ワークマンの製品が売れに売れています。もはやネットの口コミ記事やSNSでワークマンを見かけない日はないくらいです。靴も同様に、ハイテクランニングシューズから日常履き、防水靴も2000~4000円台で展開しています。しかも平均的には高機能。靴業界の人間としてはかなり複雑な心境です。なぜならワークマンは、日本の靴業界を大きく進化させた一方で、別の問題も生み出しているからです。今回はシューフィッターの視点から、「ワークマンシューズの功罪」について書いていきます。
◆ワークマンの靴は実際のところ使えるのか?
ひととおり、現在進行形のワークマンシューズがどれほどのものかを解説します。10年前であれば、2900円の靴など「安かろう悪かろう」の典型でした。しかし、ワークマンで2900円も出すと、とんでもなく高機能なランニングシューズが買えます。
安くできる理由は明白で、①セルフ販売で接客の人件費が浮く、②靴箱がない、靴の緩衝材がなくむき出しのまま、③CMを打たなくても口コミで勝手に売れる、④実質的にオンライン販売を捨てている、つまり輸送費のほうが高くつく。これら4つの理由の複合だと思います。
ワークマンの靴は「使えればOK」に振り切っています。はっきり言ってしまえば、デザインは捨てているので、平均的にはダサいです。スニーカーにデザイン性を強く求めている客層が、圧倒的に少ないのも事実です。エアコンやパソコンの機能以上にデザイン性を求めている人は少ないのと同じです。Tシャツや靴下にも、こだわる人は徹底的にこだわりますが、「使えりゃOK、安くてそこそこ持つならなおOK」という人が圧倒的に多いと思います。私もです。

◆ワークマンの罪は安すぎること
そして、ここからが本題です。私はワークマンの靴を高く評価しています。それでも、手放しでは褒められません。むしろワークマンが成功しすぎたからこそ生まれた問題があります。
私個人の統計ですが、日本人の半分くらいは「自分で思っているより足幅が細め」です。ワークマンの靴で靴ずれしたり、足元がぐらついて膝や股関節を痛めたりする方のなかには、自分の足幅を誤解しているケースも少なくありません。
面白いのは、その一方で「ニューバランスは昔から歩きやすい」と評価している方が非常に多いことです。996や574などのクラシックモデルの多くは「Dウイズ」という比較的細めの設計が採用されています。つまり、その履き心地のよさはクッション性だけでなく、自分の足幅に合っていた可能性もあるのです。
「日本人の足は幅広だから、とりあえず3Eを選べば安心」という考え方は、かなり危険です。ワークマンの功罪をひとことで言うなら、安くて高機能な靴を誰でも買えるようにした一方で、「自分の足に合っているか」をきちんと考えずに、適当に買って捨てる時代をつくってしまったことだと思います。
もうひとつ、個人的に引っかかることがあります。それはワークマンが悪いという話ではなく、これだけ高機能な靴を低価格で販売することで、靴の相場感そのものが狂ってしまうことです。実際、「ワークマンが2900円でつくれるのだから、他社で同じような機能を謳っている1万円前後の靴は、ぼったくりではないか」と考えてしまう人がいることです。
しかし、それは完全に間違っています。靴は工場から突然生まれてくるわけではありません。木型を開発する人がいて、材料を研究・開発する人がいて、サンプルをつくる人がいて、ミシンで縫製する人がいて、ソールを貼り付ける人がいる。圧着機を使う工程でも、最後は人の手が入ります。さらに物流や販売まで含めれば、想像以上に多くの人が関わっています。
私は靴設計と靴修理の現場にいましたが、靴という製品は驚くほど手間のかかる工業製品です。だからこそ、2900円の靴が存在することと、1万円の靴が高すぎることはイコールではありません。ワークマンの功罪は、高機能な靴を極めて安い価格で提供したことです。
「安いほうが正義」「高い靴は全部ぼったくり」という極端な価値観を生みやすいことは、功罪の「罪」の部分だと言えるでしょう。
ワークマンは靴業界を変えました。2900円でここまでできるのか、と他社を震え上がらせました。ただ、2900円の靴と1万円の靴が同時に存在していることは、別問題です。靴には、設計する人、つくる人、売る人の仕事があります。ワークマンの登場で私たちは安くて高機能な靴を手に入れました。その一方で、「安ければ正義」という危険な価値観まで手に入れてしまったのかもしれません。
【シューフィッター佐藤靖青】
イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。YouTube『足と靴のスペシャリスト』。靴のブログを毎日書いてます『シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)@毎日靴ブログ』。著書『予約の取れないシューフィッターが教える正しい靴の選びかた』

