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「尊敬しているコーチ」には逆らえない… 部活動・スポーツクラブで起きる“未成年への性加害”が発覚しにくい理由

「尊敬しているコーチ」には逆らえない… 部活動・スポーツクラブで起きる“未成年への性加害”が発覚しにくい理由

近年、筆者が在住する福井県内で、スポーツ指導者の立場を悪用した男子児童・男子生徒への性加害事件が相次いだ。

  • 2024年、福井市のスポーツスクール元経営者(男性、当時31歳)が、自らのスクール生の男子小学生17人以上に性的暴行を加えたとして逮捕・起訴された。犯行は7年以上にわたって続いていたとされ、その様子をスマートフォンで動画撮影していたという。
  • 2026年3月、坂井市のバスケットボールチームコーチ(男性、30歳)が、指導する男子中学生4人以上をアパートに呼び出し、手足をロープで縛って性的暴行を加え、その様子を動画撮影したとして、起訴された。

いずれも男性指導者への信頼を悪用した、被害を申告しにくい男子の心理を利用した長期的な犯行であり、氷山の一角に過ぎない可能性が高い。

こうした行為から子どもを守るためには、どうすればよいか。子どもに対する暴力・ハラスメント問題の相談に長年携わってきた合田雄治郎弁護士(合田綜合法律事務所)に、被害発覚後の対処法や相談先の選び方、そして組織としての課題について聞いた。

「ハラスメントがあった」だけでは処分できない

部活動やスポーツクラブの現場におけるハラスメントは「指導」という名のもとで行われることが多い。そのため、密室での出来事ではないにもかかわらず、証拠が残りにくい。それでも、合田弁護士は「証拠がカギを握る」と語る。

「録音・録画、特に録画は起きた出来事が一目瞭然となるため証拠になります。『ハラスメントがありました』というだけでは、なかなか処分できない。いつ・どこで・誰に対して・どのようなことが行われたかという具体的な事実があって初めて認定できます。

しかし、性暴力やセクハラになると、密室で行われる場合が多いこともあり、目撃証言などの証拠を確保することは難しく、一般的な暴言や暴力よりも告発することが難しい。被害者や保護者が『知られたくない』という心理から声を上げにくいことも、案件が表面化しない一因です」

子どもの場合、何が自分に対して行われたのかすぐには理解できず、保護者に対しても被害を訴えにくい。特に性的な行為については、「尊敬しているコーチの言うことだから」と、子ども自身が自分を守るために加害を「指導」と思い込んでしまうケースも少なくない。

合田弁護士は、「スポーツは体が触れ合う場面が多く、指導の名のもとに性的虐待が行われており、いまだに発覚していないケースも少なくないのではないかと思っている」と語る。

国内では、こうした潜在化しやすい性被害において、周囲の告発によって立件に至ったケースもある。

兵庫県・伊丹市のバスケットボール指導者(男性)による小学生女児への性的虐待事件においては、保護者や被害者が関係各所へ告発し、警察や検察との連携が行われ、2024年、裁判により指導者の実刑が確定した。

しかし伊丹市の事案については保護者や被害者が勇気を持って立ち上がったからこそ表に出たのであり、すべてのハラスメントがこうした告発につながるわけではないのが実情だ。

相談窓口の「落とし穴」

福井や伊丹の事例のような性加害をはじめ、スポーツ界におけるあらゆるパワーハラスメントや暴力行為を防ぐ体制は、どのように作られてきたのだろうか。

2013年、大阪市立桜宮高校バスケットボール部のキャプテンが体罰を受けて自死したことが発覚した事件や、女子柔道代表選手によるJOC(日本オリンピック委員会)への告発を契機に、日本スポーツ協会(以下、JSPO)などに暴力行為の相談窓口が設けられた。

相談件数はコロナ禍の期間を除いて右肩上がりで増えているが、これは暴力や暴言等の不適切行為の件数そのものが増加したのではなく、「以前から存在していた不適切行為が、(窓口が整備された結果として)相談されるようになったためだと考えられる」と合田弁護士は指摘する。

「子どもへのハラスメントについて、相談窓口の整備によって昔よりも相談しやすくなりました。しかし、JSPOは、JSPOの資格や登録を有している指導者しか調査・処分できません。資格や登録を有しない保護者やボランティアの指導者には、調査権限が一切及ばないという問題点もあります」(合田弁護士)

さらに、処分が科されても問題は残る。指導資格が停止となっても、あくまでその競技団体の資格に関わる活動の停止に過ぎない。

競技団体によっては、資格停止期間中は当該競技に係る一切の活動を禁じていることもあるが、刑事罰のような強制力はない。被処分者が資格停止期間中に指導していたことを把握しても、改めて処分を科するといった対処しかできないのだ。

JSPOの相談窓口は弁護士が対応するため、児童や保護者も安心して相談できる体制となっている。しかし、地方の小さなスポーツ団体の相談窓口では加害者に近い人物が対応することもありうる。その結果、相談したことが加害者に漏れるリスクもあるのだ。

弁護士への相談は「目的を明確に」

相談先の選定に悩んだ場合、弁護士へ相談することも一案である。ただし、相談にあたっては「どういう方向性で解決を目指すのか、まず整理することが重要」だと合田弁護士は述べる。

指導者と話し合うなら弁護士を介しつつ当事者間で連絡することになる一方で、処分を求めるなら競技・統括団体への相談が必要となる。また、損害賠償を請求するなら民事訴訟も視野に入れつつ示談交渉を行うことになるが、刑事罰を望むなら警察に被害を申告しなければならない。このように、目的に応じて、取るべきアプローチは大きく変わる。

部活動における指導者の不適切行為であれば学校に対応を求めることも選択肢となるが、その場合、行為者は教員等の学校サイドの人物となる。第三者委員会が設置されるケースもある一方で、客観的な調査がなされず、責任追及が難しいことも少なくない。

スポーツ少年団や地域展開後(※)の部活動の場合には、所管する団体が窓口となるが、調査能力に限界もある。

※これまで学校の教員が主体となって運営してきた中学校などの部活動を、地域のスポーツ・文化団体や民間事業者などの多様な主体が運営する「地域クラブ」へ移行させる取り組み

「目的やケースによって採るべき方策が異なりますが、各々の方策にはそれぞれメリット・デメリットがあるので、まずはこれらを弁護士に整理してもらうとよいでしょう」(合田弁護士)

合田雄治郎弁護士(本人提供)

「勝つこと」「人間力の成長」重視が暴力につながる

合田弁護士は全国で指導者向けの研修を行っている。

「指導者への研修では、スポーツの指導において、『勝つこと』『人間力の成長』『スポーツを楽しむこと』『自立した選手を育むこと』といった目的はいずれも重要だが、この中で最も重視すべき目的は何か、という問いかけをしています。この問いかけに対する答えは各々の指導者で異なり、正解はありません。

ただし、『勝つこと』を重視しすぎると、勝利至上主義となったり、暴力・暴言の温床となったりしかねません。

また、『人間力の成長』を重視しすぎた場合、部活動における教員以外の指導者は教育のプロフェッショナルでもなく、懲戒権も有しないので、礼儀作法を教えると称して行き過ぎた指導になることも少なくありません。『人間力の成長』は、あくまでも子どもたちが自ら勝ち取っていくもので、指導者はサポートに徹するべきでしょう。

これらの目標を重視しても構わないのですが、重視しすぎると間違えることも少なくないので、注意してください、と言っています。

一方で、『スポーツを楽しむこと』を知れば、子どもは自ら努力し、『自立した選手』となっていく。個人的には、これらが最も重視すべき目的ではないかと思います。

なお、これらを成し遂げるには、スポーツに一生懸命に取り組むことで得られる『楽しさ』を子どもに体感させる必要があります。そのため、指導者は常に指導のあり方について問い直しつつ研鑽(けんさん)を積む必要があるでしょう。

そして組織としては、指導者の自覚を促し、啓発し続けていくことが大切です」(合田弁護士)

子どもへの性加害を防ぐために

部活動については全国で地域展開が進む中、資格を持たないボランティア指導者も増えており、研修が届かないという課題もある。

「事案を把握し、その事案に関し調査を行い適正な処分を科し、そこから得られた教訓を研修で共有し、また現場に還元するというサイクルを回し続けるという地道な対応をしないと、不適切行為の根絶は達成できないように思います」(合田弁護士)

部活動やスポーツクラブは、誰のためにあるのか――子どもたちが自分の意志でやりたいことに向き合うためにも、今、保護者に求められるのは、指導者の資質を見極め、指導の現場を見守ることかもしれない。

■主な相談先

日本スポーツ協会「スポーツにおける暴力行為等相談窓口」(03-6910-5827)

法務省「こどもの人権110番」(0120-007-110)

■合田雄治郎(ごうだゆうじろう):弁護士。合田綜合法律事務所代表。第一東京弁護士会総合法律研究所・スポーツ法研究部会部会長、(公社)日本山岳・スポーツクライミング協会常務理事等を歴任。(公財)日本スポーツ協会倫理・コンプライアンス委員会委員、(公財)日本スポーツ仲裁機構仲裁人候補者、(公財)日本バスケットボール協会裁定委員会委員、日本スポーツ法学会理事、早稲田、中央、専修各大学非常勤講師等を務める。

■岩田いく実:損害保険会社、法テラス、一般民事系法律事務所に勤務後、ライターに転身。パラリーガル経験を活かし、年間60人を超える弁護士・税理士を取材。相続や離婚、不動産売却、債務整理、損害保険などのテーマを中心に執筆。第一法規『弁護士のメンタルヘルスケアの心得』で記事執筆、自主出版に『ルポ豊田商事』がある。

配信元: 弁護士JP

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