
信州の自然豊かな地に住まう作家の小川糸さん。
2年前、里に野良仕事のため土地を購い、新たに小屋(通称ノラコヤ)を建てて山小屋との二拠点暮らしを始めました。
二匹の山羊と過ごす初夏に向けた庭仕事の様子をご紹介します。
作家
小川 糸さん
デビュー作 『食堂かたつむり』(2008年)はイタリア、フランスで文学賞を受賞。以来30冊以上の本を出版し、海外出版も多数。『ツバキ文具店』『キラキラ共和国』『ライオンのおやつ』は、「本屋大賞」候補に選出される。新刊小説は『小鳥とリムジン』(ポプラ社)。
庭に苗を植え、山羊に雑草を喰ませる
植物を育てる喜びを知り、里で庭仕事を始めた小川糸さん。
春先までは里に滞在し、苗を植えるなど、野良仕事に精を出しています。
頼もしい助っ人は、昨春に迎えた二匹の山羊。
ノラコヤまわりの雑草や野菜くずを食べてもらい、糞は肥料にしています。
小川さんがキャベツの外葉やりんごの皮を手にして山羊小屋へ向かうと、柵の隙間から二匹が顔を出し、メェメェと大合唱が始まっていました。
「私を見ると餌がもらえると思って騒ぐんです。茶色いのが海(メス)で黒が空(オス)。おいしそうにパクついてくれるのが嬉しくて、野菜くずをあげるのが毎日の楽しみになりました」
山羊小屋から出して地面に打ち込んだ杭につなぎ、リードの長さを調整して雑草をまんべんなく食べさせると、満腹になったのかゴロンと横になって日向ぼっこを始めました。
ノラコヤは、一階の台所や二階のテラスから山羊小屋が見える設計で「海と空が草をハミハミしているのが可愛くて、眺めているだけでも幸せです」と話します。
この春、小川さんは、逡巡の末、新たな家族(ゴールデンドゥードゥルのメス、一歳半)を迎え、オハナと名付けました。
「はじめはどうなることかと思いましたが、先住犬のゆりねのリードのおかげで一緒にお散歩
できるまでになりました。二匹とも娘のように愛おしい存在です。気づけば、犬二匹、山羊二匹の大所帯に。植物と動物の世話をしていると、一日があっという間に終わっていきます」
山羊は二家族の共同飼育で、小川さんが預かるのはノラコヤに滞在する冬の間のみ。春夏秋の3シーズンは、山羊たちは共同飼育者のもとへ移り、小川さんは標高の高い山小屋に戻ります。そのため、もうすぐ大所帯は一旦解散に。それまでは、山羊たちと過ごす幸せな時間を大事にしながら、たくさんの苗を植える予定だといいます。
「何が根付くかは、植えてみないと分からないので、とにかくいろんな種類の植物を試しています。里の庭にお花があると、切り花にして山小屋でも楽しめるので、今年は花をたくさん植えていきたいですね。ここが野原の花畑になって通りすがりの人が、ふと足を止めて見て和んでくれたら嬉しいです」
新緑が眩しい初夏はもうすぐ。
植物は魔法のように次々と芽吹き、季節はダイナミックに進んでいきます。
わんぱくな雌山羊の海ちゃん。
「昨春はがりがりだったのに、一年でこんなにたくましくなりました」
雄山羊の空くんはシロツメクサが大好物。
料理しながら山羊たちの様子が眺められるよう目の高さに設けたキッチンのガラス窓。
山羊のエサのチモシー牧草。アメリカからの輸入品で古道具のバスタブにストック。
カレンデュラ、ドワーフコンフリー、レモンミント、フェンネルなどの苗。
レイズドベッドに植えることで土壌管理がしやすく、雑草からガード。「夏になると雑草に占拠されてどこに何を植えたかが分からなくなるんです。
パセリの一種、メヌエット。
「料理にもハーブティーにも使えて重宝します」
ゴミを肥やしにする循環する暮らし
小川さんが日頃から心掛けているのは無駄を省くこと。
「生ゴミは山羊やコンポストを介して肥料にし、紙ゴミも灰にして土へ戻しています」
また、ノラコヤに換気扇やクーラーをつけず、窓からの風で換気や食品保冷をし、電力やガスに依存しない生活を叶えていました。
野菜くずや果物の皮は山羊のご馳走
山羊はとっても食欲旺盛。
野菜や果物の皮やヘタ、精米した際に出る米ぬかも一瞬でペロリと平らげます。
「お米のとぎ汁は山羊たちのミルク。おいしそうに飲んでくれるので、流さないように研いで大事に与えています。山羊たちのおかげで生ゴミがほとんど出ないので気持ちがいいです」。
エサ入れには、古道具の飯炊き釜を活用。
山羊の糞を庭の肥料に
山羊たちは毎日たくさん食べてたくさん糞をするため掃除は欠かせない日課。
山羊の糞は、コロコロとした粒状なため箒ではいて収集し、畑の肥料に。「臭いもそれほどせず、パラパラとそのまま畑に撒けて扱いやすくて助かります」。
山羊が食べ残した牧草と糞を土に混ぜて小山にし、納豆を刻んで振りかけると発酵して、たい肥が完成。
米ぬかや焚き火の灰で土壌を整える
里の庭は、もともとは雑草が茂った未開墾地。
一角に焚き火場を設け、選定した枝や紙ごみなどを燃やして暖を取り、残った灰は土に撒いて土壌の改良に役立てます。
「瘦せた土地なので、灰を混ぜて酸性土壌を中和したり、米ぬかを撒いて肥料にしています。落ち葉を溜めて天然の腐葉土も作っていて、市販の肥料は使っていません」
山羊が食べない生ゴミはコンポストへ
ニラやねぎ、玉ねぎ、ケールなど山羊にとって毒性のある野菜のくずや卵の殻などはお手製のコンポストへ。
「誤って山羊たちが食べてしまったら、と思うと怖いので、木箱に土をいれて深く埋めています」。
納豆のパックを洗った水を上からふりかけたり、刻んだ納豆を土に混ぜ込んで、時折かきまぜると生ゴミが分解されてふかふかの土に。
野良仕事の動線を考えた土間の家
ノラコヤの一階は、外と地続きの土間。
「いちいち靴を脱ぐのは面倒なので農家の作業場のような作りにしました。炊事場やトイレまで土足で行け、散歩の後の犬たちの足を急いで拭く必要もないので助かっています」。
寛ぐときは階段下で靴を脱いで寝室がある二階へ。海外生活経験が豊富な小川さんならではのシステムです。
外気を使いオフグリットを目指す
ノラコヤにはガスを引かず、電力も自然エネルギーを扱う会社と契約。
さらに、台所に換気扇を付けず、窓からの風で換気しています。
「冬場しかノラコヤにいないので冷蔵庫は車載式の小さなものだけ。風通しのいい2階のテラスが貯蔵庫に。晴れた日はポータブルのソーラーパネルで蓄電し、外部電力になるべく頼らないようにしています」
photograph: Keiko Mizukai edit&text: Mizuki Sakaguchi
大人のおしゃれ手帖2026年6月号より抜粋
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