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「勝手に課税してくれ」と開き直る店主…現金商売の脱税を見抜く切り札は『インフォメーション』。潜入調査で明かされる売上除外の実態【元マルサの税理士が解説】

「勝手に課税してくれ」と開き直る店主…現金商売の脱税を見抜く切り札は『インフォメーション』。潜入調査で明かされる売上除外の実態【元マルサの税理士が解説】

トクチョウ班の情報収集は、繁華街で流行っているお店を見つけ出し、必要に応じて潜入調査を行い、ターゲットを絞り込む形で進めます。繁華街を徘徊し、「おでんの名店」を発見して潜入調査を行った数ヵ月後、調査に入ったところ、潜入調査時の飲食代がレジの控えに載っていないことが判明しました。しかし、除外した証拠があるのはわずか1日分だけであり、しかもその日の確定申告の期限は翌年の3月15日です。脱税の証拠が乏しい状況の中、どのようにしてターゲットに修正申告を迫るかが課題となります。

潜入調査で脱税の端緒を掴む

調査官「裏帳簿は出してこないでしょうね」

筆者 「説得次第だが出さないだろう。調査額は相手の目を見て、息遣いを感じて、額に滴る汗を見ながら決めていいよ。どこで折り合いをつけるかが勝負だ」

調査官「妥当な線はどのくらいですか?」

筆者 「それを決めるのが調査官だ。ところで、ここ数週間の売上は確認しているの?」

調査官「申告額より10%程度良いみたいです。先日、再訪問し、昨日までの売上を見せるよう迫ったら面食らっていました。まさか、今年の売上を再提示させられるとは思っていなかったようです」

筆者 「着手後の商況から判断して、年間500~600万円の売上除外がありそうだね。3年間で900万円の修正申告ならハンコウを押すよ」
 

調査の最終局面。脱税の証拠を突きつけ「経常的に売上を抜いている」と詰め寄ると、ターゲットは「勝手に課税してくれ」と開き直った。

調査の着手前に2回の潜入調査を実施したのだが、1回目の潜入調査は警戒されていたようで売上に計上されていた。2回目は計上されていない。しかしながら、潜入調査をしたのは今年になってから。そのため、売上を修正すれば過少申告にはならない。

威力を発揮したのは『インフォメーション』。現金商売の切り札だ。税務職員は自主的に自腹で調査資料を収集している。

たとえば、家族や同級生との私的な飲食費の支払い時、不明瞭な料金やレジを打っていないなど売上に疑問を持つ場合がある。その時に作成するのが『インフォメーション』。店名、支払年月日、支払額を記載して資料化する。

あくまでも私的な飲食なので領収書をもらうこともなく、警戒されることはない。トクチョウ班の潜入調査でも「効果測定のために領収書はもらっていない」と記載すれば、領収書がなくても捜査費として認められるのだが、潜入調査で警戒されないように情報収集するには、それなりの経験を積まなければならない。
 

レジペーパーがつながらない

繁華街でおでんの名店を見つけ出し、潜入調査を実施してから無予告で踏み込んだ。この店にはレジがあり、潜入調査でもレジを打っていることを確認している。

店に保管されていた2ヵ月分の注文伝票とレジペーパー(控え)を借り受け、税務署に戻ってからチェックすると、注文伝票とレジは合致している。しかし、1回目の潜入調査は売上に計上されているものの、2回目が見当たらない。考えられるのは、営業後に注文伝票を破棄してレジを打ち直す手口だ。

注文伝票には連番が付されていないため、一部を破棄しても税務署には分からない。そうすると、一見客だった1回目の潜入調査は警戒して細工をしなかったのだろうか。着手前の分析では、店の利益率は同業者と乖離しておらず、売上除外の確かな証拠が見つからなければ早期撤収を考えなければならない。
 

筆者 「レジペーパーの金額だけではダメだよ。注文伝票も良く見てごらん。支払額が同額でも別人の飲食代金かもしれない」

調査官「確認しました。注文内容が潜入記録と同じですから、1回目は間違いなく売上に計上されています」

筆者 「2回目の注文伝票は捨てたのかね。どちらもレジを打っていたはずだから、手口はレジの打ち直しか?」

レジペーパーは毎日切り取って、注文伝票と一緒に輪ゴムで留め、現金仕入の領収書と合わせて営業日ごとに封筒に入れて保管していた。しかし、レジペーパーは日付順につながってロールになっている。切り離すと散逸の原因になるため違和感があった。

筆者 「なんでそんな保管状態なの?」

調査官「青色申告会から指導を受けたといっています」

筆者 「おかしいね。聞き間違えたのかもしれないが、ふつうロールは切り離さない」

この点について店主は、「日ごとになっていると、注文伝票と突き合わせるときにチェックしやすく、仕入の領収書も一緒に封筒に入れてあるので、記帳するときにも便利。保管方法は青色申告会で教わりました」と説明していた。

筆者 「なるほど。切り取る理屈はつけているようだね」

調査官「説明に無理はありませんでした」

筆者 「試しにレジペーパーを日付順に並べてみな。本当に保管するだけが目的なら前後がつながるはずだ」

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