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ソマリア人審判は強制送還、イラク得点王は7時間拘束…北中米W杯を襲うトランプ政権「非情のビザ・入国審査」の実態

ソマリア人審判は強制送還、イラク得点王は7時間拘束…北中米W杯を襲うトランプ政権「非情のビザ・入国審査」の実態

◆過激派組織との関係について尋問を受け、入国を拒否

メキシコのジャージ。クイーンズのコロナで筆者撮影
アメリカのトランプ政権による外国人取り締まりがワールドカップ(W杯)サッカーに暗い影を落としている。国際サッカー連盟(FIFA)公認のソマリア人審判がアメリカへの入国を拒否されたほか、戦争状態にあるイランのチームスタッフへの入国ビザが発給されないでいる。イラクの選手も入国の際、一時拘束され7時間もの尋問を受けた。トランプ政権は大会期間中、ニューヨークなどで移民の取り締まりを強化する方針で、W杯が「外国人狩り」を加速させてしまう恐れがある。

W杯開幕前日の6月10日、ソマリアの首都モガディシオにあるアデン・アッデ国際空港には多くの市民やサッカーファン、政府関係者らが朝早くから詰めかけた。人々の手には空色に一つ星のソマリア国旗が握られていた。

トルコ・イスタンブールからの直行便トルコ航空646便が着陸し、機体のドアが開くと、空港は大きな歓声に包まれた。タラップを降りてきたのはFIFA公認審判のオマル・アルタン氏だ。ソマリア人初のW杯審判として今大会、ピッチに立つ予定だった。しかしフロリダ州マイアミでアメリカに入国しようとしたところ、アメリカ税関・国境取締局(CBP)に入国を拒否された。アルタン氏はアメリカの土を踏むことなくソマリアに帰国した。

空港に集まった群衆はアルタン氏を「英雄」として迎えた。胸にFIFAの名前が記されたウインドブレーカーを着たアルタン氏に国旗が渡され、アルタン氏は優勝したアスリートのように国旗を肩に掛け、取り囲んだ人々に手を振って応えた。VIPが通過するルートで空港を出た後、大統領官邸でモハムド大統領と面会した。

CBPはアルタン氏の入国拒否について「入国の可否は審査時点に入手できる情報に基づいて個別に決定される」と一般論でしか説明していないが、アルタン氏はニューヨーク・タイムズの取材に対し、11時間拘束され、過激派組織「アル・シャバブ」との関係について尋問されたと話している。ソマリアのパスポートと入国に必要なアメリカ政府発行のビザも所持していたにもかかわらず、テロ組織との関係を疑われて入国を拒否されたことになる。

アメリカ政府は「外国人テロリストからアメリカを守る」との理由で昨年6月からソマリアなど12カ国を対象に厳格な入国制限を実施している。12月にあったW杯組み合わせ抽選会の3日前、トランプ大統領はソマリア系住民が多いミネソタ州で予定されていた移民取り締まり作戦について語った際、「ソマリアは国と呼べるかどうかも怪しい」と述べ、ソマリアからの移民を「ゴミ」と表現した。
ソマリアでアルタン氏が「英雄」になったのは、トランプ大統領にさげすまされたソマリア人の怒りの裏返しでもある。


◆アメリカ在住移民の間にも広がる恐怖

ラテン系移民が多く住むクイーンズのジャクソン・ハイツで筆者撮影
戦争状態にあるイランは15日にロサンゼルスで初戦を迎えるが、選手らにビザが発給されたのは試合10日前の5日だった。しかし技術顧問らチームスタッフの多くにはビザは発給されなかった。

6日にアメリカ入りしたイラクのエース、アイメン・フセイン選手はシカゴのオヘア国際空港で7時間にわたり拘束され尋問を受けた。チームのカメラマンは入国を拒否された。イラクサッカー連盟は「イラク代表の得点王が容疑者扱いされるようなことがあれば、イラク代表とサポーターがどのような扱いをうけるのか、疑問を持たざるを得ない」とアメリカへの不信感をあらわにした。

W杯での「外国人いじめ」を警戒するのはアメリカに入国する選手やサポーターだけではない。アメリカで暮らす移民もW杯中の取り締まりを恐れる。
開幕してもニューヨークではまだ、W杯の熱狂を目にすることがないが、ラテン系の移民が多く住む市内クイーンズのジャクソン・ハイツやコロナという地区は別格だ。W杯の旗を掲げ、オブジェを設置する飲食店や洋品店が軒を連ねる。メキシコなどチームのジャージが露店で販売される。

開幕の11日はメキシコシティでメキシコ対南アフリカの初戦が行われたが、平日の昼間にもかかわらず、バーやレストランでは観戦するサッカーファンの姿があった。
ただ、ビールを傾けて応援する顔には不安な表情が混じる。W杯の期間中、移民の取り締まりが強化されそうだからだ。

W杯開催にあたり、ニューヨーク州のホークル知事(民主党)は州内でのアメリカ移民・税関捜査局(ICE)の活動を制限する法令に署名した。ICEはアメリカ全土で強引な移民の取り締まりをして批判を浴びている。法令ではICE職員のマスクの着用を禁止したほか、ニューヨーク市警(NYPD)など地元の法執行機関がICEと協力協定を結ぶことを許可しないことした。
これに対しトランプ政権で国境対策を統括するトム・ホーマン氏は、ICE職員のニューヨーク州への増派を表明し、ホークル知事をけん制した。

W杯の期間中、200万~500万人の外国人がアメリカを訪れるとみられている。その多くはニューヨークを訪れるとされ、期間中、ニューヨークは移民取り締まりの主戦場になる可能性がある。ホーマン氏のけん制にホークル知事は「増派すれば政権は11月の中間選挙で大きな代償を払うことになる」と強気な姿勢で対抗する。

W杯で盛り上がるジャクソン・ハイツやコロナ地区は、これまでもICEによる取り締まりがあり、住民はICEの動きに敏感だ。W杯でICEの取り締まりが強化されることとなれば、生活の崩壊につながる可能性もある。待ちに待ったW杯が「悪魔」を呼ぶイベントになってしまうことだけは避けたいというのが移民の心からの願いだ。

【谷中太郎】
ニューヨークを拠点に活動するフリージャーナリスト。業界紙、地方紙、全国紙、テレビ、雑誌を渡り歩いたたたき上げ。専門は経済だが、事件・事故、政治、行政、スポーツ、文化芸能など守備範囲は幅広い。
配信元: 日刊SPA!

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