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「即日休職診断書出します」オンライン診療で“乱発”の実態も 本来は「経過観察」欠かせないが…安易な発行に戸惑う現場の医師

「即日休職診断書出します」オンライン診療で“乱発”の実態も 本来は「経過観察」欠かせないが…安易な発行に戸惑う現場の医師

当日退職、5月病、6月病(新・5月病)…。新入社員にとって、入社3か月は環境変化が心身にズシリとくる、ナーバスな時期だ。

昨今は上司に注意されたり、怒られたりすると、メンタルに支障をきたし、そして精神科へ駆け込む若者も珍しくないという。入社3か月で、都内の精神科を訪れた新社会人のNさん。

「営業職が向いていない、上司に怒られてばかり、会社に行くのがつらい…」。担当した精神科医に“症状”をこぼしたNさんの来院の目的は「休職診断書」だ。

医者は患者に求められた場合、診断書を発行する義務がある。だが、休職が必要かの見立てはあくまでも精神科医の裁量次第。そこに明確な基準はないが、担当医が出し渋ると…。

※この記事は、関東X県の精神科救急病院に勤務する現役精神科医・駒木爽氏の書籍『精神科医おどおど日記』(三五館シンシャ)より一部抜粋・構成しています。

20代の新社会人が仕事の不適応を相談に

朝8時半、自宅から電車を乗り継いで「こころのクリニックS」に出勤する。救急病院が、自傷行為の危険が差し迫った人、妄望に支配されて暴れ回る人などを相手にする「嵐の航海」だとすれば、こちらは大量の乗客を運ぶ「定期航路の操船」といえる。

午前・午後40人ずつを診察し、多い日だと1日100人を超える。診察ピーク時には行列ができるラーメン屋並に患者が列を成す。午後6時に勤務が終わるころには「燃え尽きた…真っ白な灰に…」となる。

灰になりかけつつある17時すぎに飛び込みでやってきたのは、20代男性のNさん。瞼までかかる重めの前髪の彼は、4カ月前に大学を卒業したばかりの新社会人だ。

「4月に今の会社に入ったんですけど、企画部志望だったのに営業に配属されちゃったんです。しばらくがんばってたんですけど、上司には怒られてばっかりだし、お客さんのクレームも多くて、営業向いてないなって」

声の調子は暗いものの話し方はハキハキしており、思考の進みは問題なさそうだ。

「最近、夜に仕事のこと考えると眠れなくなったり、朝になるとお腹痛くなって、会社に行くのがつらいんです。もう仕事を休みたいです。休職の診断書って、書いてもらえますか?」

医者は患者に求められた場合、診断書を発行する義務がある。実際に会社での業務がストレスになり、病状が悪化する可能性が高ければ、「自宅療養が必要」という休職診断書を作成する。

「休職診断書」を出すか見極めるために

ただ、いきなり休職診断書を書いてしまうと、会社はその日から本人を休ませなくてはいけなくなるため、業務上支障が出るケースもある。そもそも「休職の診断書」を出すためにはもう少しNさんの症状を見極めたい。

「休日はちゃんと休めていますか?」

「休みの日は友だちとフットサルしたりします。仕事がないと気持ちがスッと晴れるというか、その後に飲みに行ったりしてます」

Nさんは休日の話題になると笑顔を見せた。

話を聞くと、気分が滅入って沈みこみ、意欲も湧かないようで、抑うつ気分や気力減退、不眠はある。一方で食事は安定してとれているようで過度な体重減少も認められない。

彼のように職場での業務負担や対人関係の不和により、精神的な不調をきたす人は多い。こういったストレス要因がはっきりしているケースはうつ病ではなく、「適応障害」と診断することが多い。

うつ病は明確なきっかけがなくても脳の働きの不調が生じ、気分が著しく落ち込むのに対し、適応障害は環境の変化やストレスにより一時的に心身の不調が起きるもので原因がなくなれば改善する。

「適応障害の可能性があると思います」

私がそう言うと、Nさんは「それって休職の診断書って出ますかね?」と再び問う。

「いきなり休職になると、引き継ぎもできずに突然休むことになってしまいます。病名を記載した診断書をお出ししますので、いったん会社に受診したことを共有してみてはどうでしょう。それから病気休暇が可能な期間も会社に確認しておいたほうがいいと思います」

私がそう提案すると、Nさんの顔が曇った。腕組みをして考え込む。その態度はどこか不貞腐れているようにも見える。

患者が「会社に行かないといけないと思うと死にたい気持ちが出ます」と訴えたとする。それが事実なのか、それとも「会社を休むための口実」なのかは、患者本人にしかわからない。われわれができるのは、患者の訴えをできるだけ詳しく聞き、その情報をもとに診断することだ。精神科医は嘘発見器にはなれない。

診断書を出し渋ると不貞腐れつつも納得してくれたが…

私としては、初診で安易に休職を勧めることは避けたい。正しい精神科診療には「経過を見る」という視点が欠かせず、受診当日に病名を確定できないケースも珍しくないからだ。

Nさんは何度か「でも」「やっぱり」と休職診断書が欲しい素振りを見せたものの、最終的には「わかりました」と言って病院をあとにした。納得してくれたのだとばかり思っていた。

ところが、1週間後の予約日、Nさんは来院しなかった。

予約日に現れない本人に事務職員が電話したところ、「オンライン診療にしたので、そちらにはもう行きません」と告げられたという。Nさんは私の対応が意に沿わず、オンライン診療を頼ったのだ。

休職が必要かの見立ては精神科医の裁量次第で、明確な基準はない。ただ、ある程度経験を積んだ精神科医なら、治療上休職の必要性についての判断は自然と身につくものだ。

一方で、Nさんが受診したというオンラインクリニックには「即日休職診断書出します」という消費者金融のようなキャッチコピーを掲げるところもある。

配信元: 弁護士JP

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