気象庁と国土交通省の発表によると、強い勢力の台風6号は、6月3日に暴風域を伴ったまま東海・関東甲信地方に接近・通過する見込みだ。関東や東海では3日の早朝から昼ごろにかけて風雨のピークを迎え、通勤・通学への影響に警戒が高まっている。
交通機関では一部路線で始発からの運転取りやめや特急の運休が計画・実施され、主要なレジャー施設なども相次いで臨時休業を発表している。交通機関の乱れや移動の危険が懸念されるなか、企業の対応に注目が集まっている。
「出勤は各自の判断に任せます」
こうした状況下で、SNS上では「台風の日の出社」をめぐる上司からの連絡についての投稿が大きな反響を呼んでいる。
この投稿で紹介されているのは、台風の日の朝に上司から「出勤は各自の判断に任せます」というメールが届いたものの、実際に出勤しなかった社員が朝礼で「責任感がない」と非難された、という趣旨の内容だ。
この投稿は、6月2日時点で940万件以上表示され、「罠すぎる」「昔勤めてた会社の初期がこんな感じでした笑」「台風の日も上司の顔色を伺って出社しないといけないのは嫌」「出勤は自己責任て(中略)会社として最悪の逃げ道」など、上司の対応に疑問を抱く声が数多く寄せられている。
他にも、台風時の出社をめぐるエピソードはSNS上で事欠かない。
「台風で電車止まっても『バイクで来い』言われて風でコケて『これ労災ですか?』て聞いたら『気合が足りん』言われたwww」
「元上司『台風で遅れそうなのがわかっているなら自腹で近くのホテルに泊まって出社するのが常識だろ!』」
「『若い頃は台風でもゴルフをやったよ』と御年配に言われた。こういう発言が若手が台風でも出社という空気を背負う」
「帰れなくなる可能性あるのに出社しないといけないの意味わからんな…」
「気合」や「責任感」という言葉で覆い隠されているが、その実態は、従業員を危険な状況に置いたまま働かせることにほかならない。
台風なのに出社させれば「安全配慮義務違反」になる可能性
では、台風の中で従業員を出社させることは、法的にはどう扱われるのか。
すべての雇用主には、労働者が生命・身体の安全を確保した状態で働けるよう配慮する義務が課されている。これを「安全配慮義務」という。2008年に施行された労働契約法5条で明文化されており、対象は正社員だけでなく、パートやアルバイトも含まれる。
安全配慮義務に関する労働契約法自体に罰則は存在しない。しかし、会社側が義務を怠った結果、労働者がケガをするなど損害が生じた場合には、安全配慮義務違反という債務不履行に基づき損害賠償請求が認められる可能性がある(民法415条)。
損害賠償請求が認められるかどうかは、次の3点が鍵になる。
- 予見可能性:ケガなどの発生が予測できたか
- 結果回避性:ケガを避ける手段があったのに講じなかったか
- 因果関係:その判断がケガの原因になったか
台風の場合、気象庁や行政機関が「不要不急の外出は控えてください」と呼びかけていれば、「出勤中に強風にあおられ転倒する」「増水した河川沿いの道路で被害を受ける」といった危険は十分に予見できる。また、営業を休止して自宅待機を命じれば回避できたはずの被害でもある。
つまり、台風の接近が事前にわかっていたにもかかわらず出勤させ、従業員がケガをした場合には、「予見可能性」も「結果回避性」もあったとして、安全配慮義務違反に問われる可能性は十分にある。安全配慮義務に関する訴訟では賠償額が高額になるケースも少なくなく、敗訴してメディアで報じられれば、企業の社会的信用にも大きなダメージが及ぶ。
過去には「#台風だけど出社させた企業」がトレンドに
法的リスクにとどまらず、企業が直面しうるもうひとつのリスクがSNS上での批判だ。
2019年10月に記録的な大雨と暴風をもたらした台風19号の際には、「#台風だけど出社させた企業」というハッシュタグがSNS上で急速に拡散し、トレンドワードに入るほどの大きな話題となった。「会社を休みにしなかった」として多数の企業名が実名で挙げられ、批判の拡散を受けて途中から休業の決定に踏み切った企業もあったとされる。
今回の台風6号でも同様の事態が起きる可能性がある。「無理のない範囲で」「各自の判断で」——そのあいまいな言葉が現場の混乱を招き、結果として従業員を危険にさらしたとすれば、法的な問題だけでなく、企業としての姿勢そのものが問われることになる。
気象庁の資料は、暴風が実際に吹き始めてからでは屋外での行動は命に危険が及ぶと明記し、「風雨が強まる前の早めのタイミングで対応をとることが重要」と強調している。台風の接近が数日前からわかっている状況において、その情報を踏まえた判断ができるかどうか。それが企業に今、問われている。

