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近年パリを訪れたことがある人なら、街を走るタクシーや配車アプリのドライバーの多くがトヨタ製のハイブリッド車を採用していることに気付いたかもしれない。映画『TAXi』で主人公がプジョー406を駆っていたことからもわかるように、かつてフランスのタクシーといえばプジョーやルノーといった国産車が主流だったが、この10〜15年で劇的に塗り替えられた。その背景には、環境規制の強化、燃費、そして欧州メーカーが出遅れた市場へのトヨタの巧みな参入があった。
◆数字が示す「ハイブリッド革命」
フランス政府系のタクシー・配車サービス観測機関の2024年のレポートによると、2022年時点でパリのタクシーのうち58%が(プラグインではない)非充電式ハイブリッド車で、ディーゼル車は35%だった。ウーバーやボルトなどの配車サービス車両(VTC)についても50%がハイブリッドで、ディーゼル車は41%となっている。
これは、引き続きディーゼル車のタクシーが多い地方の様相とは対照的で、パリという都市が特別にハイブリッド化を遂げていることがわかる。このパリの「ハイブリッド革命」の中心にいるのが、トヨタのプリウス、カローラハイブリッド、カムリ、そしてレクサスESだ。空港や街中のタクシー乗り場には、トヨタ車やレクサス車を見かける機会が非常に多い。
◆転換点はCrit’Air制度と排ガス規制
この変化を理解するうえで欠かせないのが、2016年にフランス政府が導入した「Crit’Air(クリテール)」制度だ。これは、日本の国土交通省による低排出ガス認定とよく似ていて、車種ごとに大気汚染のレベルを認定し、車両にステッカーを貼ってそれを明示するシステムである。この制度を活用して、パリ首都圏の低排出ガスゾーン(ZFE)では、クリテール分類に基づく走行制限が段階的に強化されてきた。2025年1月からはクリテール3にも対象が広がり、2011年以前のディーゼル車や2006年以前のガソリン車などが規制対象となった。
そこで、プロの運転手たちが目を向けたのが、トヨタのハイブリッド車だった。パリ首都圏で排ガス規制が強化される中、トヨタはすでに成熟したハイブリッド車のラインナップをそろえており、燃費性能や耐久性でも高い評価を得ていた。クリテール制度による走行規制の対象になりにくいことから、規制対応と経済合理性を両立する選択肢として支持を集めた。
◆経済合理性という決め手
もちろん、規制対応だけが理由ではない。タクシーや配車サービスの運転手にとっては、むしろ車両の耐久性、燃費、維持コストが選択基準の核心である。トヨタ製のハイブリッド車はここでも優位性を発揮する。
パリは信号や渋滞が多く、自動車の平均速度は時速20キロ前後と言われる。そのようなストップアンドゴーが多い使用環境において、1日200〜300キロ走行するとなると、回生ブレーキを使ってエンジンとモーターを賢く使い分けるハイブリッドシステムの本領が発揮される。
一般に欧州は日本よりも平均速度が高いと言われ、実際にフランスの郊外では、一般道でも制限速度が時速80キロや110キロ、高速道路に関しては時速130キロと日本よりも速い。こういった郊外での自動車の使われ方も含めると、日本よりも平均速度が高いことは間違いないが、都市部に限って見ると、日本の都市部と同じような使用環境であるため、日本製のハイブリッド車の強みが発揮されるのである。
近年では欧州メーカーも積極的にハイブリッド機構を備えた製品を発売しているが、欧州メーカーは高速燃費を重視する傾向がある。そのため、街中の走行効率に関してはトヨタ製ハイブリッドに一日の長があるとされる。レギュラーガソリンの価格がリッターあたり2ユーロ(約370円)に迫るパリにおいては、消費燃料が1リットルでも減れば、如実に利益に表れてくるのだ。
◆欧州メーカーの空白とトヨタの先見性
もう一つの背景は、欧州メーカーの空白である。プジョーやシトロエン、ルノーといったフランス勢は長年、ディーゼル技術に積極的に投資し、本格的なハイブリッドシステムの量産化で出遅れた。ドイツ勢も、純電動車(BEV)やプラグインハイブリッドに力を入れる一方、トヨタが得意とする非充電式のフルハイブリッドでは存在感を高めきれなかった。
一方、トヨタは1997年にプリウスを発売して以来、30年にわたってハイブリッド技術を磨き続けている。BEV市場が伸び悩むフランス市場においても、トヨタ・フランスの発表によると、2024年の新車登録台数は前年比16%増の13万9977台を記録し、その成長はハイブリッドラインナップが牽引(けんいん)したとされる。
プロ市場への食い込みはその象徴だ。業務用途では目新しいものよりも、実績と信頼性が何より優先される。ハイブリッドのラインナップをそろえたのがせいぜいここ数年の欧州メーカーの製品と比較して、30年の歴史と実績を持つトヨタ製ハイブリッド車の信頼性に期待するプロドライバーが多いのは容易に理解できる。
◆今後の課題:電動化の波
とはいえ、この優位が永続するとは限らない。フランスの大手タクシー会社G7は、ハイブリッド車や電気自動車を中心とする「G7 Green」を展開し、対象車両は7800台超、同社フリートの90%以上に達している。さらに2030年までに車両の30%を電気自動車にする目標を掲げている。ウーバーやボルトといった大手配車アプリも電動化を進めている。フランス政府がBEVの普及を押し進める中、たしかにアメリカのテスラや中国のBYDのタクシーを見る機会は日に日に増している。
パリのタクシーシーンがフランス製ディーゼル車から日本製ハイブリッド車に急速にシフトしたことを見ると、今後の規制や技術開発次第では、加速度的に中国製BEVへシフトする可能性もある。それでもトヨタが勝ち得てきたプロドライバーからの信頼は、プラグインハイブリッドや次世代電動車に戦いの主戦場が移行しても強力な追い風になるに違いない。
