クラウドファンディング「オルタナバンク」を運営するSAMURAI証券株式会社(東京都千代田区)で勤務していた男性が、未払い賃金の支払いと労働契約上の地位確認などを求め、同社を相手取り東京地裁に提訴した。提訴は2026年6月1日付。
代理人の佐々木亮(ささき・りょう)弁護士と杉尾綾(すぎお・あや)弁護士は、原告男性本人とともに、翌2日、会見を開いた。
男性は会社の指示で関連会社の代表取締役に就任した後も同じ業務を続けていたが、その役職を外された途端に賃金が止まり、最終的には雇用関係そのものを否定されたと訴えている。
社長に言われ代表取締役就任も一転…
訴状などによると、男性は2021年8月、SAMURAI証券と期間の定めのない労働契約を結んで入社した。担当はマーケティングや採用などで、賃金は基本給53万円に管理職手当30万円を加えた月83万円。同社は資本金9900万円、従業員約20名の金融商品取引業者である。
入社から間もない同年10月ごろ、男性は同社社長から、新たに設立する関連会社「新日本アセットマネジメント」の代表取締役に就任するよう指示を受けたという。原告側は、男性が断れる状況ではなく、業務自体はそれまでと変わらず続けるとの説明を受けたとしている。同年11月11日、男性は同社の代表取締役として登記された。
登記後、賃金は新日本アセットマネジメント社から「役員報酬」の名目で支払われるようになった。もっとも原告側は、仕事の中身はマーケティングや採用の現場業務のままで、社長の指揮命令を受け、社内の目標管理(KPI)の評価対象にもなっていたと主張する。代表取締役としての職務は、社内で決まった投資案件の稟議書を形式的に確認する程度だったとしている。
転機は2025年1月。原告側によると、男性はこの時期、SAMURAI証券に金融庁関東財務局の検査が入ったことを知らされ、出社しないよう指示を受けた。同月26日には新日本アセットマネジメント社の代表取締役を退任とされ、これを境に賃金の支払いが完全に止まった。
それでも男性は従来どおりの業務を続けた。社長が面談の場で「論点は(男性がSAMURAI証券に戻った後の)処遇」であり、マーケティング業務を「普通に淡々とやることは大丈夫」と述べたという。
男性が代理人を通じて支払いを求めると、会社側の説明は変遷していったという。原告側は、当初は雇用を前提に話していた会社が「業務委託契約だった」と主張を変え、2月12日には業務ツールへのアクセスを遮断したうえで全社員に箝口令(かんこうれい)を出し、雇用関係の存在そのものを否定するに至ったと指摘する。
「なぜ1円も払わないで済むと思っていたのか」
本件の争点は、男性と会社の間の雇用契約が存続しているか否かにある。
原告男性は退職届を出しておらず、会社から解雇された事実もないと主張する。代表取締役への就任は「在籍出向」にすぎず、出向が終われば当然もとの雇用関係に戻るとの立場だ。契約を終わらせる原因が存在しない以上、労働契約は消滅していないとして、労働者としての地位確認と2025年2月以降の未払い賃金の支払いを求めている。
男性はさらに、労務を受け取りながら賃金を支払わず、理由なく労働契約の存在を否定した会社の対応は不法行為に当たるとして、慰謝料200万円と弁護士費用20万円の計220万円の損害賠償も請求した。
佐々木弁護士は会見で「突然、雇用契約ではなく業務委託契約に変わっており、やや特殊な事案」と指摘。「なぜ1円も払わないで済むと思っていたのかよくわからない」と述べた。
「こんなことが許されるのか、世間に問いたい」
会見に同席した原告男性本人は、用意した文章を読み上げる形で心境を語った。「あぜんとした気持ちだった」と当時を振り返り、「長年会社のために働いてきたにもかかわらず、その日突然社員でないように扱われ、戸惑いと憤りを感じた」と述べている。
男性は「クラウドファンディングを通じて顧客から数百億円も集めるような責任のある証券会社がこんなことをするはずないと信じていた」と語り、「こんなことが許されるのか、世間に問いたい」と訴えた。
また、自身が採用を担当した従業員が今も多く在籍しているとして、「今いる従業員のためにも、裁判を通じて正しく判断していただくことを切に望んでいます」と結んだ。
SAMURAI証券は弁護士JPニュース編集部の取材に対し、「代表取締役に就任した者と当社との間の雇用契約は、同就任に伴い終了しており、当社による賃金未払はありません」と回答。「理解を求めてまいりましたが、ご理解いただけず、提訴されたことを貴社からの取材で初めて認識しまして、大変残念に思うと同時に、遺憾に感じております」としている。

