
ファイナンスの中でも、多くの人が難解だと感じがちなのが「会社の値段(企業価値)」の算定方法です。一見すると複雑な数式が並ぶ世界ですが、その本質は「将来どれだけのカネを生み出すか」という原則に集約されます。今回は、会社を「金の卵を産むガチョウ」に例えたユニークな視点から、利回りが価格に与える影響の本質を解き明かし、ビジネスに必要なファイナンス思考の基礎を提示します。
会社を「一羽のガチョウ」に例えると、値段のつけ方が見えてくる
米国的といわれる合理的思考の代表格は、ビジネススクールで教わることでしょう。その中でファイナンスといわれる分野が、会社の値段を算定する方法について学ぶ科目です。
ここではその一部をつまみ食いの形で解説します。簡単な公式ですが、なぜそうなるのかをそもそも論から理解すれば、会社の値段の算定の仕方をマスターしたも同然です。若干の数式がでてきますが、煙たがらずにここだけはなんとか乗り切ってください。
まずは、会社を、毎日ひとつ卵を産む一羽のガチョウにたとえて考えてみましょう。このガチョウを売ってほしいという人が現れたら、どうやって「適正な」値段をつければ良いでしょうか。羽がきれいなので飼って眺めていたい人にとっての値段、殺して肉を食べたい人にとっての値段、いろいろな視点があります。
しかしせっかく卵を産むわけですから、その価値を評価しない値段で売ってしまうのはあなたにとって損な取引です。
このガチョウが、死ぬまでの間に100個の卵を産むとしたら、少なくともこのガチョウは町で売っている卵100個分の値段と同じ(えさ代などを差し引いてですが)になるはずです。もし、あなたのガチョウが産む卵が金の卵だとしたら、もはやそのガチョウは巨大な金の塊と同じ価値になります。
ただし、いつまで金の卵を産み続けるのか、いつ病気や事故で死んでしまうかはわかりませんから、正確な値段をつけようがない、というのもこれまた真実です。腹を切って何個の卵を産めるか確かめようとしたら、全てを失います。
金の卵を産むという価値を持っているガチョウとなれば、もはや見た目が可愛いとか、肉に脂がのっていてローストしたらうまそうだとかいう価値は、どうでもよくなります。ガチョウの値段は、ひとえにその産み出す金の量によって決まるのです。
会社というのは、金の卵を産むガチョウと同じとイメージしていただくとわかりやすいかと思います。のみならず、会社は生身の生き物ではありませんから、きちんとメンテナンス(経営)をすれば、永遠に毎年利益を生み続けることのできるスーパーガチョウです。
永遠に毎年生み出す利益(キャッシュ)の合計額がこの会社の値段となる、これが企業価値算定の基本です。
永久国債の値づけを例に、具体的な国債の値段を算出してみよう
将来にどれだけのカネを生み出すかによって値段が決まる、これは、会社の値段のみならずどんな投資商品についても同じです。
預金や債券のように毎年利息を生む投資商品も、毎月賃料収入が得られるマンション投資も、不動産バブルの崩壊を経て日本の土地の値段のつけかたにおいてもこの考え方が主流となりました。これが収益還元法とかDCF法(Discounted Cash Flow、キャッシュフロー還元法)と呼ばれている評価方法です。
具体的な算定方法の出発点として、永久国債(償還期限のない債券)の値づけを考えてみます。
「毎年確実に1万円ずつ利息を払い続けます、期限はなく永遠に子孫末裔の代まで払います」
このような国債が発行されたら、あなたはいくら払ってこの国債を買おうと思いますか? この質問は言い換えると、あなたはこの投資でどれほどの利回りが欲しいですか? と同じです。
「銀行に預金しても0.5%も利息がつかないのだから、1%あれば十分」という答えであれば、この国債の値段は100万円となります。
なぜならば、これは、1%の利率で毎年1万円の利息金を生んでくれるような元本はいくらか、という質問と同じ、したがって、
元本×1%(0.01)=1万円
元本=1万円/0.01=100万円
だからですね。
「いやいや、国の借金は莫大になっていてこのままでは借金返済の目途がたたないから、南米やギリシャのような国債大暴落が起こって貨幣価値が下がる、つまりインフレになるぞ。だから俺は、10%の利回りでなければこの国債は買えない」と考える人もいるでしょう。
その人にとっては、同じ国債の値段が、
1万円/10%(0.1)=10万円
と10分の1になります。
このように、投資家が要求する利回りによって、投資商品の値段は違ってきます。米国でも日本でも「金利上昇により地方銀行が保有する国債の含み損が巨額になっている」という記事を見たことがあるかと思いますが、このコメントは投資商品の値づけルール原則に基づいたものです。
森生 明
グロービス経営大学院
講師
