脳トレ四択クイズ | Merkystyle
田久保前市長「“チラ見せ”卒業証書」差押え拒否は「適法」だが…それでも“有罪の可能性は十分”といえるワケ【弁護士解説】

田久保前市長「“チラ見せ”卒業証書」差押え拒否は「適法」だが…それでも“有罪の可能性は十分”といえるワケ【弁護士解説】

静岡県伊東市の田久保眞紀前市長の学歴詐称疑惑をめぐり、静岡県警は4日付で、公選法違反など3つの被疑事実について同氏を送検した。田久保氏はすでに有印私文書偽造・同行使などの罪で起訴されており、今回追送検された容疑について起訴されれば、併せて審理されることになる。

公判を通じて重要な証拠となりうるのが、市議会の正副議長に「チラ見せ」したとされる「卒業証書」の現物である。これは有印私文書偽造・同行使罪における決定的な物的証拠となるだけでなく、他の罪状においても、同氏が「実は東洋大学を卒業していない事実」を認識していたという「故意」を立証する上で極めて重要な意味を持つ。

しかし、この卒業証書は田久保氏の代理人弁護士が保管し、刑事訴訟法上の「押収拒絶権」(同法105条)を根拠に提出を拒んだと報じられており、現在もその状況に変化はみられない。

今後、公判手続において、裁判所による「卒業証書」の差押えが想定されるが、これに対し弁護士による押収拒絶権の主張は法的に認められるのか。また、それが認められた場合、検察側の立証活動や裁判所の判断にどのような影響を及ぼすのか。刑事弁護の専門家であり、刑法・刑事訴訟法の理論と実務に精通する岡本裕明弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)に話を聞いた。

弁護士の「押収拒絶権」とは何か

弁護士の「押収拒絶権」は、弁護士が業務上の委託を受けて保管する他人の秘密に関する物について、押収を拒むことができるというものである。ただし、例外がある。秘密の主体である本人が承諾した場合や、押収の拒絶が「被告人のためのみにする権利の濫用」と認められる場合などである。

本件で、田久保氏の弁護士が保管する「卒業証書」は、この例外に該当しないのだろうか。

岡本弁護士:「『被告人のためのみにする権利の濫用』とは、秘密の主体である『本人』が被告人と別人であり、その本人としては押収を拒絶しなくても差し支えないにもかかわらず、弁護士が、被告人の防御活動のためにだけ押収拒絶権を行使しようとする場合をいいます。

『被告人が(秘密の主体)本人である場合』には、被告人が自分自身の秘密を守ろうとするのは無理からぬことであり、むしろ当然なので、この要件をみたさず、『被告人のためのみにする権利の濫用』とはいえないと解釈されています。したがって、本件では原則通り、『卒業証書』について弁護士の押収拒絶権の行使が認められることになります」

つまり、卒業証書という秘密の主体は被告人である田久保氏自身であるため、弁護士が同氏の利益のために押収を拒むことは、権利の濫用にはあたらないということになる。

証拠提出を拒む行為は許されるのか

ここで、疑問が生じる。被疑者・被告人が弁護士に証拠物を「秘密」として委託すれば、常に押収が拒まれてしまうことになり、真実発見の観点から不当ではないか。

この点について岡本弁護士は、被告人自身の証拠隠滅行為が刑法上罰せられていないこととの整合性から、やむを得ない側面があると指摘する。

岡本弁護士:「被告人自身による証拠隠滅行為が罰せられていないのは、自己に不利益な証拠を隠したいと考えるのは人間として自然なことであり、法がそれをしないことを期待するのは酷だと考えられているためです。

被告人が弁護人に証拠物を『秘密』として預け、自分に有利なタイミングまで提出しないこともあり得ます。それは被告人の防御権の行使の範囲内であり、証拠隠滅行為とまではいえないのです」

そうだとしても、弁護士が押収拒絶権を盾として重要な証拠の提出を拒むことは、真実発見の要請や弁護士倫理に反し、あるいは弁護士法による懲戒の懲戒事由にはならないのだろうか。この問いに対し、岡本弁護士はむしろ逆の可能性を示唆する。

岡本弁護士:「たしかに、刑事訴訟法のコンメンタール(逐条解説書)等では、一部の学者が、弁護士が被疑者・被告人から重要な証拠を預かり押収拒絶権を行使した場合に、弁護士法による懲戒の対象となり得るとする見解を示していることが記載されています(松尾浩也監修『条解刑事訴訟法 第5版』(弘文堂)ほか)。

しかし、そのような見解は、刑事訴訟実務上は採用され難いでしょう。むしろ、弁護士が押収拒絶権を行使せず、押収に応じたら、かえって懲戒事由になりかねません。

なぜなら、そもそも、弁護士は依頼者である被告人の利益のために行動する誠実義務を負っており、また、職務上知り得た秘密を守る守秘義務も負っているからです。

本人が弁護士を信頼し物を預けている以上、弁護士は被告人の利益を守るため、押収拒絶権を行使するしかない立場に置かれていると考えざるを得ないのです」

弁護士の押収拒絶権は、被告人の防御権を保障するための重要な制度であり、その行使は弁護士の職務倫理に根ざした正当な行為と位置づけられていると解さざるを得ないということである。

物的証拠なくして有罪認定は可能なのか

弁護人が押収拒絶権を根拠に「卒業証書」の提出を拒み続けるとなれば、最も重要な物的証拠が法廷に現れないまま、審理が進むことになる。その場合、検察側はどのようにして有罪を立証し、裁判所はどのような判断を下すことになるのか。

岡本弁護士は、直接的な物的証拠がなくとも、検察側が状況証拠を積み上げることにより、裁判所による有罪認定が行われる可能性は十分にあると解説する。

岡本弁護士:「有罪認定には、犯罪事実が存在したことと、それが被告人により行われたことが立証されれば足ります。

検察側は状況証拠(間接事実(※)ともよばれる)を積み上げることにより、有罪の立証を試みることになります。実際に、犯行を直接的に証明する証拠がない中で有罪判決が下されたケースは存在します」

※犯罪事実があったことを間接的に推認させる事実

本件では、たとえば、有印私文書偽造・同行使の被疑事実について、すでに、有力な状況証拠となりうる事実が複数報じられている。

岡本弁護士:「伊東市議会の議長と副議長はそろって田久保氏から『卒業証書』の提示を受けたと報じられており、同氏自身も『チラ見せではなく19.2秒ほど見せた』と述べて『卒業証書』の提示の事実を認めています。また、東洋大学は田久保氏の卒業証書を発行した事実はないと公式にコメントしています。

これらの事実によって、何者かが真正でない『卒業証書』を作成したという『偽造』の事実と、それを田久保氏が真正なものとして提示したという『行使』の事実が、ある程度裏付けられているといえます。

さらに、起訴状によれば、田久保氏が東洋大学の学長印をインターネット上で注文していた事実が確認されているとのことです。

偽造された卒業証書そのものを証拠として用いることができない場合、検察官側に課される立証のハードルは相当に高いように思われますが、田久保氏が犯行に及んだと考えなければ合理的に説明できない事実関係が認められれば、有罪判決が下される可能性は十分に考えられます」

今回追送検された3つの被疑事実に関しての検察による起訴・不起訴の判断、および今後開かれる公判においては、被疑事実を推認させる状況証拠がどれだけ強固に積み上げられるかが、最大の焦点となるだろう。

配信元: 弁護士JP

あなたにおすすめ