新日本プロレスの人気プロレスラーにして「100年に一人の逸材」と言わしめ、プロレスラーを引退したばかりの第11代社長(’23年12月就任)棚橋弘至が、日々の激務のなかでひらめいたビジネス哲学を綴っていく。今回は「単純接触効果」について。棚橋社長はいったいどんな結論に至ったのか。(以下、棚橋弘至氏の寄稿)
◆有望な選手が多すぎるからこそ「スター」が生まれにくい理由
某日。大学生の娘と話をしていました。そこで「ねぇパパ、これ知ってる?」と娘によるマンツーマン講義が始まりました。娘は社会心理学のゼミで「認知バイアス」に興味を持って現在勉強しているらしく、教えてくれたワード。それは【単純接触効果】でした。意味は、簡単に説明すると「何回も見たり会ったりした人物に、人は好意を抱く」というものです。
こ、こ、これは!

【単純接触効果】だと、プロレスラー10人を1回ずつ出すより、1人を10回出したほうが認知度は高まり、スターが生まれる可能性があるということになる。
なるほど。今、新日本プロレスには、20代~30代前半の有望な選手がゴロゴロいる状態。僕としては、新日本プロレスの歴史から見ても「こんなにもトップに立てる可能性のある選手がたくさんいる時代はかつてなかった。新日本プロレスの未来は明るいです!」と、いろんなインタビューで言ってきました。
もちろん、その考え方は今もありますが、その逆の可能性にも気づきました。
圧倒的に目にする選手が1人出てくるだけで、自然とヒエラルキーが生まれ、見えない序列ができ、そこに競争意識が生まれ、新日本プロレスの勢いは加速する。
この【単純接触効果】という言葉も意味も知らなかったけれど、目に触れた数が多いほど、感情移入しやすく応援につながり、会場も盛り上がるはずだ……。そう信じて、’00年代、当時はまだブログしかなかったけれど、SNSを頻繁に更新し続け、日本全国を大会プロモーションで飛び回っていた人物を僕は知っています。

僕は、この言葉の存在は知らなかったけれど、体感として「会ったことがある人は応援しやすい」という経験を試合やプロモーション活動を通して感じていたんですね。
……というように認知バイアスの言葉の一つを理解した僕は、今後の新日本プロレスにも、もちろん生かしていきたいわけです。
SNSで情報が溢れているこの今の時代に、ピンポイントで情報を届ける難しさもわかっていますが、まず、やってみないと。
そうなると、やはり選手ひとりひとりの意識改革が必要になってきますね。
昔、天龍(源一郎)さんが「自家発電できないレスラーは消えていく」と言っていた記憶がありますが、まさにそれなんです。
ありがとう、娘。とても必要な知識を教えてもらえた。ただ、父さんは、言葉の意味は知らなくても、実際にそれを何年もやっていた逸材だったのだよ。フフフッ。
◆今週のオレ社訓 ~This Week’s LESSON~
「会ったことがある人は、応援しやすい」を実践できる選手を増やす!<文/棚橋弘至 写真/©新日本プロレス>
―[新日本プロレス社長・棚橋弘至のビジネス奮闘記~トップロープより愛をこめて]―
【棚橋弘至】
1976年生まれ。新日本プロレスの第11代社長(’23年12月就任)。’26年1月4日を以て現役を引退。キャッチコピーは「100年に一人の逸材」

