
市場全体の値動きと連動し、多様な銘柄に広く投資できるインデックス投資。長期運用で安全に資産を増やせる投資手法として人気ですが、富裕層はインデックス投資だけには頼らないといいます。本記事では、宮脇さき氏による書籍『世界の新富裕層はなぜ「オルカン・S&P500」を買わないのか』(KADOKAWA)を一部抜粋・再編集して、インデックス投資のみを運用する危険性についてご紹介します。
富裕層はなぜインデックス投資に頼らないのか?
国内外の構造的なリスクが交錯する現代では、「オルカンかS&P500に長期投資しておけば安心」という従来の常識は通用しなくなりつつあります。実際、資産を大きく伸ばしている富裕層ほど、インデックス一本に頼ることなく、複数の視点で戦略を構築しています。
特にレイ・ダリオ氏らが指摘するように、今起きている変化は、景気循環の一時的な揺らぎではなく、数十年から数百年単位で起こる世界的な秩序や金融システムの転換期の可能性もあります。
オルカンは多通貨に分散されているため、S&P500ほど米ドルに依存してはいませんが、それでも基準価額は各国の株価と為替の両方に左右されます。つまり、多くの通貨に対して円高が進めば、オルカンの円建て基準価額にはマイナスの影響が出ますし、逆に多くの通貨に対して円安が進めばプラスの影響が出ます。
しかし重要なのは、日本の投資家が最終的に円で資産価値を評価する限り、「円高」という大きな波は、たとえ投資先通貨が分散されていても、その影響を完全には排除できないという点です。
特に世界的な金融不安などの局面で「有事の円買い」が重なった場合、株価の下落と円高が同時に投資価値を押し下げるため、「為替変動リスク」と「市場暴落リスク」が同時に襲いかかる「ダブルパンチ」に見舞われる可能性は依然として無視できないのです。
S&P500やオルカンなどの指数が下落する局面で、同時に急激な円高が進行した場合、日本の投資家が円ベースで被る損失は、指数そのものの下落率よりも大きくなるということを、過去の具体的な事例で見てみましょう。
事例・リーマンショック(2007年後半~2009年初頭)
「S&P500/オルカン」の下落
この期間、S&P500指数はピークからボトムまで約57%下落。同様に、全世界株式インデックスであるオルカンも約58%下落しています。
為替(米ドル/円)の変動
世界的な金融不安から、相対的に安全と見られた円が買われる「有事の円高」が進行。為替レートは、2007年半ばには1ドル=120円を超える水準でしたが、2009年初頭には1ドル=90円を割り込む場面も見られました。
仮に、危機前のピーク時(例:2007年10月頃)に1ドル=115円だったものが、株価の底である2009年3月頃に1ドル=95円まで円高が進んだとして、次のように下落率を試算してみましょう。
S&P500における円ベースでの下落率(試算)
危機前に115万円(=1万米ドル、1ドル115円で換算)をS&P500に投資していたとします。
S&P500が57%下落すると、ドル建て換算で1万ドル×(1-0.57)=4,300米ドルです。この4,300米ドルを、円高が進んだ1ドル=95円で円に換算すると、4,300米ドル×95円=40万8,500円となります。
結果として、当初115万円だった円建て資産は、約40万8,500円へと約64.5%も減少してしまいます。
これは、S&P500のドル建て下落率57%を大きく上回る損失率です。オルカンの場合も同様に、円建てでの損失は約65.3%となり、ドル建てでの下落率以上に大きくなりました。
このように、S&P500、オルカンともに、円高が株価の暴落と同時に発生した場合、日本の投資家は想定以上に円ベースでの資産毀損リスクを伴うのです。だからこそ単純なインデックス投資だけに頼るのではなく、金融ショックなどのリスクオフ局面でも価値を保ちやすい実物資産(金、不動産など)への分散も重視するのです。
宮脇 さき
個人投資家・富裕層向け海外移住コンサルタント
※本記事は『世界の新富裕層はなぜ「オルカン・S&P500」を買わないのか』(KADOKAWA)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。記載内容は当時のものであり、また、投資の結果等に編集部は一切の責任を負いません。
