連夜会食を重ねる、役員や経営者たち。場数を踏んだ達人たちの会食には、「商談」という無粋な空気は存在しない。
求めるのは、目先の成否ではなく、長期的な信頼。だからこそ、単なる食事の場を超越した店選びのセンスが必要だ。
時には高級店を、時には意表を突く路地裏の隠れ家を。過ごす時間と比例して相手の好感度を上げてくれる店は、最大の武器になる。
本記事では、会食の達人たちの極意とともに、大切なゲストをもてなす「心地いい一軒」を全2回にわたって特集。
第1弾となる今回は、お相手との距離を縮める「隠れ家フレンチ」や「元麻布の名店」など、経営者が“秘密にしたい”リアルに通う4軒をクローズアップする。
仏産を中心にワインの輸入販売を行う。2023年より現職。フラワーデザイナー「花千代」としても活躍。会食頻度は週3~4回で相手はワインの生産者や同業他社など
「食べる行為は人間の本能。そんな時間を共にしながらビジネスをはじめ、いろいろなことが語り合える。私にとって大切な機会です」
1.食を知るゲストの期待を超えるには、料理人の熱気と「ワオ!」の驚きが必要 『Saucer』
恵比寿と代官山の中間地点に立つマンションの地下1階という立地がまず魅力。通りに面した看板は一切ない、まさに隠れ家
無骨なビルのインターホンで入るというワクワクさがある
ワインを扱うプロとして「食への関心が高い方々」を多くもてなすシンガー由美子さん。
「料理人の顔が見える店選びをすることが多い」と彼女が挙げた店は、マンションの地下1階に看板も出さず潜んでいた。
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会食は人間の本能を介した場のため深くつながることができ、「ビジネスはもちろんいろいろな世界が広がる」と語るシンガー由美子さん。
ワインを扱うという仕事柄、ゲストは食通が多く、「オーナーシェフがいる店や料理人の顔が見える店がセレクトの中心です。特別な接待の場合は“ワオ!”というサプライズが欠かせません」と、予約困難店や星付き店を選ぶこともある。
「初対面の方でも会話がスムーズになるような席割りも重要」と、店の空間性にも心を砕いてセッティングしている。
そうした要素を満たし、会食で何度も訪れる一軒が『Saucer』。
コンパクトで落ち着く店内
「ミシュラン一ツ星で案内しやすく、立地も特別感があり、調理が間近に見られるシェフズカウンターのほか、女子会ならテーブルと用途に応じて選べます」
シェフの郡司さんはリヨンとパリで腕を磨き、銀座『エスキス』にも在籍。気心知れた敏腕シェフがいると心強い
特筆すべきは神楽坂『ラ・トゥーエル』で「ソーシエを務めた経験が原点」と語るシェフの郡司一磨さんの料理。
ムネとモモを添えた「鶉 寿雀卵」。緑のオイルは九条ねぎで抽出。全料理の要であるトリプルコンソメをベースに、ウズラのジュ、焦がしバターとみりんで調味した卵黄をソースにしていただく。季節のおまかせコース(¥24,200)より
フレンチの王道であるソースを重視しながらも、例えば、ウズラのローストに卵黄とねぎオイルを添えて焼き鳥を想起させるなど随所に日本的なひらめきも潜み、「ワオ!」を実感。
会食に常連店を選ぶのは「自社ワインの持ち込みの相談」ができるから。ワインに合う料理を店に相談することも
「サービスが良く店のワインリストもバランスがいい」と絶賛する。ゲストと感動を共有して知見を深めている。
◆こちらの2軒もオススメしたい
『西麻布 一二三』「茶事の心を軸に、手を尽くした季節の食材でもてなす和食店。うにやキャビア、和牛といった贅に飽きたお相手に特に喜ばれます」
『鮨 石橋正和』「銀座にあり、英語の話せる店主もいらっしゃって、海外ゲストの会食に便利な江戸前鮨店。比較的予約もとりやすく重宝します」
達人が考える会食とは
1959年創業の日本を代表するゴルフ用品メーカーで、2023年から現職。山形県酒田市の自社工場で手がける「酒田モデル」など、高品質の商品が特徴。会食は週1回
「密なコミュニケーションの場であり、その人を深く知ることができる。ビジネスを超越した友情や師弟関係が生まれる貴重な時間」
2.単なる飲み会にせず、知見を高めあう。実りある会話が生まれる店がいい 『BAR 希望』
1階はカウンター、2階はテーブル席がある。吹き抜けと大きな窓が開放的
会話が前に、前に進んでいく最高の雰囲気が「また来たい」と双方に思わせてくれる
スポーツ事業を展開するという職業柄、選手やメディア関係者など会食相手は多岐に渡る。
ゆえに「多様な考え方や事業手法を得る機会に」とその意義を捉える。絶大な信頼を置く、奥渋の一軒家バーの魅力とは。
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約400人の社員を抱える小川典利大さんが説く会食の極意は“徹底した目的意識”にある。そのひとつが「単なる飲み会にしない」こと。
業務の話と食事の配分を緻密に考慮して、双方が有意義な時間を共有することを大切にする。同時に会食を「自社の部下の学びの場」と捉えるのも彼ならではの流儀だ。
「同席させる部下には立ち位置を正しく理解してもらい、参加者全員が新しい気付きを得られるようにします。会食の場は会話だけでなく言動や食べ方、飲み方も見ることができるので相手をより深く知れる。それが会食以降の業務上の対応に役立つことも多い」と小川さん。
商談や親睦だけで終わらせない、+αの収穫をも得る。そのための店選びは、「自分自身がその店の料理が好き」が前提で、相手先が接客や雰囲気を喜んでもらえることに重きを置くと話す。
その条件を満たすのが『BAR 希望』だ。
カーリーヘアがトレードマークの店主のジュンさん。気さくな人柄にファン多数
名物店主のジュンさんの自然体な明るさと、洒脱な空間。料理の豊富さと美味しさで、その居心地の良さから「つい趣味の話で盛り上がってしまうことも多い」とか。
「ラムミートボール」(¥1,300)や「セビーチェ」(¥800)、「季節のパスタ」(¥1,600)など料理はジャンルレスで「どれも抜群の美味しさ」と小川さんも太鼓判。
会食に利用するのは主に2階席。プライベート感のある優雅な空間にリラックスして話が弾む
センスフルなムードが、互いの緊張を緩ませ距離を縮めてくれる。
◆こちらの2軒もオススメしたい
『西麻布 しゃぶ玄』「オーナー夫妻の醸し出すお店の雰囲気と気遣いが素晴らしい。適切なタイミングでの食事やお酒の提供があり心から安心できます」
『代官山ハイライフ ポーク テーブル』「店長の接客が天才的&ユニーク!スタッフも愛嬌がありゲストも巻き込み話が進む。相手先との懇親には間違いなくオススメ」
達人が考える会食とは
山形県東根市に拠点を置き、ダイヤモンド加工技術を施した、世界的なレコード針メーカーである同社の代表取締役。取引先などと平日はほぼ毎日会食をしている
「ビジネスを発展させるために情報交換しながらの会食は私にとって大切な仕事の一部です。豊かな人生を送るためにも欠かせません」
3.ゲストの記憶に残る夜を演出し、互いの人生観をアップデートする 『JINBO MINAMI AOYAMA』
表参道と外苑前の中間、静かな住宅街の一角に潜む。高台にあり“気”が良いと評判で、「うちだと商談がまとまると言ってくださるお客様も多いです(笑)」と神保シェフ
空間・味ともにゲストのインスピレーションを刺激し、記憶に残る会にしたい
会食で「多くの出会いがあり、ビジネスチャンスも友人の輪も大きく広がった」と語る長岡香江さん。
会食の「目的」に重きを置いて店を選ぶ彼女が、特に女性経営者と訪れる1軒は南青山の高台に佇む。
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「平日は会食で埋まり、週末も友人などと月3、4回。朝も昼も夜もという日もあります」と話す長岡香江さんが、会食の際に留意するのは「何がきっかけで開くのか」という点。
「その目的が果たされるための準備と心配り」は怠らない。参加者全員が来て良かったと心から思える楽しさを重視し、目標は「忘れられない思い出になる会食」という。
白が基調の空間で、あえて席もゆったり配置。「空間に対し7割ほどを埋めるイメージで設えました」
そのために、ゲストの誕生日などを把握して事前にお店と打ち合わせをして「オリジナルケーキをサプライズでご用意いただく場合もある」そうだ。
「特別感のあるお店」を選ぶことにも心掛け、人生観や価値観が変わる会食を理想としている。そんな長岡さんが「女性経営者同士で集まるときに喜ばれます」と話すイタリアンがここ『JINBO MINAMI AOYAMA』。
すべてスペシャリテの「バーニャカウダ」に使われる野菜で、石川・能登のちりめんキャベツなど全国の産地から届く。この料理だけで30品目は使うというから驚き
オーナーシェフの神保佳永さんが手掛けるコースはすべて野菜が主役で、全部で70品目も使われる。
それらすべてを必ず調理する前に食材として丁寧なプレゼンをするのが神保さんの流儀。
バーニャカウダを進化させたスペシャリテ。
揚げる、発酵させる、ピュレにするなど、個々の野菜に応じ調理法を変えてひと皿に。
栃木産アスパラガスの前菜。まぐろのタルタルに、酒粕ムースなどを添えた逸品。
「祝い事にオーダーするプレートもセンスが良いです」。茨城・鉾田のイチゴで「ズッパ・イングレーゼ」をオマージュ。料理はすべてコース(¥22,000)より
「お人柄も素敵で、もちろん料理も美しく、バースデーケーキもセンス抜群の完成度です」
会食頻度がかなり高い長岡さんにとっても、オアシスのような存在といえる。
◆こちらの2軒もオススメしたい
『紀尾井町 福田家』「魯山人の器や季節のあしらいなど料理が素敵。大勢で楽しむ新年会にぴったりで、おみくじなど、余興も用意してくださいます」
『Convivio』「弊社から近い千駄ヶ谷のイタリアンで、ランチ会で伺うことが多いです。イノベーティブな料理が多く、取引先の方も喜びます」
達人が考える会食とは
旧大蔵省、外資系証券を経て、世界最大級の投資ファンドで日本代表などを歴任。会食は週3回ほど。酒類や飲食の会社の社外取締役も務め、関連業界の方も多い
「形式的な接待は意味がなく感じるので、仕事関係を超えて人間関係を構築したいと思う人とじっくり話すことを大切にしたい」
4.説得より信頼、喜びよりも安心感。会食は良い対話を引き出す舞台装置 『港かっ惚れ』
会員制ゆえ、常にクローズという札がかかる遊び心あり。本家の渋谷『活惚れ』や代官山『オ山ノ活惚レ』に通って店員と懇意にすることが来店への第一歩になる
喜ばせるより安心させる。それが仕事を超えた関係性につながる
外資系金融に長く勤める藤井良太郎さんにとって、会食は仕事を超えて人間関係を構築する場。
そんな、仕事以上の付き合いがしたい、大切なゲストと距離を詰めるのに良い店が、元麻布で息づいていた。
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立場上、多くの企業人と接する藤井さん。
「会食は説得や交渉の場ではなく、相手との関係の質を一段上げるための時間にしたい」と考え、結果的に築かれる信頼関係に重きを置いている。ゆえに場の設計で重視すべきは、何より安心できる場所。
「家族や気が置けない仲間と話をするような環境づくりが優先で、自分が心から楽しんでいる状態も良い対話につながる」と藤井さん。
オープンキッチンとフルフラットで接するカウンターが相手との距離を詰めるにはベストな特等席。スタッフと距離も近く、会話を楽しみながら食事ができる
招くゲストは会食続きで、食べ疲れしている夜も多いため、コースで量が多過ぎるところは選ばないのが鉄則だ。
オススメで筆頭に挙げた1軒がここ『港かっ惚れ』。
菜の花やウルイを使った「ホタルイカと春野菜のナムル」
「アラカルトでものすごい数のメニューがあり、自分が食べたいものを食べたいだけという経営者にぴったりです」と推奨する。
その言葉どおり、季節によって変わるメニューは常時100品前後が勢ぞろい。ポーションの調整といったわがままにも快く応えてくれる。
「エビチリ真丈」。仕上げの花山椒オイルが香る
「エビ真丈にピリ辛のチリソースをかけた『エビチリ』など、大人が喜ぶ遊び心も見事に表現されており、飽きさせません」と絶賛する。
会員制ゆえ品のある大人が集うからこそ、どんな会でも外さない。
「海鮮ばくだん納豆」。この日の鮮魚はうに、いくら、まぐろ、イカ、シマアジ。系列店よりサイズが小さめ。
〆に人気の「浅利中華そば」はサイズを相談可。
料理はすべて時価。しっかり食べて飲んでひとり¥20,000が目安だ。
お酒は系列店ごとにセレクト。左から、うちゅうブルーイング「JUPITER」(¥2,400)、ヨロッコビール「BLACK SWORD」(¥1,800)、箕面ビール「おさるIPA」(¥1,300)、湘南ビール「HAZY IPA」(¥1,500)などクラフトビールも充実
ワインの他、クラフトビールや日本酒など、あらゆる銘酒がそろい、自由気ままにアテと美酒に身を委ねられる。
■店舗概要
店名:港かっ惚れ
住所:港区元麻布2-1-17 モダンフォルム元麻布 3F
TEL:非公開
営業時間:17:00~LO24:00
定休日:無休
席数:カウンター10席、個室2(4席、6席)
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