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入院中なのに上司から「進捗どうなってた?」業務LINE 無視しても問題ないのか…弁護士が明かす“対処法”

入院中なのに上司から「進捗どうなってた?」業務LINE 無視しても問題ないのか…弁護士が明かす“対処法”

今年の春、20代の女性システムエンジニアのAさんは、転職して間もない会社で、納期が迫ったシステム開発案件の対応に追われていた。案件は上司の工程管理の不備も一因となって大幅に遅延した、いわゆる「炎上案件」の状態となっており、Aさんも連日の残業を余儀なくされていた。

仕事のストレスから体調を崩し、土曜日に近所のクリニックを受診したところ、子宮に腫瘍が見つかった。医師からは早期の手術を勧められ、Aさんは急きょ有給休暇を取得して大学病院に入院することになった。

ところが、入院後もAさんのスマートフォンには上司から頻繁にLINEが送られてきた。内容は、Aさんが担当していた工程に関する質問や、「進捗どうなっていましたか?」といった作業状況の問い合わせだった。Aさんは病室のベッドの上でも対応を続けていたが、術後の体調が優れない日にも業務の連絡が届くことに負担を感じていたという。

Aさんは「手術のために入院している患者に対して、当然のように業務対応を求めるのはおかしいのではないか。入院中くらいは安心して治療に専念したかった」と、退院後のいまも納得できない思いを抱いている。

かつて勤務時間外の業務連絡といえば電話が中心だったが、現在ではLINEやビジネスチャットツールなどが普及し、週末や休暇中であってもスマホに職場からのメッセージが届くケースが増えている。Aさんに限らず多くの労働者にとって、休日でも仕事と完全に距離を置くことは難しくなっている。

このような状況を背景に近年注目されているのが「つながらない権利」である。「労働者には勤務時間外に仕事の連絡への対応を求められず、自分の時間を過ごす権利がある」という考え方のことだが、実際のところ、日本の法律では「つながらない権利」はどこまで認められているのだろうか。

日本に「つながらない権利」はある?

諸外国を見ると、「つながらない権利(right to disconnect)」はフランス(2017年)やEU指令(2021年)などによって明示的に法制化されている。

日本には、この権利を直接的に定めた法令は現時点では存在しない。しかし、和澤晋平弁護士によると、既存の法令やその解釈により「つながらない権利」に準じる扱いを間接的に導き出すことは可能だという。

まず、労働者の基本的な義務は、労働契約に基づき所定労働時間内に労務を提供することにある(民法623条、労働契約法6条)。そのため、勤務時間外に会社からの連絡へ対応する義務は当然に発生するものではなく、労働契約や就業規則、個別の業務命令などの内容によって判断される。

また、労働基準法は、時間外労働や休日労働をさせる場合に36協定の締結や割増賃金の支払いを求めている(32条、36条、37条)。こうした規制は、使用者が労働者に対して無制限に時間外労働を命じることを認めていないことを前提としている。

そのため、勤務時間外に仕事から離れて過ごす利益や、業務上の連絡に常時応答しなくてよいという考え方には、一定の法的な根拠があると考えられる。

以上のことから、和澤弁護士は「つながらない権利は、日本の法律上で明文化されている「権利」とまでは言えないものの、「個別の合意や指示がある場合を除き、所定労働時間外に、労働者には連絡に応ずる義務はなく、無視しても問題はないと思います」と語る。

諸外国における「つながらない権利」制度の有無(厚労省作成)

休暇中に上司から連絡が来た場合の対応

それでは、実際に勤務時間外に上司から業務連絡が来た場合、労働者はどのように対応すればいいのだろうか。

和澤弁護士によると、原則として勤務時間外の業務連絡に対応する義務はない。ただし、会社から待機や応答を求められ、労働者もそれを受け入れている場合には、対応義務が生じる可能性があるという。

ただし、勤務時間外に業務上の連絡へ対応した時間については、使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる場合、「労働時間」に該当する可能性がある。形式上は任意の対応とされていても、実際には返信や対応を余儀なくされる状況だった場合には、労働時間と判断されることもあり得るという。

そのため、勤務時間外に業務対応をした場合は、通話履歴やメッセージのスクリーンショットなどを保存するとともに、対応を求められた経緯を記録しておくことが重要だ。こうした記録は、未払い残業代を請求する際の証拠となる可能性があるためだ。

LINEと電話に法的な違いはあるか?

電話ではなくLINEなどのメッセージアプリによる業務連絡の場合、法的な扱いは変わるのだろうか。

和澤弁護士によると、現行法には電話とLINEなどのメッセージアプリを区別して扱う規定はなく、労働時間に当たるかどうかは、連絡手段ではなく、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていたかどうかによって判断されるという。

ただし、LINEなどのメッセージアプリでは、電話と異なり、送受信や既読の履歴が残るという特徴がある。

そのため、勤務時間外にメッセージを読んだ場合でも、直ちに返信義務が生じるわけではない。しかし、会社側からは「内容を認識していた」と受け止められる可能性があり、その後の対応状況によっては説明を求められることも考えられる。

特に、普段から時間外の連絡に応じることが常態化している職場では、「既読を付けた以上は対応すべきだった」と事実上の圧力が生じるケースもあるため注意が必要だ。

私用ケータイへの連絡に困っている人はどうすればいい?

では、会社や上司から私用のLINEなどで業務連絡を求められた場合、労働者はどこまで応じる必要があるのだろうか。

和澤弁護士によると、会社が労働者に対して私用のスマートフォンやLINEアカウントを業務に利用するよう求めるには、就業規則上の根拠や本人の同意が必要になる。そのため、労働者が私用LINEでの業務連絡を拒否したとしても、原則として不当とはいえないという。

もっとも、実際の労働環境では、「任意」とされながらも事実上、グループLINEへの私用アカウントでの参加やこれを用いた返信を求められているケースも少なくない。返信しなければ人事評価や職場での人間関係に影響するのではないかとの不安から、対応せざるを得ない状況に置かれている労働者もいる。

権利義務関係をはっきりさせるには、まず就業規則や労働契約に私用LINEへの対応義務が定められているかを確認することが重要だ。また、私用のLINEなどでの連絡を受けたくなければ、会社側に対し、会社支給の端末やメールなどの公式な連絡手段を利用するよう求めることも有効な対応策となる。

さらに、勤務時間外の連絡に対応した場合は、メッセージのスクリーンショットや対応した日時、内容などを記録として残しておくことが望ましい。これらは後に未払い残業代などが問題となった際、重要な証拠となる可能性がある。

「日本では『つながらない権利』が明文化されているわけではありませんが、労働契約法や労働基準法の解釈を通じて一定の保護を受けられる可能性があります。

時間外の連絡への対応義務は、就業規則や労働契約の内容、実際の運用状況によって判断されるため、まずは自分の職場のルールを確認し、対応を求められた場合には記録を残しておくことが重要です」(和澤弁護士)

配信元: 弁護士JP

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