東京地裁は、結婚前に妻が購入したトイプードルについて、別居後に夫が負担した飼育費は夫婦共有財産たる犬の管理費に当たるとして、ペットフード代など約17万5000円の半額の支払い等を妻に命じた。夫婦は離婚訴訟が続いており、犬の財産分与が済んでいないことも考慮された。
“白ブリーフ判事”こと元裁判官の岡口基一氏は、『東京地裁ペットの「養育費」請求訴訟』について独自の見解を述べる(以下、岡口氏の寄稿)。
◆本来なら家裁が審理すべき案件に、地裁が判決を出す愚の骨頂――

飼っていたトイプードルを置き去りにして家を出ていった妻に対し、別居中の夫がペットフード代など犬の管理費を求めた裁判の判決が、4月30日、東京地裁で出された。
トイプードルは、妻が結婚前から飼っていたペットで、妻名義だったが、別居後は、家に一人残された夫が世話をしていたという。
裁判では、妻が家を出た後に夫が負担したとされる、ペットフード代をはじめ、トリミング代、通院費、保険料の計約17万5000円を夫が請求していた。なお、夫婦は別居中ではあるものの、離婚はしていない。
東京地裁は、この犬を「夫婦共有財産」であると認定した上で、その管理費は夫婦で折半すべきだとして、夫の請求のうち半額だけを認めた。なるほど、犬についても、子供と同様、「養育費」の問題が生じる、というロジックである。そのため、「ペットの養育費」を巡る裁判としてマスコミでも紹介された。
しかし、この裁判には大きな問題がある。何か? それは、養育費について審理判断すべきは、地方裁判所ではなく、家庭裁判所だからだ。
本来、家裁で扱うべき事件が地裁に訴えを提起された場合、地裁としては、その訴えを却下するか、家裁に移送しなければならない。もっとも、この犬は、妻が婚姻前から飼っていたものであり、しかも妻名義なのだから、「夫婦共有財産」ではなく、妻の固有財産である可能性もある。もしそうなら、その管理費は妻が全額負担すべきであり、夫は妻に対し、その請求ができる。そういう事件であれば、地裁で審理しても構わない。おそらく、原告訴訟代理人は、そういう趣旨でこの訴えを地裁に提起したのであろう。
◆この非訟手続は、地裁では扱えず、家裁で行うべきもの
しかし、東京地裁は、この犬を「夫婦共有財産」と認定してしまった。そうなると、話はまったく変わってくる。夫婦共有財産である犬の管理費をどう負担するかは、単純に半分と決めればよいものではない。原則として、夫婦それぞれの収入で按分した額になる。ただし、その原則に従わなくてもよく、額は裁判官が裁量で決めることができる。しかも、夫婦の共有財産はこの犬だけではない。それ以外のものも含め、全体として夫婦の負担割合を決めるのが通常である。こうした手続を「非訟」という。そして、この非訟手続は、地裁では扱えず、家裁で行うべきものなのである。
したがって、今回の事件でも、裁判官がこの犬を「夫婦共有財産」と判断したのであれば、その時点で、もはや地裁では審理判断できない。訴えを却下するか、家裁に移送すべきであった。実際、この手の訴えを却下した地裁の判決は数多くある。
訴訟と非訟の違いは、民事訴訟のイロハのイである。法学部の学生でも普通に知っている。それなのに、東京地裁という日本で一番大きな裁判所で、このような判決が平気で出されてしまう……。裁判官ガチャの問題は、本欄で何度も取り上げてきたが、悲しいかな、裁判官の劣化はここまで進んでいるのだ。
<文/岡口基一>
―[その判決に異議あり!]―
【岡口基一】
おかぐち・きいち◎元裁判官 1966年生まれ、東大法学部卒。1991年に司法試験合格。大阪・東京・仙台高裁などで判事を務める。旧Twitterを通じて実名で情報発信を続けていたが、「これからも、エ ロ エ ロ ツイートがんばるね」といった発言や上半身裸に白ブリーフ一丁の自身の画像を投稿し物議を醸す。その後、あるツイートを巡って弾劾裁判にかけられ、制度開始以来8人目の罷免となった。著書『要件事実マニュアル』は法曹界のロングセラー

