる義務まではないと考えられています」(安達弁護士)
なお、被疑者の兄弟姉妹(子どもから見た伯父や叔母)にも「生活扶助義務」は生じ得るという(民法877条2項)。
「民法上は、3親等内の親族にも扶養義務を負わせることは可能です。ただし、これは『超レアケース』であり、認められることはほとんどありません」(安達弁護士)
引き取り手がない場合、子どもはどうなるのか
今後もし親族などが現れず、引き取り手が見つからなかった場合には、長女は誰に・どのように保護されるのか。
扶養する親や親族がいない子どもを育てる仕組みは、大きく分けて2通りある。ひとつは里親やファミリーホームによる「家庭養護」。もうひとつが、児童養護施設や乳児院などによる「施設養護」である。また、親が同意した場合や親権を喪失した場合などには、養子縁組が行われることもある。
しかし、これらの制度的な受け皿は、現状、十分に整備されているとは言えないと安達弁護士は指摘する。
「児童養護施設には地域によって定員ひっ迫があり、退所後の自立・就労支援にも課題があります。里親・養子縁組家庭への委託は増加傾向にあるものの、国の目標にはなお届いておらず、支援を必要とする子どもに適切な養育環境を迅速に確保する体制は十分とはいえません」
そのうえで安達弁護士は、今回の事件で逮捕された夫婦について「小さい子どもがいて、明らかにすぐに露見するような犯罪をする理由が理解できません」と憤りをにじませる。
また「子どもにとってはつらい経験もあるかもしれませんが、長い人生を考えれば、別の適切な養育者のもとで愛情を受けて育った方が、長女にとって幸せではないかと個人的には思ってしまいます」と慮った。
当然だが、両親がどれほどの罪を犯そうが、子どもには何ら責任はない。
こども基本法は「家庭での養育が困難なこどもにはできる限り家庭と同様の養育環境を確保することにより、こどもが心身ともに健やかに育成されるようにすること」(3条)と定めている。
保護されている長女が適切な養育者のもとで、健やかに、愛情を受けて育っていくことを願うばかりだ。

