ジャーナリストの石戸諭氏は、辺野古沖転覆事故はいまや船長個人の責任追及にとどまらず、抗議船の運航を支えてきた運動体や、それを十分に監視できなかったメディアの責任まで問う局面に入ったとみる。そのうえで、「忖度を断ち切り、移設反対運動から死者を出した社会的責任を厳しく追及しない限り、再発防止には繋がらない」と訴える(以下、石戸氏の寄稿)。

◆刑事告発で動き出した真相究明
米軍基地の移設工事が進む名護市辺野古沖で同志社国際高校の生徒らを乗せた抗議船2隻が転覆してから2か月、事態は新たな局面を迎えた。転覆した「不屈」の船長・金井創氏は亡くなったが、国交省は金井氏を海上運送法違反の容疑で刑事告発した。同省関係者に取材をすると、今後、抗議船を運航していたヘリ基地反対協議会関係者、特に「平和丸」船長へと告発が続く可能性があるという。この事故ではメディアに対する批判が根強く残るが、状況は変わりつつある。私も出演する朝日放送「newsおかえり」では遺族や関係者から映像提供を受けて、20分超の検証報道を行った。国交省の動きや業務上過失致死傷容疑での捜査を進める海保の動きも特ダネとして報じられた。真相究明に奔走する記者たちは確実にいるのだ。
メディア批判には見当違いのものも多いが、理解できる批判もある。その一つが辺野古移設反対に立つ沖縄メディアや、主張を同じくする本土のメディア人からの追及が甘いというものだ。私も地元紙の報道を逐一読んでいたが、続報は総じて弱い。沖縄のメディア関係者に取材して見えてきたのは過剰な「忖度」だ。
同協議会は沖縄メディアにとっては重要なネタ元であり、取材名目で辺野古沖まで抗議船に同乗することもあった。「無償」もしくはそれに近いかたちで乗ることもあったという証言も得た。つまり、抗議活動と地元メディアの距離は近すぎると言えるほどに近い。彼らは安全面、法令遵守意識も含めて杜撰な管理の実態を知りうる立場にいた。
◆近すぎた抗議運動と沖縄メディア
沖縄では今秋に県知事選が控える。辺野古移設反対を掲げる玉城デニー知事に、保守派が擁立した元総務官僚の新人・古謝玄太氏が挑む構図が固まるなかで、現職だけに不利な報道を避けたいという思いが働くこともあっただろう。ここで問われているのはメディアと権力との距離感だ。同協議会の構成団体には日本共産党も名を連ねているが、彼らは玉城知事を支える県政与党である。基地反対という重要な主張は同じだとの理由で権力批判が甘くなっていい、という理屈は存在しない。
捜査の進展を待つだけでなく、忖度を断ち切り、移設反対運動から死者を出した社会的責任を厳しく追及しない限り、再発防止には繋がらない。運動の理念に「命こそ宝」という言葉がある。命を大切にしていないのは、安全管理を疎かにする抗議船運航を容認していた人々だ。沖縄メディアからの続報にも注目したい。

【石戸 諭】
ノンフィクションライター。’84年生まれ。大学卒業後、毎日新聞社に入社。その後、BuzzFeed Japanに移籍し、’18年にフリーに。’20年に編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞、’21年にPEPジャーナリズム大賞を受賞。近著に『「嫌われ者」の正体 日本のトリックスター』(新潮新書)

