◆NYで「家賃ゼロ」の衝撃のカラクリ

「私が倹約家なことや子どもがいないことに加えて、家賃がかかっていないのも大きい気がします」
まさかの「家賃ゼロ」の理由は次のとおり。
「タウンハウス(※)を丸ごと購入し、私たちは1階部分に住んで、他の部屋を貸し出しているんです。ニューヨークでは家賃はもっとも高額な支出ですが、これにより家賃が無料、あるいは黒字になっているので、生活費が大きく抑えられているのだと思います」
日本で言うところの賃貸併用住宅の「タウンハウス投資」は、家賃ゼロで暮らしながら収益を得る最強のスキームかもしれない。
※タウンハウス……ニューヨークでよく見るレンガ造りの縦長の住居で、ここに数世帯が住んでいることも珍しくない。

「数年前に『安いものを選ぶのは、“自分はそれだけの価値しかない”と言っているようなこと』という言葉に出合い、一理あるなと思ったんです。もちろん日々の節約も必要ですが、『いつかこれを食べよう』『いつかこういう暮らしをしよう』とただ待っているだけでは、『いつか』は永遠に来ない。まだ見ぬ『いつか』ではなく、行動するのは『今の自分』なのだと40代後半に差し掛かって思うようになりました」
◆チップは大盤振る舞い、残高を気にせずクレカ払い……NY流お金の使い方

「家賃補助のセクション8、フードスタンプ、低所得者向け医療のメディケイドなど、福祉制度は手厚い。また民間ボランティアも盛んで街角には、余った食料を入れて誰でも持ち帰れる“コミュニティ冷蔵庫”もありますね。
日本では福祉の恩恵を受けることを “恥ずかしい”と考える人が多いそうですが、こちらでは“当然の権利”と受け止められています。むしろ中流層のほうが支援から漏れて苦しい立場に追い込まれている印象です」
あっちさんが折に触れて感じるのが、アメリカで暮らす人々の「お金に対する捉え方」の違いだという。
「アメリカ人と一口で言ってもさまざまですが、私が見る限り、特にニューヨークの人は貯蓄を日本人ほど重視せずに、お金を使う人が多い印象です。“宵越しの金は持たない”江戸っ子気質というか(笑)」
支出を管理する家計簿アプリを使う人もあまり多くないとか。
「他者に対しても気前がいいですね。チップ文化が根付いているのでクリスマス時期には美容師やドアマン、マンションの管理人、配管の修理工など身近な人にそれぞれ100ドル以上ものチップを渡したりします。
私のパートナーも決して余裕があるわけではないのに、道で凍えるホームレスに手袋や防寒ブランケットなどを買って配り歩いたりしていました。チップは多少、義務感から渡している感もありますが、それでも『感謝の想いを表現したい』という心の表れだと思います。そして色々なステージにいる人と混在しているので、『自分も色々な人に助けられて生きてきたので、できる時は自分も助ける側に回る』というギブの精神を持った人も溢れているのがニューヨークかな、と思います」
物価高と景気後退に直面するニューヨーク。だが、そこで暮らす人々を支えるのは節約や悲観論ではなく「なんとかなる」の精神なのかもしれない。
【あっち】
NYでファッションデザイナー、テクニカルデザイナーとしてアメリカの企業に勤務22年、ブルックリン在住。(Catherine Malandrino, Club Monaco, Donna Karan, DVF, 自社ブランドIDeeeN New Yorkを経て現在 Supremeに勤務)。YouTubeではニューヨークの日常、ニュース、経済関連など現地民ならではの情報を発信。アメリカ経済の問題がわかりやすく解説されていると好評でチャンネル登録者数10万人(2025年10月現在)。初の著書『ニューヨークとファッションの世界で学んだ 「ありのままを好きになる」自信の磨き方』(KADOKAWA)が好評発売中
<取材・文/アケミン、撮影(インタビュー)/藤井厚年>
【アケミン】
週刊SPA!をはじめエンタメからビジネスまで執筆。Twitter :@AkeMin_desu

