
親の年金が少ない場合、子どもが仕送りをして生活を支えるケースがあります。家族として助けたい気持ちは自然なものです。しかし、仕送りが長期化し、それが親の生活の前提になると、支える側の家計も少しずつ圧迫されていきます。親を見捨てたくない気持ちと、自分の生活を守らなければならない現実の間で、子ども世代が限界を迎えることもあります。
「娘が助けてくれるから」…月10万円の仕送りが生活の前提に
一人暮らしをする和子さん(仮名・69歳)は、月6万5,000円ほどの年金で暮らしています。
夫とは早くに離婚し、長年パート勤務をしながら一人娘の真由さん(仮名・45歳)を育ててきました。老後の備えは十分ではなく、貯蓄もほとんどありません。
持ち家ではなく、家賃の安い古いアパート暮らし。家賃、光熱費、食費、通院費を払うと、年金だけでは到底足りませんでした。
そこで支えていたのが、都内で働く真由さんからの月10万円の仕送りでした。真由さんは大手企業で管理職として働き、周囲からは「しっかり稼いでいる娘」と見られていました。
「母には苦労をかけたので、できる限り支えたいと思っていました」
最初の仕送りは月3万円でした。
それが、家賃更新、入院、物価上昇をきっかけに5万円、7万円と増え、気づけば月10万円になっていました。和子さんは、申し訳なさを感じながらも、いつしかその仕送りを生活費として見込むようになります。
「真由が送ってくれるから、何とかなる」
そう思うようになっていたのです。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得が月11万8,465円である一方、消費支出は月14万8,445円となっており、平均では毎月赤字です。和子さんの年金月6.5万円はこの水準を大きく下回り、自力で生活を維持するには厳しい状況でした。
それでも、真由さんの側にも余裕があったわけではありません。住宅ローン、子どもの教育費、老後資金の積み立て。管理職とはいえ、手取りから毎月10万円を送り続ける負担は大きくなっていました。
それでも真由さんは、母に言い出せませんでした。
「私が止めたら、母は暮らせないと思っていました」
「もう限界」…娘が初めて口にした仕送り停止
転機は、真由さんの夫が体調を崩し、収入が一時的に減ったことでした。家計を見直す中で、毎月10万円の仕送りが重くのしかかっていることが改めて明らかになりました。
教育費、住宅ローン、夫婦の老後資金。どれも後回しにできるものではありません。
ある夜、真由さんは和子さんに電話をしました。
「お母さん、ごめん。もう、毎月10万円は送れない」
和子さんは、すぐには言葉が出ませんでした。
「どうしたの? 何かあったの?」
真由さんは、声を震わせながら言いました。
「うちも、もう限界なの」
その一言で、和子さんは初めて、娘の生活も苦しかったのだと知りました。
和子さんにとって、仕送り停止は生活の一変を意味しました。家賃の支払い、食費、通院費。何を削ればいいのか分からなくなったといいます。
一方で、真由さんも強い罪悪感を抱えていました。
「母を見捨てたような気持ちになりました」
しかし、家族間の扶養は、誰か一人が無制限に背負うものではありません。
真由さんは、母と一緒に自治体の福祉窓口へ相談しました。家賃の安い住まいへの転居、医療費負担の確認、生活保護の相談、社会福祉協議会の貸付制度など、利用できる可能性のある制度を一つずつ確認していきました。
現在、仕送りは月3万円に減りました。足りない分については、家計の見直しと公的支援の相談を続けています。
「娘に頼るしかないと思っていました。でも、娘にも生活があるんですよね」
和子さんはそう話します。
親を支えることは、愛情の表れです。しかし、支える側が壊れてしまえば、親子ともに生活が成り立たなくなります。
「もう限界」
真由さんが口にした言葉は、冷たい拒絶ではありませんでした。親子が共倒れになる前に、支え方を変えるための、苦しいけれど必要な一言だったのです。
