
健康に長生きするためには、加齢による身体の不調や痛みを受け入れるのではなく、日々正しく身体を使い、生活の質を高めることで、齢を取っても身体が壊れない生活を送れるという認識を持つことが大切です。本記事では、青沼 暁典氏の著書『薬や手術は必要なし!腰・膝・股関節痛を治す 自己治療(セルフメンテナンス)』(幻冬舎MC)より、日頃の生活習慣の見直しと、自己治療(セルフメンテナンス)の重要性について解説します。
痛みを強める要因を遠ざける
身体の痛みは、その日の体調や環境によっても強まることがあります。医学的に見れば患部の状態は変わっていないのに、忙しくて疲れがたまった日や寒い日には痛みが増す、というのはよくあることです。また心配ごとがあったり気分がすぐれなかったりする日にも、身体の痛みがいつもより強く感じられたりします。姿勢や動作に気をつけ、ストレッチや筋トレを続けていても痛みが思うようにとれないときは、こうした間接的に痛みを強めてしまう要因がないかもチェックし、できるだけなくしていくことも痛み改善の助けになります。
負担を分散し、疲れをためないどんな作業でも、長時間続けると疲労が蓄積し、それが痛みの大きな原因になります。例えば、腰や膝の痛みがなかなかとれないと訴える患者さんに、最近何か身体に無理をかけることをしませんでしたか?と聞くと「そういえば週末に庭の草取りを1時間しました」とか「午前中ずっと家事をしていました」という答えがよく返ってきます。これらは明らかに〝やりすぎ〞です。やるべきことを目の前にするとついがんばって、一気に片付けてしまおうとする気持ちは分からなくもありませんが、それよりも自分の身体のことを気遣うほうを優先させてほしいのです。そうすれば草取りにしろ家事にしろ、少ししたら休憩をとるとか、午前と午後、あるいは数日に分けて少しずつするなどして負担を分散し、疲れをためないやり方を工夫することで、痛みを予防できることに気づくはずです。
家事を例に挙げれば、朝食づくりや洗濯は午前のうちにしなければならないにしても、掃除は午後に回せるはずです。その掃除も、一日で家じゅうきれいにしようとせず、今日はリビング、明日はキッチンといったように小分けにすれば負担を減らせます。
ところが私の医院に来る患者さんには、午前に家事をひととおりやって、午後はゆっくりするという生活サイクルを長年、なんの疑問も持たず続けている人がとても多いのです。これでは若いときなら問題なくても日々負担が蓄積しますし、高齢になると腰や膝、手、足が痛くなるのは当たり前です。
私自身の経験から言えばどんな作業でも15分から長くても30分を目安にひと区切りし、合間に休憩をはさむのが良いと思います。たった10〜30秒であったとしても、休憩をとるほうがとらないよりもずっと身体への負担を減らせます。かがんで作業していたのなら伸びをしたり、パソコンをのぞきこんでいたなら首を起こして見上げたりすれば、関節まわりや筋肉の緊張がほどけ、負担の蓄積を防ぐのに効果的です。
ただし15〜30分はあくまで目安であり、自分にとって無理のない作業量を見極めることが大切です。例えば重い荷物を持たなければいけない場合、10分なら持ち続けられるけれどそれ以上はきつい、と思ったら、10分で必ず休憩を入れるようにします。自分がちょっとがんばりさえすればよい、と無理をすると、その無理は必ずあとになってから痛みとなって表れてきます。
私がつねづね疑問に思うのは、食事の量だったら誰でも「このくらいなら食べられる」「これは自分にとっては多すぎ」といったように自分の適量が分かっているのに、労働量となると自分の限界があまり分かっておらず、がんばりすぎてしまう人がとても多いことです。食べすぎが身体にとって良くないのと同じように、動きすぎ、負担のかけすぎも身体に良くないことをもっと認識してほしいと思います。
作業に集中して休憩時間をとるのを忘れがちな人は、タイマーを活用するのも一つの手です。15分など時間を決めてセットし、アラームが鳴ったら休憩をとるようにします。音が周囲の迷惑になる環境なら、目につくところに時計を置くだけでも時間を意識しやすくなります。
休憩時間になったら痛みや疲労感がなくても休むことも大切です。今日は身体が楽だからと頑張ってやってしまおうとすると、身体が壊れる原因になります。自覚症状がなくても身体には負担がかかりすぎているからです。
近年の猛暑続きで熱中症予防への啓発が盛んになり、「喉が渇く前に水分補給する」重要性が一般にも浸透してきていると思いますが、実は身体にも全く同じことが当てはまります。つまり「疲れる前に休む」ことが発症や悪化を防ぐにはとても大切なのです。
がんばることが美徳とする考え方が、日本には根強く浸透しているように思いますが、高齢化社会の今、それを守ろうとしては年を重ねてから自分がつらい思いをすることになります。いかに無理せず、自分の身体を壊さず生きていけるかをもっと一人ひとり考えて行動することが、長寿で健康に生きていくためには大切なのです。
正しい姿勢や動作が「健康で長生き」をかなえる
今の社会は、高齢になると寝たきりになりやすいものという前提で、病院にしろ介護施設にしろ、そうなってしまった人の受け皿をつくることに重点がおかれているように感じています。しかし私は、寝たきりにならないための予防策をとることがより重要だと思います。普段の姿勢や正しい身体の使い方を意識して生活すれば、一生健康で過ごすことができるということを、これまでの診療経験から分かったのです。
世の中全体が、痛みが出るのは年をとるとある程度は仕方のないものという認識のもと「痛みとどう付き合うか」という考え方にとらわれているように思えますが、これは間違っていると私は考えます。そうではなく、原因を明らかにし、対策を立て、健康管理をきちんとすれば、身体が壊れない生活を送れるという認識を持つことが大切なのです。
正しい姿勢や動作を身につけることは、単に今ある痛みだけをとるためではなく、一生を健康で長く生きられるようにするためです。将来、杖や車椅子に頼らずに済むためにはどうすべきか、また、すでに杖を使っている人がそれを必要としなくなるには何が必要かを私は常に考え、そのための生活指導に日々取り組んでいます。
整形外科で治療している多くの疾患は病気ではなく、生活習慣によって引き起こされるもので、正しい身体の使い方を学べば自然治癒力を活かして治すことができます。
特に、若い頃から正しい身体の使い方を身につければ、将来、杖や車椅子が必要になることや寝たきりになる人は大幅に減るはずです。ですから行政レベルで、正しい姿勢や動作を子どもの頃から教える健康管理が必要だと考えています。例えば、小学校の授業で正しい姿勢や身体の使い方を教えるなどです。
一人ひとりが自分の身体の使い方にもっと意識を向ければ、長寿をまっとうできる元気な高齢者が増え、満足度の高い老後を過ごせる社会になっていくと私は信じています。
