都心では住宅価格が高騰し、現役世代が「家が買えない」と嘆く一方で、日本では「誰も住まない家」が増え続けている。
戦後の高度経済成長期に地方から都市部へ出た世代、そしてその子どもたちと、相続の問題はいま二世代にまたがって積み重なっている。地方に残った実家、郊外に買った一軒家、管理費だけがかかり続けるマンションの空き住戸――「負動産」の連鎖はどこへ向かうのか。その構造をひもとく。
※ この記事は、牧野知弘氏の著書『家が買えない ―高額化する住まい 商品化する暮らし―』(早川書房、2024年)より一部抜粋・構成しています。
二世代にまたがる「空き家」問題
不動産の価格上昇で、庶民にとって「家が買えない」状況があるが、それとは真逆に「家が余る」事態も日本で進行している。それが「空き家問題」だ。
太平洋戦争が終結したのが1945年。それからすでに80年の時が経った。80年と言えば、ほぼ三世代にわたって家が引き継がれていることになる。
戦後の復興を経て、日本は1960年代に高度経済成長の時代を迎えた。成長をけん引したのが地方から東京、大阪、名古屋などの大都市に大量に流入した人々だ。彼らは都市部で働き口を見つけ、都心の職場から離れた郊外にマイホームを持ち、地元に戻ることはなかった。
そんな彼らが直面したのが、地方に残した親たちが住む実家の問題だ。勤めている会社で定年を迎えたあと、今さら地元に戻っても、友人たちとは疎遠(そえん)、地域のしきたりすらわからなくなっている。
そうなると親が亡くなったあと、実家は必然として空き家化する。これが空き家問題の始まりだ。
地方は住民が高齢化しているうえに人口減少が顕著になっているので、「もう誰も住まないから」と売ろうにも、そうそう買い手はいない。古くからある実家を簡単に処分しようとすることに対し、いくら疎遠になったとはいえ近所からの誹(そし)りが気になる人もいるだろう。
結果として、何となく持ち続けることになる。盆や暮れに帰ったときだけ滞在し、ついでに掃除する程度の関わり方で何もしない、問題先送りを延々と続ける。
固定資産税は地方であればそれほどの負担ではないが、家を解体して更地にするとその固定資産税が跳ね上がってしまうことも、空き家のまま放置する誘因になる。これが地方における空き家化の問題で、私は「第一世代空き家」と呼んでいる。
「第二世代空き家」とは?
さらに時代は進んで、1960年代に都市部に出てきた世代も、60年の月日が経つなかで多くが後期高齢者になった。そう、現在は戦後2回目となる相続問題の波が来ているのだ。
彼らの多くが住んでいるのは必死の想いで買い求めた大都市郊外の戸建て住宅だが、その子どもたちもすでに50代から60代の中年期を迎えており、多くは自らの家を持っていて郊外の実家に戻る予定はない。
こうして今起こっているのが、大都市圏郊外戸建て住宅の空き家問題(第二世代空き家)だ。
都心居住が一般化した現代において、都心まで1時間から2時間近くかけて通勤しなければならない郊外住宅地に対する需要は見込めない。代替わりで家が引き継がれる可能性が少なく、新たに買う需要も見出せなければ、郊外戸建て住宅が空き家化するのは止められない流れとなる。
この家を相続する子どもたち(第三世代)に降りかかるのは、親(第二世代)の郊外戸建て住宅だけでなく、親が問題先送りにしてきた祖父母の代(第一世代)の地方住宅も含めた空き家セットだ。
家だけならまだしも、地方には代々受け継がれてきた農地、山林など、彼らがよく知らない不動産が存在する。いずれも換金できないばかりか、維持費、管理費などの負担付き不動産だ。こうなると、もはや不動産ならぬ「負動産」となる。
相続が重なれば重なるほど、こうした負動産は重い負担となっていく。これからの時代は、こうしたやっかいものの負動産に子孫たちが苦しむことになるのだ。
戸建てだけではない…マンションも“負債”に
これから多発する相続において、問題となるのは戸建て住宅ばかりではない。日本の世に登場して約70年、ストック数で700万戸にもおよび、都市部でのごく一般的な住宅形態となった「マンション」も同じだ。
国土交通省「令和5年度マンション総合調査」によれば、2022年末における築40年以上のマンション戸数は125万7000戸。この数は今後増え続け、2032年末には260万8000戸、2042年末には445万戸に急増すると予想されている。
マンションは一般的に、戸建て住宅に比べて流通しやすいと言われてきた。建物の構造躯体(くたい)が強固であり、専有部のみリフォームすれば住環境を比較的維持しやすいからだ。
だが、マンションであっても老朽化は避けられない。それでも東京都心部にあれば、立地の良さから一定の居住ニーズをつかまえることもできるが、郊外にある老朽化マンションになると、買い手はおろか借り手を探すのにもひと苦労となる。
郊外部にあるマンションについては、今後流通性が著しく減じていく運命にあることは戸建て住宅と変わらない。
戦後地方から都市部に出てきて家を持った人たちの一部は、戸建て住宅には手が届かず、新しい居住形態として急速に広まったマンションを選択して買い求めた。この時期に供給されたマンションが築40年以上となり、新築から住み続けている人たちもそろそろ相続を迎える年代になるわけだ。
いっそのこと相続放棄してしまえばと考えても、相続放棄するには預貯金など他の金融資産も同時に放棄しなければならない。こうして仕方なく相続されたマンション住戸が、これから空き家化していく。マンション空き住戸は好都合なことに、周囲からすぐには空き家とわからないので、放置された状態が長く続きやすい。
今はこうしたマンション空き住戸が、郊外老朽化マンションで多発している。マンションは毎月管理費、修繕積立金が徴収される。これがマンションを相続する際の大きな負担となる。住んでいようがいまいが同様にかかってくる負債のようなものだ。
スラム化につき進む郊外老朽化マンション
負担を嫌う一部の相続人が、マンションを相続したことを登記しない、管理組合に届け出ないことによって、管理費や修繕積立金が支払われない事態に陥り、頭を悩ませている管理組合も多数発生している。一部の者であっても必要な費用を滞納すると、建物全体の維持管理に支障をきたすことになる。
ここから行きつく先に、マンションのスラム化問題が横たわる。一般的に空き住戸が全体の3割を超えるとスラム化が始まると言われる。
苦し紛れに筋のよろしくない者に売る/貸すことで、マンション管理に理解を示さない輩(やから)が集まり、居住環境が悪化する。すると環境悪化を嫌った住民が退出する。こうした負のサイクルに陥る可能性がある。
海外にしかない問題だと思われていたスラム化が、今後は日本でも日常風景になるのかもしれないのだ。

