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「国が客観的データを開示しないのは“やましい”からだ」元敏腕裁判官が“人事差別”で国を訴えた訴訟で、被告側が「ゼロ回答」を続ける“理由”とは?【第6回口頭弁論】

「国が客観的データを開示しないのは“やましい”からだ」元敏腕裁判官が“人事差別”で国を訴えた訴訟で、被告側が「ゼロ回答」を続ける“理由”とは?【第6回口頭弁論】

元裁判官の竹内浩史氏(2025年3月31日に依願退官)が、国家公務員が勤務地(居住地ではない)に応じて受け取る「地域手当」の制度が、裁判官の在任中の「報酬」の減額を禁じた憲法80条2項に違反することなどを理由として国を訴えた訴訟の第6回口頭弁論が、9日、名古屋地裁で開かれた。

竹内元判事は裁判官在職中の2024年8月に本訴訟を提起。地域手当の違憲性とともに、自身に対する「昇給・昇格差別」の違法性についても争っている。

竹内元判事は、1987年に弁護士登録して16年間活動した後、2003年に弁護士会の推薦により裁判官に任官。2004年に東京高裁で「近鉄・オリックス球団合併事件」の主任裁判官を務めるなど、多くの重要事件に関わった。

2023年には津地裁の裁判長として、2013年~2015年における生活保護費の減額の違法性が問題となった「いのちのとりで裁判」で、減額を違法とする原告勝訴判決を下し、「厚労省が自民党の政権公約に忖度した」と明記して話題になった(「いのちのとりで裁判」では昨年6月、最高裁も、減額を違法とする判決を行った)。

そのかたわら、「日本裁判官ネットワーク」の中心メンバーとして活動し、自らブログ「弁護士任官どどいつ集」で積極的に情報発信や意見表明を行う、異色の裁判官としても知られた。

昨年3月、津地裁民事部の部総括判事(民事部の裁判長のトップ)を務めたのを最後に依願退官。現在は弁護士として活動している。

第6回口頭弁論において、原告側は、被告国側の主張の矛盾点や今後の方針等について説明した。

国は人事と給与の関係についての「客観的データ」を開示せず

まず、前提として、裁判官の報酬額は「号俸」といわれる階級に連動して「裁判官の報酬等に関する法律」により定められている。

「最高裁判所長官」「最高裁判事」「高等裁判所長官(東京)」「高等裁判所長官(東京以外)」の他は、判事1号~8号、判事補1号~12号に分かれている(【図表1】参照)。

【図表1】裁判官の報酬(裁判官の報酬等に関する法律2条「別表」をもとに作成)

「号俸」と職位との対応関係は明らかにされていないが、原告によれば、公表されている実際の役職ごとの人数と照らし合わせると、おおむね以下の通りとなる。

  • 判事1号:高等裁判所の部総括判事、地方裁判所・家庭裁判所の所長
  • 判事2号:地方裁判所の部総括判事またはその経験者

竹内元判事の最終の号俸は「判事3号」、職位は「津地裁の民事部の部総括判事」であり、上掲の対応関係によれば、おおむね「判事2号」に相当するはずである。なお、竹内元判事は2014年4月に「判事3号」に昇給した後、10年にわたり昇給していない。

そこで、昨年10月1日の第4回口頭弁論期日において、裁判所は、人事差別の有無を判断する上で重要な点として、被告国側に対し「10期程度分の裁判官に係る、判事3号、4号で、定年又は定年に近い年齢で退官した裁判官の人数及び割合について明らかにする」よう求釈明を行っていた。

これは、竹内元判事と同等の号俸のままキャリアを終える裁判官が他にどれだけいるのか、客観的なデータにより示すよう求めたものである。

しかし、第5回期日において、国側は直接の回答はせず、「所長等の職を経験せずに退官した裁判官の割合」に関するデータを提出するに留まっていた。そして今回の期日でも、国側は明確な回答を避けた。

期日後の報告集会で、弁護団の北村栄弁護士、中谷雄二弁護士は、国側のデータ開示拒否の理由について、次のように批判した。

北村栄弁護士(1日 愛知県名古屋市/訴訟弁護団事務局提供)

北村弁護士:「国は(データ開示について)『プライバシーに影響する』と言っているが、どう考えてもおかしい。

その理屈が通るなら、あらゆる統計がプライバシーを理由に公表できなくなってしまう」

中谷弁護士:「国が最後までデータを隠したいのは、やましいことがあるからだと推察される。

客観的データが出てくれば、数字に基づいて議論ができ、誰の目にも明らかな差別が証明できる」

原告側は、国がデータ開示に応じない背景について、第11準備書面で次の通り、データが開示されないこと自体が、差別を裏付ける状況証拠になり得ると分析している。

〈ここまで被告が回答を避けるのは、最近10年間において「判事3号、4号で、定年又は定年に近い年齢で退官した裁判官」は原告の他にはおらず、そのことが明らかにならば、原告に対する不当差別と差別意思の存在が決定的となるからに他ならない。〉

竹内元判事に関する「評価書」も開示せず

被告国側が提出を拒んでいるのは、退官した裁判官の人数データだけではない。竹内元判事本人に対する「評価書」の開示も拒否している。

国側は、評価書の内容は「争点となっているわけではない」と主張している。

これに対し、原告側は、国自身が過去の準備書面で、判事3号以上への昇給の考慮事項として「評価権者による評価を挙げることができる」と明記している点を指摘し、国側の過去の主張と矛盾すると反論する。

原告弁護団の相原健吾弁護士は次のように批判した。

相原健吾弁護士(1日 愛知県名古屋市/訴訟弁護団事務局提供)

相原弁護士:「被告(国)は自らの第1準備書面で、昇給の考慮事項として『評価権者による評価』を挙げている。

にもかかわらず、その評価書を出さない。自分自身の主張と矛盾している」

原告側の第11準備書面でも、以下の指摘が行われている。

〈被告が評価書の開示を拒否するのは、原告の裁判官の能力が低いという事実はなかったことを認める趣旨と解してよいか明らかにするよう求める。〉

また原告側は、人事評価の基準やプロセスが不透明なままでは、裁判官が人事権を持つ最高裁事務総局の意向を過度に意識し、司法の独立性が損なわれる危険性があると指摘。この訴訟は、司法の根幹に関わる問題を提起していると位置づけている。

憲法が禁じる「報酬の減額」にあたるのか

本訴訟における原告側の主張のもう一つの柱が、地域手当の制度が、裁判官の在任中の「報酬」の減額を禁じた憲法80条2項に違反するというものである。

国家公務員の地域手当は勤務地(居住地ではない)の物価や民間賃金水準を考慮して支給されるもので、報酬額に応じてその何%かで決まっており、東京23区の20%を最高に、勤務地によって大きく変動する。

2023年当時は名古屋市(3級地)は15%、津市(6級地)は6%などと設定されていた。また、地域手当のない地域もある。

竹内元判事は名古屋高裁(15%)から津地裁(6%)への異動に伴い、報酬が大幅に減額された(【図表2】参照)。

【図表2】竹内元判事の異動による給与減額の状況(訴状より)※地域手当の級地区分及び支給割合は改定されている(2025年4月1日施行)

なお、原告側は裁判官にとどまらず、一般の国家公務員に適用される地域手当制度そのものが、勤務地による不合理な差別として憲法14条1項の平等原則に違反すると指摘している。

地方公務員の地域手当も、国家公務員と連動して定められていることが多い。その結果、隣接ないしは近接した自治体の間においても地域手当の格差が生じ、地域手当がない、あるいは低い市町村において、看護師等の採用難が深刻化しているという問題が指摘されている。そして、この問題について2023年12月、滋賀県近江八幡市が「地方公務員給与の地域手当見直しに関する意見書」を国会と政府に提出するに至っている。

提訴時の記者会見(2024年7月2日)で、竹内元判事は「本件は私だけでなく国民全体の問題だと考えている」と喝破した。

国側は、地域手当は「職務等に関係なく支給されるもの」であり、憲法80条2項が減額を禁じる「報酬」にはあたらないと主張する。

これに対し、原告側は、地域手当の成り立ちから反論した。弁護団の岸朋弘弁護士は、地域手当の性質について次のように説明した。

岸弁護士:「手当という名目であれば何でも減額していいのなら、憲法80条2項はあってないようなものだ。

地域手当は、もともと全国一律だった報酬の一部を置き換える形で導入された経緯があり、実質は報酬と変わらない。

通勤手当や扶養手当が個人の事情で支給されるのとは異なり、勤務地に紐づいて一律に適用される点で、他の手当とは明らかに性質が異なる」

岸朋弘弁護士(1日 愛知県名古屋市/訴訟弁護団事務局提供)

準備書面の作成を担当した岩井羊一弁護士も、次のように述べた。

岩井羊一弁護士(1日 愛知県名古屋市/訴訟弁護団事務局提供)

岩井弁護士:「国は地域手当を『職務とは関係なく支給している』としか説明しないが、地域手当の算定の基礎となる報酬が職務に関して支払われるものである以上、地域手当が職務と関係ないとは言えないはずだ」

地域手当は、もともと全国一律だった俸給表全体の水準を引き下げる代わりに、都市部の給与水準を調整するために導入された経緯がある。つまり、実質的には俸給の一部であり、「報酬」そのものの性質を持つと主張している。

また、地域手当が他の「手当」と名の付く給付と明らかに異質であることも指摘する。「扶養手当」や「通勤手当」が個人の事情に応じて支給されるのとは異なり、地域手当は勤務地に紐づいて一律に適用され、賞与の算定基礎にも含まれる。したがって、その性質は給与の本体部分と評価すべきだと主張する。

違憲と主張する法令の特定と、請求額の根拠の提示

名古屋地裁へ入廷する竹内元判事と弁護団の弁護士ら(左から2人目が竹内元判事)(1日 愛知県名古屋市/訴訟弁護団事務局提供)

本期日で原告側は、裁判所からの「どの法令が違憲だと主張するのか」という問いにも具体的に答えた。

竹内元判事が自ら中心となって作成したこの書面では、「裁判官の報酬等に関する法律」や最高裁が定める「裁判官の報酬等に関する規則」、さらにそれらが準用している「一般職の職員の給与に関する法律」と「人事院規則」の関連条項を特定し、これらが違憲であると主張している。

竹内元判事は「最高裁が、地域手当による20%もの給与格差や、異動による減給の可能性について問題意識を持っていれば、このような法律や規則にはならなかったはずだ」と指摘する。

また、訴訟で請求している損害額の算定基礎となる「国家公務員全体の地域手当の平均水準を16%と見る」ことの根拠も詳細に示した。

公表されている裁判官の配置人数データ(甲16号証)を元に、地域手当が高率な1級地(20%)・2級地(16%)・3級地(15%)に勤務する裁判官が全体の半数近くを占める実態を分析。

さらに、高支給率の地域から転出しても数年間は支給額が保障される「異動保障」制度を考慮すると、多くの裁判官がキャリアを通じて平均16%程度の地域手当を得ていると試算した。

原告側は、この試算が、国の制度が一部の都市部勤務者に手厚い報酬を保障する一方で、地方勤務者との間に格差を生み出している実態を示すものだと主張している。

原告は「判例法理」の枠組みに沿って争う姿勢

原告弁護団の中谷弁護士は、今後の戦術として、判例法理に従った「立証責任の転換」を主張していく姿勢を示した。

中谷雄二弁護士(1日 愛知県名古屋市/訴訟弁護団事務局提供)

中谷弁護士:「賃金差別の事件についての確立した判例法理は、著しい格差があることを主張立証できれば、格差の合理性は使用者側、つまり賃金を払う側が立証しなければならないというものだ(※)。

被告国側が合理的な理由を立証できない限り、格差は不当な差別によるものと推定されるべきだ」

※最高裁平成30年(2018年)6月1日判決(ハマキョウレックス事件)など参照

国側がデータ開示を拒む状況下で、この法理は極めて重要な意味を持つ。

一人の元裁判官の処遇をめぐるこの訴訟は、司法の人事評価のあり方や、裁判官の独立という憲法上の原則についての重要な論点を提起している。国側がデータ開示に慎重な姿勢を見せる中、司法の透明性という観点からも、今後の審理の行方が注目される。

配信元: 弁護士JP

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