脳トレ四択クイズ | Merkystyle
「悪魔のような制度」自治医大・修学資金3766万円“一括返還”巡る訴訟 原告医師「僻地勤務“強制”ではなく“行きたくなる”制度を」

「悪魔のような制度」自治医大・修学資金3766万円“一括返還”巡る訴訟 原告医師「僻地勤務“強制”ではなく“行きたくなる”制度を」

医師の人生を縛る契約は、法のもとで許されるのか――。

自治医科大学(栃木県下野市)を卒業した医師のA氏が、修学資金など計3766万円の一括返還を求められているのは違憲・違法だとして、同大学と愛知県を相手取って争っている訴訟の第6回口頭弁論が6月8日、東京地裁で開かれた。

この日、原告側は損害金として課される「年10%」の利率について、算定の根拠を示すよう被告側に開示を迫った。一方の被告側は、労働法上の争点などに反論。

代理人の伊藤建弁護士は会見で「端的にいえばあまり進みのない期日だった。ただ、だいぶ争点は煮詰まってきており、年度内の結審もありうる」と述べた。

「入学後に後出しでキャリア狭めた」

自治医大は旧自治省(現総務省)の主導で、全国の都道府県が共同で設立した私立大学だ。入学者全員に修学資金が貸与され、卒業後、出身県が指定する僻地(へきち)等の公立病院に貸与期間の1.5倍(標準9年)勤務すれば、返還が全額免除される。

A氏は2015年に入学し、愛知県の職員兼研修医として勤務した。しかし、父の失職や自閉症の弟の介護、妻の妊娠による扶養負担増で経済的に困窮。

一般的な研修修了医師の場合、アルバイトで360万円程度が得られるとされるが、地方公務員の身分ではアルバイトが禁じられ、収入は一般的な研修修了医師より数百万円単位で少なかったという。

この日の期日までに、原告側は第6準備書面とあわせ、「求釈明ならびに証拠開示請求書」を提出した。

原告側が開示を迫ったのは、損害金の利率の算定根拠だ。契約上、義務年限の途中で退職すると、修学資金に加え年10%の損害金、さらに年15%の遅延損害金を支払わなければならない。原告側は、この利率の根拠と、これらが消費者契約法9条1号の定める「平均的な損害の額」を超えないとする客観的な裏付けの提出を求めた。

加えて、原告側は被告らが返還免除の条件成就を自ら妨げたとして、民法130条に基づき返還義務は生じないとも主張した。

根拠として挙げたのが、愛知県が作成した「キャリア形成プログラム」だ。A氏が大学3年だった2019年2月頃、同プログラムが大学の担当者を通じて学生に通知され、専門医資格の取得に配慮する診療科が一部に限定されたという。原告側は、入学後に一方的にキャリアの選択肢を狭める“後出し”があったと位置づける。

加えて原告側は、信義則違反も指摘。入学募集要項には「入学金等学費はかかりません」などの勧誘文言が並ぶ一方、低い給与水準やアルバイト禁止、居住地・勤務地の強い制約、義務年限を満たせない場合に年10%の損害金が上乗せされる数千万円規模の返還義務といった重大な不利益情報は説明されていなかった、というのが原告側の立場だ。

被告側は関連共同性を否定

これに対し被告側は、労働法上の争点を中心に反論した。

被告大学は、労働基準法16条が刑事罰を伴うため厳格に解釈すべきだとした上で、自身は労働契約の当事者ではなく同条は及ばないと主張。同条は、使用者が労働契約の不履行について違約金や損害賠償額をあらかじめ定めることを禁じる規定だが、大学側は「雇用主は県であり、貸与主体の大学とは別個の主体だ」との立場を崩していない。

被告愛知県も、契約の締結内容には関与しておらず、大学との関連共同性はないと反論。A氏の退職は依願退職にすぎず、アルバイト禁止は地方公務員法38条によるもので、臨床研修もキャリア形成プログラムに沿った勤務を前提としたものだとした。

原告側は、こうした構造を「三角関係」と表現する。一般的な地域枠制度では大学と雇用主が一体となっているのに対し、自治医大では大学・県・勤務先の病院が三者に分かれ、責任の所在があいまいになりやすいという。

「現状の方法は対症療法でしかない」

A氏は昨年3月の提訴時の会見で、自治医大の修学資金制度を「無知な受験生を囲い込んで、卒業後、退職の自由を奪った上、不当な労働条件で使いたおす、まさに悪魔のような制度」と非難していた。

訴訟には「お前が訴えるから、かえって僻地に医師が行けなくなる」「グレーゾーンでまかり通っているのだから、地域医療のためにも裁判で白黒つけるべきではない」といった批判も寄せられるが、A氏は8日に開かれた会見で、改めてその真意を語っている。

一貫して訴えるのは、現状の地域医療政策が「対症療法」にすぎない、という見方だ。

「世の中の皆さんに、僻地や医師不足の地域へどう医師を供給するのが妥当なのかを考えていただく機会は、幸いにも増えてきたと思います。ただ、現状の方法は、どうあがいても対症療法でしかありません。

自治医大ができて半世紀以上が過ぎ、その後地域枠制度も広がりましたが、それでも医者は不足しています。

重要なのは医師が自発的に僻地や地域の病院で勤務をしたいと思えるような制度ではないでしょうか」(A氏)

そう述べたうえで、医師らしく病気になぞらえた。

「腹痛の患者にロキソニンを処方すれば、その場の痛みは一時的に収まるかもしれない。しかし、それでしか痛みが収まらないとなれば、薬は増え、副作用も強まり、悪循環に陥る。

医療業界を中から見ても、訴訟に寄せられるコメントを踏まえても、同じ悪い方向のスパイラルに入っているのではないかと強く懸念しています」(同前)

批判を受けながらも提訴に踏み切った理由を、こう明かす。

「私が声を上げなくても、いずれ誰かが声を上げる。その人は、私よりひどい状況に追い込まれ、命が危うくなってから訴訟に至るかもしれない。

そうした事件を待つよりは、まず自分が声を上げようと思ったのです。白黒をはっきりつけることで一時的に不利益を受ける方もゼロではないと思いますが、日本の医療が将来にわたって持続可能であり続けることにつながる部分は多い。今後も弁護団とともに戦っていきたい」(同前)

大学側「返還請求は正当な対応」

次回期日は8月26日。なお、自治医大はこれまでの弁護士JPニュース編集部の取材に対し次のようにコメントした。

「本学では、経済的事情により高い資質や志を持つ方が進学の機会を失うことがないよう、『修学資金貸与制度』により入学金・授業料等の負担を実質的に不要とし、学生の志を支えています。一定期間、出身都道府県で地域医療に従事した場合には返還が免除されることとされ、これまでに3900名以上が要件を満たし免除されているほか、返還が免除された後も約7割の卒業生が出身都道府県に留まり、地域医療に貢献しています。

本制度の内容はあらかじめ受験生に公表しており、本学の受験や入学についてはご本人の判断に委ねられています。また、修学資金の貸与は契約に基づいて行っており、本学が学生に対し貸与制度を強いているかのような評価は妥当ではありません。本制度が違憲との指摘も全く当たらないと考えております。

本件で原告となっている医師は、本制度を理解したうえで本学に入学し、貸与契約に基づき修学資金の貸与を受けて医学を学び、医師の国家資格を取得されました。その後、自らの判断で地域医療への従事を断念されたため、返還免除の要件を満たさなくなりました。このため、本学は貸与契約に基づき返還を求めているものです。かかる返還請求は、契約に基づく正当な対応であると考えております。

本学としては、本制度が大きな社会的意義を有していること、憲法はもとより関係法令に適合していること等について、今後も引き続き主張を尽くしてまいります」

配信元: 弁護士JP

あなたにおすすめ