電車内では、咳やくしゃみをめぐるトラブルやストレスがたびたび話題になる。
日本民営鉄道協会が発表した2025年度の「駅と電車内の迷惑行為ランキング」では、「周囲に配慮せず咳やくしゃみをする」が1位となった。インフルエンザや感染症への警戒感が続く中、車内での体調不良に敏感になる人も少なくないようだ。
都内在住の高橋圭太さん(仮名・30代)は数か月前、通勤電車の中で複雑な感情を抱いたという。

インフルエンザ流行中の満員電車 至近距離で続いた咳
その日は月曜日の朝だった。高橋さんが乗っていた通勤電車は、ほとんど身動きが取れないほど混雑していた。
「かなり押し込まれる状態でした」
高橋さんは7歳と3歳の子どもを育てる会社員。当時はインフルエンザの流行時期でもあり、家庭内への感染を持ち込むことに強い不安を感じていたようだ。
そんな中、目の前に立っていた中年男性が咳をし始めた。
「コン......コン......」
しかも、その男性はマスクをつけていなかったそうだ。
「正直、『うわ......』と思いました。週末には、長男が楽しみにしていたサッカーの試合が控えていたんです。もし自分が感染して、家に持ち帰ったらどうしようという気持ちがありました」
しかし、男性の咳は止まらなかった。
「コン......コン......ゲホッ、ゲホッ!」
逃げ場のない距離で咳をされ続けたことで、高橋さんの不安と苛立ちは徐々に強くなっていったという。
「マスクをしてほしいという気持ちでした」
思わず舌打ち... 今度は「委縮させた気まずさ」が残る
高橋さんはついに――。
「チッ」
思わず舌打ちをしてしまった。
「自分でも驚くぐらい、はっきりと聞こえるレベルだったと思います」
すると、男性は高橋さんのほうを見て、「すみません」と小さな声で謝った。それ以降、男性は露骨なくらい咳を我慢し始めたという。
口元を押さえ、肩を縮こませながら耐える様子が見え、どうしても我慢できない時だけ、小さく咳払いをしていた。
「その姿を見ていたら、今度は私のほうがいたたまれなくなりました」
もちろん、感染への不安は本音だった。一方で、舌打ちによって相手を必要以上に委縮させてしまったことにも、後味の悪さを感じたそうだ。
「男性にも事情があったのかもしれないと思うと、なんとも言えない気持ちになりました」
駅に到着して電車を降りた後も、「感染への不安」と「男性を追い込んでしまった気まずさ」が入り混じったモヤモヤ感が残った。
満員電車では、わずかな行動でも周囲へ強いストレスを与えることがある。感染症が流行する時期だからこそ、咳エチケットや配慮を改めて意識する必要がありそうだ。