5月10日に、JR物井駅(千葉県四街道市)で木更津市の男子中学生(14)が列車の非常用ドアコックを操作し、運行を6分間遅延させたとして現行犯逮捕された事案が報道されました。
逮捕容疑は「偽計業務妨害罪」(刑法233条)で、法定刑は「3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」とされています。
ただし被疑者は20歳未満であるため、成人と同様の刑事裁判ではなく、家庭裁判所で保護処分(=更生を目的とした処遇)についての審理を受けることになるでしょう。
列車の運行を意図的に遅延させると、犯罪についての刑事責任だけでなく、鉄道会社に対する損害賠償責任も負う可能性があります。
特にラッシュ時の列車を遅延させた場合、「億単位」の損害賠償を請求され得るとの説も耳に入ることがありますが、実際はどうなのでしょうか?
本記事では、列車を故意に遅延させた人が負う損害賠償責任につき、法的な観点から解説します。(弁護士・阿部由羅)
列車を故意に遅延させた場合の損害賠償リスク
線路内に立ち入る、不必要に非常停止ボタンや非常用ドアコックを操作するといった行為により、列車を故意に遅延させる事案はしばしば発生しています。
これらの行為は「不法行為」(民法709条)に当たり、行為者は鉄道会社に生じた損害を賠償しなければなりません。
賠償すべき金額は、鉄道会社に生じた損害の実額です。たとえば、次に挙げる損害などが含まれます。
- 振替輸送の費用
- 遅延や運休によって失われた売上
- 対応に当たった従業員の人件費
- 壊れた設備の修繕や点検に要した費用
- 利用客に対する補償に要した費用 など
実際の損害額がいくらになるかは、遅延等による影響の大きさによって異なります。
鉄道会社の設備は大規模で利用客も多いので、数千万円以上の損害が生じることも十分あり得ます。「億単位」の損害賠償責任が発生するといった説も、あながち大げさとは言い切れません。
「常習的」という事情が与える影響
冒頭で紹介した事案の報道によれば、鉄道会社の職員は、男子中学生が非常用ドアコックを操作して列車を遅延させた場面を、約9回も目撃していたとのことです。
もし職員の証言が事実だとすれば、男子中学生が列車を遅延させるたびに、鉄道会社には損害が生じていたと考えられます。
数分間程度の遅延であれば、鉄道会社の損害はそれほど多額でないと思われますが、何回も繰り返されると損害額も累積していきます。鉄道会社が男子中学生に対し、多額の損害賠償を請求しても不思議ではありません。
もっとも、列車を遅延させた事実を立証する責任は、損害賠償を請求する鉄道会社側にあります。
現行犯逮捕された日を除き、別の日になされた行為についても立証できるか否かは、防犯カメラなどの客観的な証拠が残っているかどうかによって左右されることになるでしょう。
加害者が子どもでも、列車の遅延について損害賠償責任を負うのか?
冒頭の事案において、列車を遅延させたのは14歳の男子中学生でした。中学生などの子どもでも、列車の遅延について損害賠償責任を負うのでしょうか?
この点、民法712条では「責任能力」のルールが定められています。未成年者(18歳未満の者)が他人に損害を加えた場合、本人が責任を負うかどうかは、責任能力の有無によって決まります。
「責任能力」とは、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を意味します。冒頭の事案で言えば、「非常用ドアコックを勝手に操作すると、鉄道会社に迷惑をかけるかもしれない」ということを理解できるかどうかが、責任能力の有無の分かれ目です。
一般に、年齢的な責任能力のボーダーラインは「10~12歳程度」と考えられています。したがって中学生であれば、知的発達が遅れているなど特段の事情がない限り、責任能力は認められる可能性が高いです。
責任能力があれば、中学生であっても、列車を遅延させた本人が鉄道会社に対する損害賠償責任を負います。
これに対し、未就学児や小学校低学年の子どもについては、責任能力が認められない可能性が高いと思われます。責任能力がなければ、本人に対して損害賠償責任を問うことはできません。
ただしこの場合は、保護者(両親)などの監督義務者が本人に代わって損害賠償責任を負うものとされています(民法714条1項)。
中学生本人が支払えない場合、親に請求できる?
前述のように、中学生が列車を遅延させた場合は、責任能力が認められ、本人が損害賠償責任を負うことが多いと考えられます。しかし、中学生が多額の損害賠償を支払えるだけのお金を持っているケースはほとんどないでしょう。
責任能力がある以上、損害賠償責任を負うのは本人であり、鉄道会社は本人に対してのみ損害賠償を請求できます。両親などに対して損害賠償を請求することは原則としてできません。
ただし実際には、両親が任意で損害賠償を肩代わりするケースもあると思われます。
両親が肩代わりをせず、本人もお金を持っていない場合は、鉄道会社がすぐに賠償金を回収することは難しいです。分割で支払わせるなどの対応を検討することになるでしょう。
なお、本人が自己破産をしたとしても、故意に列車を遅延させたことによる損害賠償責任は免責されない可能性が高いと思われます(非免責債権、破産法253条1項2号)。
■阿部由羅(あべ ゆら)
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。

