とある企業に勤める女性従業員のAさんが、産休・育休後に解雇された。
まず、第1子の出産後に時短勤務を打診したところ、社長から「それならパートになるしかない」と言われた。そして第2子の妊娠後、産休・育休の取得を希望したところ、社長と課長から「認めない」と返答された。
その後、産休・育休の取得は認められたものの、職場復帰から4か月後…Aさんは解雇される。
これに納得できないAさんが訴訟を提起したところ、裁判所は「パートへの変更は不利益取り扱いなので無効」「解雇も無効」と判断した。
以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)
事件の経緯
Aさんは、マグロの卸売業などを行う会社の正社員として働いていた。そして前述の通り、2度の出産を経て職場復帰するも、解雇されてしまった。
■ 第1子の妊娠・出産
第1子の出産から職場復帰に至るまでの経緯は以下の通りだ。
2012年11月 第1子を妊娠
2013年6月1日〜 産休
2013年7月3日 第1子を出産→育休
2014年4月1日〜 職場復帰
■ 時短勤務を希望したが...
職場復帰後、Aさんは時短勤務を希望した。その際のやりとりは以下の通りだ(判決文を会話風に要約)。
Aさん「夕方5時ころには帰れる時短勤務をしたいのですが」
社長「時短勤務をするならパートになるしかないです」
Aさん「え...(パートになると契約期間アリになって、しかもボーナスが出ない...)」
Aさんは悩んだ。出産直後で転職先を探すのは難しい上に、出産で他の従業員に迷惑をかけているのに転職するのも...という懸念があったからである。
■ パート契約書にサイン
Aさんは悩んだ末、パート契約書にサインした。
■ 第2子を妊娠
それから約7か月後(2014年11月)、第2子を妊娠した。
Aさん「産休・育休をとりたいのですが」
社長・課長「認めません」
後述するように、裁判所は社長と課長のこの発言について「不法行為である」と認定している。
■ 突然の退職発表
産休・育休の取得が認められたものの、会社はAさんの復帰を好ましく思っていなかったようだ。職場復帰から4か月後の会議で突如、社長が「Aさんは●月●日をもって退職することになりました」と発表した。
なお、この発言についても、裁判所は「不法行為である」と認定している(後述)。
■ 弁護士から書面が届く
その4か月後、会社の顧問弁護士からAさん宛てに書面が届いた。「パート契約を更新しない」という通知だ。
これを受けて、Aさんは訴訟を提起した。
裁判所の判断
Aさんの勝訴だ。裁判所の判断はおおむね以下の通り。
- 正社員からパートへの契約変更は不利益取り扱いにあたる
- 育児・介護休業法23条の2に違反している
- パート契約は無効
- パート契約を更新しない旨の通知は「解雇通知」といえる
- そして解雇も無効
以下、詳しく解説する。
■ パート契約への変更は許されない
育児・介護休業法は「時短勤務を希望した人を不利益に取り扱ってはならない」と規定している。
【育児・介護休業法23条の2】
事業主は、労働者が前条の規定による申出をし、または同条の規定により当該労働者に措置が講じられたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
裁判所は、「パート契約は契約期間アリになって、しかもボーナスも出ない。なのでAさんに相当不利益に変更されている。したがって無効」と判断した。
ここで疑問が生じる。Aさんはパート契約書にサインしているが、それでも無効になるのだろうか。
この点について、裁判所は「Aさんの自由な意思でサインしたとはいえない」と認定している。その理由は、パートにならずとも時短勤務はできたのに、社長が「時短勤務するにはパートになるしかない」と言った点が大きい。従業員がサインせざるを得ない状況に追い込まれた場合は、その契約を無効にできる可能性がある。
■ ただし、サインするのは危険
今回のケースでは契約書にサインしても無効になったが、これは例外的である。サインすると、大抵の場合は従業員が負ける。よって、不本意な契約書へのサインを求められた場合は、サインする前に労働局雇用均等室や弁護士などに相談することを強く推奨する。
■ 損害賠償も認定
裁判所は今回の判断をふまえて、不法行為に基づく損害賠償としてAさんに50万円を支払うよう、会社に命じた。産休・育休を認めないとの発言や、社長が会議で「Aさんは退職します」と発言し、Aさんが事実上、退職を強要されたことが背景にある。
最後に
出産や育児を理由に、従業員を不利益に取り扱うことは許されない。現在は減ってきていると思われるが、産休・育休をめぐって会社から不利益な扱いを受けた場合は、異議を述べ、それを証拠に残し、労働局雇用均等室や弁護士に相談することをおすすめする。

