2050年のカーボンニュートラル実現に向け、さらなる事業拡大へ
――助成金を活用して、特に効果を感じた部分はありますか。
松尾:大規模なプロジェクトを実現できたことはもちろんですが、ネットワークが広がったことも大きな収穫でした。海に関心を持つ学生の方が増えたり、さまざまな専門分野で活躍する方々とつながったりする中で、新しい事業のアイデアも生まれてきます。実際に動き出してみて初めて気づくことも多く、ありがたいと感じています。

――最後に、今後の展望や、目指す社会のあり方について教えてください。
松尾:「長崎海洋アカデミー」では、「オペレーション&メンテナンス」と「漁業共生」の2つのコースの増設を計画しています。また、「NOA TRAINING」では、現在行っている安全訓練に加えて、電気や機械の図面を見ながら組み立てるといった「技能訓練」の準備も進めています。まだ求められている訓練や教育の全てをカバーできているわけではないため、今後も訓練内容の幅を広げていく方針です。
さらに、海中作業や監視、モニタリングなどを行う水中ロボット「ROV」の操縦や管理ができる人材の育成も計画しています。ヨーロッパの洋上風力発電業界では既に主流の技術で、国内では職業潜水士の高齢化が進み、なり手が減っていることから、今後ますます必要となる技術だと考えています。今後、需要が高まれば、トレーナーの育成も必要になるでしょう。
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、洋上風力発電が果たす役割は、日本だけでなく、長崎の地方創生にも大きく関わると思っています。
日本財団担当者から見たプロジェクトの魅力
日本財団は造船業をはじめ、海に関わるさまざまな分野(海事産業)に対する支援を発足当時から行っています。日本が国を挙げて2050年カーボンニュートラルを目指す中、海事産業も例外ではありません。日本財団は海事産業の脱炭素化を支援するためにいくつかのプロジェクトを展開しています。
例えば「日本財団ゼロエミッション船プロジェクト」(別タブで開く)として、船舶の燃料を従来の重油からCO2を排出しない水素に置き換えるための技術開発への支援を行っています。そして今回の「洋上風力発電人材育成プロジェクト」(別タブで開く)も、同様に脱炭素化の推進を念頭においた事業となっていますが、こちらは人材育成をその主眼としています。
昨今、産官学公が連携して日本における洋上風力発電導入を推進する中、「案件形成」には当初から注目や投資が集まっていたものの、実現に際して同じく必要不可欠であるはずの「人材育成」については十分な議論や検討、投資がなされていない状況でした。そこで、民の立場で公の仕事をする日本財団として、長崎海洋産業クラスター形成推進協議会さんと共に、先駆的に取り組み始めたという経緯です。現在では「人材育成」領域に対し、国による補助金や民間の参入事例も増えています。
今回松尾さまにお話しいただいた通り、この事業は最初から大規模に始まったのではなく、「海洋産業を担う人材を育成する」というテーマのもと、スモールスタートでさまざまな事業を展開する中で、次第に醸成された課題意識が、大きな形として具現化していったものです。
「海」と聞くと、あまり身近ではなく、ご自身の解決したい課題認識と遠いと感じられる方も多くいらっしゃるかもしれません。しかし、洋上風力のような海の新たな利活用のあり方は技術の進歩と共に今後も増えていくと確信しています。日本財団の助成事業にご興味のある方は、ぜひお気軽にご相談・ご申請いただければと思います。