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夜間・休日診療の“特別料金”1万円が、救急車呼べば「タダ」…“生活保護受給者”の受診実態にみる“制度の矛盾”

夜間・休日診療の“特別料金”1万円が、救急車呼べば「タダ」…“生活保護受給者”の受診実態にみる“制度の矛盾”

SNSやニュースなどでしばしば、「選定療養費」(特別料金)というものが話題になります。これは、夜間・休日に大病院の救急外来に受診した場合などに、診察代や薬代とは別に発生する費用です。金額は1回あたりだいたい7000円~1万円前後です。

この制度の目的は、緊急性の低い軽症患者による安易な「コンビニ受診」を抑制し、疲弊する勤務医の負担を軽減することにあります。これには、医療制度を維持するうえで一定の合理性が認められます。

しかし、その反面、この制度には「穴」があり、それが医療現場に思わぬ結果をもたらしかねないことは、あまり知られていないと思われます。(行政書士・三木ひとみ)

「選定療養費」は生活保護受給者も自己負担

生活保護の医療扶助は、指定医療機関において原則として現物給付、すなわち患者の窓口負担なしで行われます。そのため、一般的には「生活保護を受けていれば、大病院の特別料金も国が全額払ってくれるのだろう」と誤解されがちです。

しかし、無料になるのはあくまでも診察料や薬代などの医療費に限られます。

厚生労働大臣が定める告示(「生活保護法第52条第2項の規定による診療方針及び診療報酬(昭和34年(1959年)厚生省告示第125号)」)と生活保護手帳別冊問答集においても、保険外併用療養費(選定療養費を含む)には原則として医療扶助は適用されないと明記されています。

つまり、生活保護受給者が夜間や休日に大病院を受診し、選定療養費として1万円を請求された場合、その費用は公費である医療扶助からは一切支給されず、全額が自己負担となります。ギリギリの金額で設定された生活扶助費から、突発的に1万円を捻出することは現実的に困難です。

医療現場を崩壊させかねない…現行制度の問題点

一方で、この選定療養費の制度には例外があり、「緊急その他やむを得ない事情がある場合」に受けた診療については、紹介状なしの大病院受診であっても特別料金の徴収対象外とされています。そして、「救急車で搬送された場合」は原則としてこの「緊急事情」に該当するとみなされ、選定療養費は徴収されません。

筆者が大阪市の生活保護課に問い合わせを行った際にも、「救急車を呼んだ場合は、医療費以外は発生しないから、自己負担の問題は生じない」との指摘がありました。

ケースワーカーも、「緊急時は、迷わず救急車を呼んでください」「(選定療養費の)1万円は生活保護制度では支給できないから、やむを得ないときは救急車を呼んで。それなら、お金かからないから」などと助言をしているという実態があります。

救急車を呼んで病院へ行けば無料だが、自力で病院へ行けば1万円の支払いを求められる…。

これにより、軽症の場合であっても、1万円の費用負担を避けるため救急車を呼ぶというケースが、数多くとまではいえないものの、無視できない件数発生しています。このような行為が積み重なると、真に命の危険が迫る重症患者への対応を遅らせ、地域の救急搬送システムを崩壊させかねません。

しかし他方で、受給者が数千円しか所持していない場合、自ら外来に出向けば1万円の選定療養費を負担しなければならないということが、軽症でも救急車を呼ぶ動機を与えてしまいかねない面があると考えられます。

急病時の交通手段と移送費

なお、選定療養費の制度でなくても、硬直化したルール運用が、患者の命を直接的に脅かしているという実態が存在します。生活保護が関係するケースではなおさら、そのリスクが高まります。

心筋梗塞の後遺症(右半身麻痺)を抱え生活保護を受給しているジュンコさん(仮名・70代女性)は、大腸や膀胱の重篤な病気を抱え入退院を繰り返していますが、内科に入院している間であっても、同じ病院の泌尿器科の検査を受けることができませんでした 。

きわめて非効率な対応ですが、役所の担当者は「ルールだから」の一点張りで、泌尿器科の検査を受けることを頑として認めませんでした。

別の日に泌尿器科に受診しようにも、車椅子での移動にかかる交通費(タクシー代)を捻出できず、必要な医療から遠ざかっています。

生活保護制度には、通院交通費を支給する移送費の仕組みがあります。場合によってはタクシー代も支給されます。しかし、いったんは自腹で立て替えなければなりません。多くの生活保護受給者は、「後で本当にタクシー代が支給されるのか」という不安以前に、生活費に余裕がないために自腹での立て替えすらできない状況にあります。

移送費の適切な申請方法をケースワーカーから教えてもらえないため、必要な医療機関へたどり着くための交通費すら払えず、包括的な診療も受けられない状態です。こうした制度の細切れの運用が、結果的に「自己負担ゼロで確実に病院にたどり着ける救急車」への依存を生み出す可能性があります。

救急医療とセーフティーネットの矛盾を断ち切るために

こうした現状に対し、どのような対処が必要でしょうか。

選定療養費の制度の問題点については、「選定療養費が医療扶助で支給できるようになれば解決しそう」という意見もあるでしょう。

しかし、医療扶助の対象を拡大し、生活保護受給者の選定療養費を免除することは、生活保護受給に至らない低所得者層との間に強い不公平感を生む懸念もあります。したがって、現実的な解決策とは言えません。

求められているのは、大病院の選定療養費に関する「緊急その他やむを得ない事情」の運用をより弾力的に行えるようにすることと、そのルールの明確化です。

たとえば、救急車を利用せずに自力で夜間外来を受診した場合であっても、受診後に医師が「即時入院には至らないが、深夜の急な発熱や疼痛(とうつう)などで受診したこと自体は医学的に妥当であった(不適切なコンビニ受診ではない)」と判断した場合には、事後的に選定療養費を免除する、あるいは医療扶助の「特別基準」の枠組みを準用して柔軟に対応する仕組みづくり。

そして、初期救急医療機関への確実なアクセスの保障。深夜帯であっても、自治体や提携する民間サービスを通じて、タクシーなどの交通手段を自己負担なし、あるいは後日確実に精算を受けられることを前提としたキャッシュレスの仕組みで利用できる体制を整える必要があります。

また、現行の制度を実質的に機能させるためには、受診の前段階である「病院への自力移動」のハードルを行政が能動的に取り除くことが急務です。

医療費の抑制や勤務医の負担軽減というマクロな政策課題が、結果として最も弱い立場にある人々に矛盾を押し付けている現実を見過ごしていると、社会がその代償をいずれ払わされることになります。

生活保護は、命を守る最後のセーフティーネットです。行政、医療現場、そして国が密に連携し、「1万円払えないから救急車を呼ぶしかない」といった矛盾を断ち切るための、実効性ある対策が求められています。



■三木ひとみ
行政書士(行政書士法人ひとみ綜合法務事務所)、社会保険労務士(ひとみ社労士事務所)。官公庁に提出した書類に係る許認可等に関する不服申立ての手続について代理権を持つ「特定行政書士」として、これまでに全国で1万件を超える生活保護申請サポートを行う。著書に『わたし生活保護を受けられますか(2024年改訂版)』(ペンコム)がある。

配信元: 弁護士JP

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