占い師・細木数子の半生を描いたNetflix『地獄に堕ちるわよ』(4月27日配信開始)は、配信初週日本1位、週間グローバルTOP10入りを果たし、その後も上位をキープ。大ヒットとなっている。
女優の戸田恵梨香扮する細木数子(2021年没・享年83)が、戦後の混乱期を経て、手練手管の限りを尽くして銀座や赤坂で夜の街を制し、その後、占い師となり、『六星占術』の大ヒットで巨万の富を手にする。そして2000年代のテレビバラエティー番組を席巻していくまでを描く。
第1話の冒頭で「この物語は事実に基づいた虚構である」とテロップが入るが、新人作家に自身の小説を書かせるという設定以外、登場する人物にはモデルが存在し、昭和から平成へと続いた細木のサバイバルの実像に限りなく近い。(ライター・中原慶一)
週刊誌に6億円の損害賠償請求し“取り下げ”の過去
ドラマでは描かれていないが、細木は「裁判」を複数起こしたり、起こされたりしていた。中でも2006年5月から同年8月にかけて『週刊現代』誌上に、ノンフィクション作家の溝口敦により14回に渡って掲載された、「細木数子 魔女の履歴書」を巡る名誉毀損裁判が有名だ。
溝口は、記事の中で、彼女の生い立ちから、暴力団関係者との関係、演歌歌手・島倉千代子との関係、著名思想家・安岡正篤(やすおかまさひろ)との婚姻無効問題、相談者らへの高額墓石販売問題など、虚飾に満ちた“黒い半生”を徹底的に暴き出した。
これに対し、細木サイドは「事実無根の名誉毀損」だとして、発売元の講談社に対し、約6億円の損害賠償を求め提訴。
スポーツ紙芸能記者が解説する。
「当時、『ズバリ言うわよ!』(TBS系)などの複数の番組に出演し、歯に衣着せぬ物言いで、“視聴率の女王”として大ブレイクしていた細木サイドは記事に猛反発しました。
しかし、その裏で、2008年の3月末には、本人がかねてより公言していた“来年から私は大殺界に入るから充電期間に入る”の言葉通り、レギュラー番組をすべて降板し、テレビ画面から忽然と姿を消しました。これは表向き、自ら身を引いた格好ですが、溝口氏の記事の影響であることは明らかです。
背景には、テレビ局で裏社会との関係を排除するコンプライアンス意識が高まっていたこともあります。結局、細木は降板後、講談社サイドへの訴訟を取り下げ(※)ています」
※訴えの取下げとは、原告側が裁判所に対し審判の要求を撤回する意思表示をいう(民事訴訟法261条)。訴訟は最初から何もなかったことになる(262条1項参照)。ただし、被告が応訴した後の訴えの取下げは、被告に勝訴判決(原告にとっての敗訴判決)を得る利益が生じているため、被告の同意を得なければ認められない(261条2項)。
ちなみに溝口氏の記事やNetflixのドラマで扱われていた細木の“脱法行為”の内容の一例には以下がある。
〈10億円以上の借金を抱えていた島倉千代子と知り合い、暴力団員と共謀し、借金を整理すると同時に、彼女を約2年に渡り無給でコンサートに出演させ食い物にした〉
〈安岡正篤の晩年に、自らの箔付けのため半ば強引に籍を入れ、親族から婚姻の無効を申し立てられた〉
〈祖先供養のためとして、相談者に高額な墓石を販売した〉
それぞれの詳細についてはここでは省くが、当時としても地上波のテレビに出演しているタレントとして考えられない怪しい過去のオンパレードだった。
「溝口氏は、こうした言動を指して“女ヤクザ”と称しましたが、脱法行為のウワサ以外にも、彼女は今となっては問題になりそうな言動に溢れていました」(前出の記者)
一般視聴者にとっては、テレビ番組での彼女の過激な発言が最も印象に残っているだろう。
「歯に衣着せぬ発言」も当時からBPOが問題視
ドラマでも描かれていたが、細木は当時、出演していた『ズバリ言うわよ!』(TBS系)や『幸せって何だっけ 〜カズカズの宝話〜』(フジテレビ系)などにおいて、ゲストに対し、「地獄に堕ちるわよ」「あなた、自殺するわよ」「バカ」「無能者」「あなた死ぬわよ」などとたびたび暴言を吐いていた。こうした発言は今だったら問題になるのではないか。
エンタメ分野での法務にも詳しいTMI総合法律事務所の中山茂弁護士に聞いた。
「『バカ』『無能者』などは、通常の場面でのやり取りであれば、侮辱罪や名誉毀損罪になり得る発言だと思います。しかし、テレビ番組内での出演者から出演者への発言なので、やはり、通常の場面における犯罪行為とは差があると考えられます。どのような台本や演出があったのか、発言を受けた側がどの程度内容を認識・許容していたかにもよりますが…」
中山弁護士は、「犯罪行為に当たる問題というよりは、やはり倫理感やコンプライアンスの問題(表現の適切性)が大きい」と続ける。確かに当時すでに、こうした細木の発言は、BPO(放送倫理・番組向上機構)でも問題視されていた。
「自殺するわよ」「あなた、死ぬわよ」などの過激な発言は、現在だったら、確実に「ピー音」がかかって、放送できない発言だろう。
「コンプライアンスの感覚は、この10~20年で相当大きく変わっており、現在は、過度な言動は社会的に許容されない風潮になっています。
受け止め方は人によって様々ですが、SNSなどの発展によって、発言が受け流されない世の中になっていると思います。細木氏の発言は、今のご時世からすると公共の電波で流すのは難しいかもしれません」(中山弁護士)
夜の町で数百万円“豪遊”し、出版社に届く請求書…
さらに、細木氏の傍若無人な振る舞いはテレビ画面の中にとどまらず、番組の制作サイドや『六星占術』を発売していた出版社との関係においても顕著だったようだ。前出のスポーツ紙芸能記者はこう振り返る。
「テレビ局は細木さんに頭が上がらない。細木さんの京都の自宅で収録があった際は、収録後、膨大な請求をよこしてきたことは有名な話です。制作会社は、それを『スタジオ代』として落としていたようです。
さらに、一晩で数百万円といわれる細木さんのホストクラブでの遊興費も、『六星占術』の版元である出版社が接待費として支払っていました。しかし、当時、『六星占術』が1000万部近い売上をあげていたため、どれだけ店から直接、請求書が届いても、黙認せざるを得なかったようです」
先日も、東京大学大学院医学系研究科の教授が、民間企業との共同研究を巡る便宜の見返りに、高級クラブや性風俗店などで約180万円相当の接待を受けたとして、収賄罪で有罪になった(5月22日東京地裁判決)が、こうした常識外れな接待に、法的な問題はないのか。
前出の中山弁護士は、「賄賂の罪は、基本的には公務員やみなし公務員などの身分を前提とするものであるため、個人と民間企業の間では事情が異なります」とした上でこう続けた。
「ただ、民間企業の場合でも、本来は、“接待はいくらまで”などの規則があるところも多く、会社のルールに反する法外な接待となると、会社に対する背任や、社内規程等に違反する可能性があり、その線から問題となることはあるでしょう」
しかし実際は、細木のおかげで最盛期100億円近い売上げがあったとされる版元にとっては、“金のなる木“細木の遊興費には、目をつむるしかなく、そのあたりのガバナンスは実質的に機能していなかったようだ。
「大物になればなるほど権力構造がはっきり」
さらにもうひとつ。当時の細木周辺では、業界の慣例を破った過度な要求や暴言などの“暴君ぶり”に振り回され、精神疾患を発症し、会社を去っていった出版・テレビ番組担当者もいたと伝えられている。
その真偽はともかく、中山弁護士は、一般論として、大物と言われる人が、ハラスメントを起こしてしまうケースは多々あると指摘する。
「テレビ番組における出演者とスタッフの関係や、作家と出版社の関係も、出演者・作家が大物になればなるほど権力構造がはっきりして、弱い立場の人は何も言えなくなります。近時のテレビ業界や芸能界を舞台にした著名人のハラスメント事案も、根底には同じ構造が存在していると考えられます。
能力の高い人は、物事に対する熱量が高く、勢いもあるため、周りで直接仕事をするスタッフが威圧され、疲弊してしまうこともあります。また、『能力が高い人ほど、ハラスメントを起こしやすい』という傾向はあると思います。
しかし、ハラスメントに関しても、この10~20年で世間の認識が大きく変わっているため、細木氏が番組に出演していた当時と現在では世間一般の認識も相当異なり、厳しくなっていると言えます」(中山弁護士)
いずれにせよ、いい意味でも悪い意味でも、強烈な記憶に残る細木数子という存在。今後、彼女ほど毀誉褒貶(きよほうへん)の激しい“女傑”は二度と現れないかもしれない。
■中原慶一
某大手ニュースサイト編集者。事件、社会、芸能、街ネタなどが守備範囲。実話誌やビジネス誌を経て現職。マスコミ関係者に幅広いネットワークを持つ。

