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「コープみらい」配達員が車両内“排尿”で大騒動も…ドライバーらは“同情” 切実すぎる物流業界の「トイレ」事情

「コープみらい」配達員が車両内“排尿”で大騒動も…ドライバーらは“同情” 切実すぎる物流業界の「トイレ」事情

先月26日、生協の宅配サービス「コープみらい」において、同社の商品が委託配送先のドライバーの尿に汚損されるという問題が発生。利用者がSNSに投稿し、世間に大きく知られる事態になった。

コープみらい側の発表によると、委託配送先の配達員が、商品を入れる発泡スチロール製の空き容器に排尿。商品の上段に積んだところ、空いていた穴から尿が漏れ、下段の冷蔵商品を汚損させたという。

どんな商品においても問題ではあるが、よりによって食品配送の現場で起きた出来事に、SNS上では「気持ち悪い」「信頼問題。許せない」「故意なのでは」など、批判的な反応が多く見られた。中にはコープみらいの利用をやめるとの声もあり、ことの重大さを物語る。

しかしその一方、驚くこともなく冷静にその出来事を捉え、同情の声すら上げる人たちがいた。ほかでもない、同業のトラックドライバーたちである。(本文:橋本愛喜)

「トイレに行けない」ドライバーの労働環境

世間にとっては滅多にないことかもしれないが、終日道路の上で過ごすトラックドライバーたちにとって、排泄をトイレでできないケースは、それほど特異なことではない。

今回の事案に対し当事者のトラックドライバーたちから驚きがなかったのは、多くのトラックドライバーが「トイレで用が足せない」という経験をしているからだ。

4年前、筆者がSNSでトラックドライバーに取った簡易アンケートでは、「立ち小便をしたことがあるか」との問いに、82.2%のドライバーが「ある」と回答(n=314)。さらに、「容器などに用を足したことがあるか」との問いにも32.6%が「ある」と答えた(n=267)。

今回問題になったコープみらいの配達員は「商品を入れる容器」に用を足したとのことだったが、運送業界では「ペットボトル」がメジャーで、尿入りのペットボトルのことを「尿ぺ」や「黄金のペットボトル」とする俗語も定着している。

使えるトイレがない、時間帯指定でトイレ休憩が取れない…現場の悲鳴

今回のコープみらいに限らず、BtoCの「配送」を担う配達員たちが車内や荷台での排泄に至る要因は、大きく2つ考えられる。

1つは、配送ルート周辺にトイレがないこと、そしてもう1つは、トイレに行く時間がないことだ。

住宅街を回るルートの場合、意外にも周辺にコンビニなどトイレを借りられる施設が少ない。大きなオフィスビルにおいても、建物の奥のほうにあるトイレを目指す時間的余裕がないこともある。

何より配送ドライバーたちにとって大きな足かせになっているのが「時間帯指定」だ。

12〜14時の時間帯指定をした消費者に12時1分に配送すると「その時間帯指定だったら普通13時だろ」というクレームが入るほど消費者は時間にわがままで、そして厳しい。これが「遅刻」ともなれば、1分でも激しいクレームとなり、問答無用でSNSに拡散されることもある。

時間帯指定のなかでも最も忙しくなるのが「午前中」だ。

「時間帯が広い午前中に指定すれば配達員も楽なのでは」と親切心で午前中を指定している人もいるが、実は宅配の配達員の午前中は、もはや「配達の乱」状態。

ECサイトの元配達員はこう答える。

「地域や担当エリアによって程度はまちまちですが、それでも午前中は配達前に集配所で荷物を積み込む作業があるうえ、通勤ラッシュで道が混む。それに、個人も会社もその日最も早い時間で荷物を受け取りたい人で指定が多いんです。他社さんたちとの宅配ボックスの争奪戦もある」

コロナ禍や高齢化により、宅配の需要が伸びている昨今、多い時で1日に200個近くの荷物を配達する配達員もいる。

雨に濡れ、路上駐車の取り締まりに怯え、再配達に肩を落としながらも荷物を運び切らねばと走り続ければ、食事休憩さえもままならなくなり、毎度おにぎりやサンドイッチ、菓子パンなど片手に配送しつづける人も少なくない。そんな状況下で、トイレ休憩をとるのは簡単なことではないのだ。

長距離ドライバーはコンビニにも駐車できない?

しかし、運送業界において今回のようなBtoC輸送の配送ドライバー以上に深刻なトイレ問題を抱えているのが、BtoB輸送を担う中・大型トラックのドライバーたちだ。

一般の人々にとって運送業で対面するほとんどが宅配などの配達員であるため、「運送業=宅配」と思われがちだが、国内荷物の総輸送量でいうと、宅配はわずか7%以下。90%以上は、物流センター間や、工場から倉庫などの企業間輸送なのだ。

この企業間での輸送は、一度に大量の荷物を運ぶことになるため、トラックは配送で使われる軽や小型トラックではなく、中・大型トラックであることがほとんどだ。

しかし、この中・大型トラックは、その車体の大きさがゆえに、一般車両用の駐車マスには入れることができない。

つまり、たとえコンビニがあっても、専用の駐車場がなければ停まることができず、ひいてはトイレも使うことができない。

さらに、この企業間輸送のドライバーがトイレ問題の被害者になる大きな要因がある。「荷待ち」だ。

大きな物流センターや倉庫の前に、トラックが長蛇の列を成している光景を目撃したことがある人も少なくないだろう。

トラックドライバーは、荷主に指定された時間通りに到着しても、「呼ばれたらすぐに入庫できるところで待っていろ」と、事実上、路駐での待機を指示され、何時間も待たされる実態がある。

国の調査によれば荷待ちの平均は1.5時間とされているが、筆者がこれまでに取材してきたなかで最も長いのは21時間半。

当然、そんな環境にはコンビニはもちろん、トイレなどない。「来たもの順」での荷待ちの場合、前が進めば自分も進まなければならないため、少し離れたところにトイレがあっても、その場を離れるわけにはいかないのだ。

そうすれば必然的に立ち小便、またはペットボトルなどの容器に用を足さざるを得なくなるのだ。

なかには真夏の炎天下、周辺住民に迷惑がかかるからと「アイドリングストップ」で待機させるケースもあるなか、トイレに行けないからと、飲む水の量を制限するドライバーもいる。

荷主へと伸びるトラックの長蛇の列(読者提供)

ドライバーらの尿意との闘い

この「尿ぺ」について取り上げるたびに、一部の男性ドライバーから聞こえてくる声がある。それが「容器に男性器が入らない」というものだ。

「ペットボトルはドライバーにとって一番身近にある容器ですが、飲み口が狭いんですよね。車内で用を足さないといけない時はきまって緊急時。自分は焦って周辺を汚してしまうこともあるので、満タンの尿入りのペットボトルを目撃するたびに『器用だな』と思ってしまう」

同じことを思うドライバーはかなりいるようで、なかには別の容器を使用しているとの声も。

「私が使うのは400mlのコーヒー缶ですね。500mlのペットボトルよりは量が入らないですが、限界まで我慢しなければギリセーフ。蓋つきなので車内に置いておいても漏れる心配もありません」

400ml蓋つきのコーヒー缶(読者提供)

別のドライバーはこう話す。

「僕は牛乳パックに用を足しています。飲み口を自由に広げることができるので失敗がない」

トイレ問題においては「尿」ばかりがフォーカスされがちだが、もっともやっかいなのは「便意」だ。突然前触れもなくやって来るうえに、処理に困る。とりわけ、お腹が緩い人にとっては死活問題だ。

「これ必須です」と送ってくれたドライバーの写真が、彼らのトイレに対する問題の深さを物語っていた。

車内に必ず置いておくという正露丸(読者提供)

女性ドライバーもまた…

一方、体の構造上、ペットボトルへの用足しも、(やってはいけないことではあるが)立ち小便もできないドライバーが存在する。女性だ。

訪れた荷主先や工場にはまだまだ男性用トイレしかないところも多い。そのため、女性は男性以上にトイレの確保が難しい状況にあるのだが、無論、女性とて急にトイレに行きたくなることはある。

「車内排泄」を経験したことがあるという女性元ドライバーが、イラストを描いてくれた。

「簡易トイレがない時は、こうして用を足していました」

女性元トラックドライバーが描いてくれた用足し時の様子

そこには、レジ袋を前後に持ちしゃがむ人の姿。

女性の場合は定期的に生理もくる。ひどい渋滞にはまった際、車内でナプキンを替えたことがあるというドライバーもいる。

「故意なのでは」疑われるドライバーのモラル問題

今回の騒動において、SNSでは「(ドライバーが)故意に商品へ排尿したのでは」という声も少なくない。配達員の担当エリアが決まっている状況下、すぐに本人の特定に至るような状況で故意に商品に排泄することは一般的には考えにくいが、BtoC、BtoBいずれの現場にも、モラルに欠けたドライバーが一部に存在することも間違いない。

これまでにも、すぐそばにトイレがあるにもかかわらず、停めた自分の車両に向かって立ち小便をする様子や、無謀なあおり運転、荷物を地面にたたきつけるドライバーの姿などを筆者もSNSで何度目撃したか知れない。

トラックドライバーのトイレに関するモラル問題で、最も深刻な問題なのは、「尿ぺのポイ捨て」だ。物流センター沿いの道路や、SAPAの大型駐車マス付近を歩くと、実に多くの尿ぺが投げ捨てられている。

緊急措置としてやむを得ずペットボトルなどに用を足すことは、決して悪いことではない。が、排泄物を車内ですることと、それをポイ捨てすることは全く別の問題だ。排泄物のポイ捨ては、人格のポイ捨てでもある。

「マナー問題」で片付けてきた世間

こうしてドライバーに多くの問題行動がみられるのは、業界の門戸が広く「多様な常識」が集まるという側面もあるだろう。無論、これらのモラル違反は絶対に許すことができない行為であり、本人たちには言い訳の余地は与えるべきではない。

だが、物流を利用し、その恩恵を享受するわれわれ世間の側が、彼らの行動を「モラルの問題」として片付け、「ドライバーはマナーが悪い」というレッテル貼りをすればいいフェーズはとうに過ぎている。

先述通りトラックドライバーは、運転だけでなく食事や休憩も同じ狭い車内で摂ることが多い。

誰だって排泄物のある空間で仕事をすること自体、嫌なはずだ。ましてやそこで、食事を摂る気にはなれない。モラルを守らせるならば、モラルが守れる環境をつくる必要があるだろう。

大阪トラックステーションの「尿入りペットボトル」捨て場(読者提供)

運送業界は、これまで「顧客至上主義」の美名のもと、労働者をないがしろにしてきた。

無料でもない送料を「送料無料」と小売り業の販売促進に利用され価値を下げられてきた。1分でも遅れればクレームの嵐。商品は無傷でも段ボールに汚れがあるだけで返品、時に弁償すらさせられる。

有事の時だけ「エッセンシャルワーカー」と聞こえのいいネーミングを付けるのではなく、彼らの労働環境を安定させるには、まずサービスを享受するわれわれ消費者が理解することが必要になる。

宅配個数の激増、働き方改革で激変した労働環境、新型コロナウイルス禍や石油危機といった社会情勢による影響などで、現場は心身ともに疲弊しきっている。

「顧客至上主義」のもと、生理現象すらまともに処理できないドライバーたち。誰かが犠牲になるサービスは、もはやサービスでもなんでもない。いい加減「インフラを守る人たちのインフラを守る」時期に来ているのではないだろうか。

■橋本愛喜(はしもと・あいき)
現ライター。元工場経営者・トラックドライバー。大型自動車免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。現在はブルーカラーの人権・労働に関する問題や、文化差異・差別・ジェンダーなどの社会問題などを軸に各媒体へ執筆・出演中。

配信元: 弁護士JP

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