今月2日、回転ずしチェーン「はま寿司」の店舗において、回転レーンに届いた寿司に食器用洗剤のような液体をかける動画をSNSに投稿した43歳の男性が、威力業務妨害の疑いで逮捕されました。
この男性は警察の調べに対し「SNSの再生回数を増やしたかった」と容疑を認めているといい、本人としては単なる“悪ノリ”のつもりだったのかもしれません。
しかし、このような飲食店での迷惑行為は、近年しばしば報道されています。今回のケースのように逮捕されて刑事責任を問われるほか、被害店舗に対して多額の損害賠償責任を負う可能性もある点に注意が必要です。
本記事では、飲食店で迷惑行為をした人が負う法的責任につき、刑事・民事の両面から解説します。(弁護士・阿部由羅)
威力業務妨害「罪の重さ」は?
今回の「はま寿司」のケースでは、寿司に食器用洗剤のような液体をかける動画を投稿した男性が「威力業務妨害罪」によって逮捕されました。
威力業務妨害罪は、威力を用いて人の業務を妨害した場合に成立する犯罪です(刑法234条)。法定刑は「3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」とされています。
「威力」とは、人の自由意思を制圧するに足る勢力をいいます。今回の事案で言えば、男性が投稿した動画を視聴した人は、はま寿司に対して不衛生な印象を抱き、来店を控えようとする可能性があります。男性は不適切な動画の投稿という「威力」を用いて、はま寿司の業務を妨害していると評価できます。
まだ捜査中の事案なので断言はできませんが、このような理由から威力業務妨害罪での逮捕に至ったのではないかと考えられます。
なお、迷惑行為の内容によっては、威力業務妨害罪以外の犯罪が成立する可能性もあります。
たとえば、飲食店の備品を壊したり汚したりした場合は「器物損壊罪(刑法261条、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料)」が成立します。
店員に対して脅迫や暴行をしながら、理不尽な要求をした場合は「強要罪(刑法223条、3年以下の拘禁刑)」が成立します。
実際の量刑は、犯行の方法や悪質性の程度、被害店舗に生じた損害の大きさなどを考慮して判断されます。また、同種の迷惑行為を繰り返していた場合や前科がある場合などには、量刑が重くなる傾向にあります。
なお過去には、回転ずしチェーン「スシロー」の店舗で、当時17歳の少年が醤油差しの注ぎ口や未使用の湯飲みを舐めるなどした動画がSNS上で拡散された事案が報道され、物議を醸しました。しかし少年は逮捕されず、書類送検後に家庭裁判所へ送致されました。
スシローの事案のように、迷惑行為をした人が20歳未満である場合は「少年法」が適用され、20歳以上の人とは異なる扱いを受けます。
この場合、原則として通常の刑事裁判ではなく、家庭裁判所の手続きによって審理され、刑罰を科さずに、保護観察や少年院送致などの保護処分が行われます。
ただし、重大な犯罪については「逆送(=家庭裁判所から検察官へ事件を送致すること)」が行われ、成人同様の刑事裁判によって刑罰が科されることもあります。
「数千万円以上」の損害賠償責任を負うリスクも
飲食店で迷惑行為をした人は、犯罪の刑事責任だけでなく、被害店舗に対する損害賠償責任(民事責任)も負います。
迷惑行為は不法行為(民法709条)に当たり、加害者は被害店舗に生じた損害を賠償しなければなりません。
迷惑行為によって通常生じると考えられる損害は、すべて賠償する必要があります。たとえば、次に挙げる損害などを賠償しなければなりません。
- 壊れた設備や備品の修理費
- 店内の清掃に要した費用
- 食品の廃棄による損害
- 事態を収拾するために余計にかかった人件費
- 営業を中断したことによる逸失利益
- 店舗の評判が低下したことにより減少した売上 など
特に被害店舗が大規模なチェーン店である場合には、風評被害などによる損害が多額に及ぶため、数千万円以上の損害賠償責任を負う可能性が否定できません。
たとえば、上述したスシローの事件においては、少年の行為につき、スシローの運営会社は少年に対して約6700万円の損害賠償を請求し、大阪地裁に訴訟を提起しました。調停が成立したため訴訟は取り下げられましたが、少年側はスシロー側に対して相応の賠償金を支払ったものと考えられます。
約6700万円という多額の請求も、大手回転ずしチェーンであるスシローの企業規模や、大々的に報道されたことによる風評被害の大きさを考えると、高額過ぎるとは言えないでしょう。ほんの出来心でも迷惑行為をしてしまうと、思いがけず多額の損害賠償責任を負うことになりかねないので要注意です。
なお、上述のスシローの事件のように、迷惑行為をした人が未成年者である場合は、その人に「責任能力」があるかどうかによって、誰が損害賠償責任を負うかが変わります。「責任能力」とは、自分の行為によって生じる責任を理解できるだけの精神能力です。
未成年者に責任能力がない場合は損害賠償責任を負いませんが、代わりに監督義務者(保護者など)が損害賠償責任を負います(民法712条、714条1項)。
これに対して、未成年者に責任能力がある場合は、原則として本人が損害賠償責任を負うことになります。
責任能力の有無は、本人の精神能力の程度を具体的に考慮して決定されます。一般的には、10~12歳程度が責任能力のボーダーラインと考えられています。
■阿部由羅(あべ ゆら)
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。

