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警察の「拳銃発砲ルール」はどうなっている?   警官が現場で迫られる「ギリギリの判断」の難しさ

警察の「拳銃発砲ルール」はどうなっている? 警官が現場で迫られる「ギリギリの判断」の難しさ

10日夕、東京都世田谷区若林2の路上で、一人の警察官が引き金を引いた。

午後6時20分ごろ、警視庁北沢署地域課の男性巡査長(36)は、警視庁から不審な軽トラックの捜索要請を受け、該当車両を発見。停車を求めながら追跡を始める。しかし軽トラックは停止せず、住宅地の路地でパトカーに追突した。

巡査長は停止した軽トラックの荷台に乗り、運転手らを確保しようとする。ところが軽トラックは急発進。「止まれ、撃つぞ」と警告したが、車は止まらなかった。

巡査長は荷台の上から拳銃を1発発砲。弾は軽トラックの天井に当たったとみられるが、発砲によるけが人はなかった。

軽トラックを運転していた容疑者(20)と同乗の少年(17)は、公務執行妨害容疑で現行犯逮捕。少年はその深夜に釈放されたが、署は理由を明らかにしていない。

北沢署は「拳銃使用が適切か、詳しい経緯を調査して判断する」とコメント。断定を避けているのは、単なる慎重さではなく、日本における拳銃使用規定の厳格さを反映している。

「撃っちゃイカン」という組織の空気

日本の警察官が拳銃を使用できる場面は、法律によって厳密に縛られている。

警察官職務執行法7条は、犯人の逮捕・逃走防止、自己や他者への防護などのために「合理的に必要と判断される限度」での武器使用を認めている。ただし、人に危害を与えることができる条件は、死刑または長期3年以上の拘禁刑に当たる凶悪な罪を犯したと疑うに足りる充分な理由がある場合など、限られている。

さらに「警察官等拳銃使用及び取扱い規範」には、発砲前に相手へ予告することが原則として義務付けられている(急迫の事態など一定の例外あり)。今回、巡査長は「止まれ、撃つぞ」と予告した上で発砲しており、この点では手続きに沿った対応だったといえる。

「私の意見としては、少々やりすぎだと感じています。というのも、拳銃使用については警察官等拳銃使用及び取扱い規範に厳格に定められており、凶悪犯の犯人の逃走防止などに対してのみ、拳銃を使用することができるとされているからです」

こう見解を述べるのは元警視庁の警察官で『警察官のこのこ日記』(三五館シンシャ)の著者、安沼保夫氏だ。法による拳銃の扱いの厳格さを裏付ける証言だが、同氏はそのうえで次のように補足する。

「拳銃を使用すれば全国ニュースで報道され、賛否の的となるため、多くの警察官には『使ってはいけないもの』または『使うと面倒なもの』という刷り込みがあります。一方で、かつて訓練で用いられた教務用ビデオには『撃つべきときは、撃つ』というフレーズが繰り返し登場しました」

このフレーズは、拳銃使用を躊躇したまま殉職した警察官が少なからずいたことへの, 組織としての反省だったとされている。

逆にいえば、現場では「撃つな」という無言の圧力と、「撃つべきときは撃て」という公式の訓示が、警察官を常にアクセルとブレーキの狭間に置いているともいえる。

「なぜ荷台に乗ったのか」という根本的な疑問

今回の事案では適正使用かどうかの議論が生じたが、その一因は発砲そのものより、その前の行動にある。

安沼氏は、不審車両に近づく際には「運転席または助手席側から、急ハンドルを切っても接触しない場所から近づくのが鉄則」と指摘。さらに、逃走された際は無理な追跡を避け、無線で組織的に対応するのが基本という。

その観点からすれば、巡査長が軽トラックの荷台に乗り込もうとした判断は、初期対応として疑問が残る。安沼氏は「なぜ軽トラの荷台に乗ったのかが最も気になった点だ」と述べており、「やるなら運転席側からガラスクラッシャーで破壊すべきではなかったか」とも言及している。

「妥当ではあるが、最善ではなかった」という評価

同様事案との比較も参考になる。茨城県警では、14日午後10時30分ごろ、空き店舗に侵入した男がバールで警察官を威嚇。その際、拳銃を構えると男が投降したという。茨城県警下妻署はこの件について、「拳銃の使用は適正だった」と評価している。

安沼氏は「バールで抵抗しようとした犯人に向け、拳銃を構えたところ、犯人が投降したとあります。そのとおりであるならば、文句なしの適正使用です。ちなみに発砲しなくても、相手に構えたところから『使用』にあたります。

警視庁のシミュレーター訓練でも似たような想定がありました。茨城県警でも同様の訓練を行っていると思いますので、訓練の成果が発揮されたと言えるでしょう」との見解を述べた。

一方で、北沢署は「調査して判断する」と述べるにとどめている。その背景には、逃走阻止のための発砲という今回の事件の性質上、判断が分かれうる要素があるのだろう。

最後に安沼氏は、こう付け加えた。

「発砲した巡査長を責める気にはなれないし、拳銃使用が妥当かどうかを外野があれこれ言うのも違うと思います。万が一、特別公務員暴行陵虐罪に問われ、訴追されることがあっても『私はこう判断してやむなく発砲した』と堂々と証言してほしいです」

今回の発砲事案をどう評価するかは一義的には決められない。あとになって称賛されることもあり得るし、その逆もあろう。確かなのは、緊迫の現場では警察官は厳格な法的要件も踏まえ、常にギリギリの判断を迫られているということだ。

■安沼保夫(やすぬま・やすお)
1981年、神奈川県生まれ。明治大学卒業後、夢や情熱のないまま、なんとなく警視庁に入庁。調布警察署の交番勤務を皮切りに、機動隊、留置係、組織犯罪対策係の刑事などとして勤務。20年に及ぶ警察官生活で実体験した、「警察小説」では描かれない実情と悲哀を、著書につづる。

配信元: 弁護士JP

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