東日本旅客鉄道(JR東日本)で、労働組合に加入したばかりの社員に駅長(当時)が「早まるな」「考え直せよ」などと述べて加入を思いとどまらせようとした面談は、不当労働行為に当たる――。
東京都労働委員会(都労委)は今年3月18日、この駅長と運転区副長(当時)の面談発言を、いずれも労働組合法が禁じる「支配介入」と認定する全部救済命令を出した。「支配介入」とは、使用者が労働組合の結成や運営に干渉し、組織を弱体化させる行為を指す。
申し立てを行ったJR東日本輸送サービス労働組合(輸送サービス労組)と八王子地方本部は6月19日、都内で記者会見を開き、命令の意義と、認定後もなお続くという職場での労働組合への偏見・差別の実態を明らかにした。
2つの面談が問題に
都労委が交付した命令書の別紙によると、事件は2つの局面で構成される。1つ目は、2022年4月19日に立川駅で行われた駅長面談だ。社員Aさんは2014年4月、聴覚障害がある人を対象とした障害者雇用枠でJR東日本に入社し、駅改札の窓口業務に就いた。
2020年頃、窓口に新型コロナウイルス対策の飛沫防止シートが設置されると、利用客の声が聞き取りづらくなった。2022年3月に別の駅へ異動した後、聞こえづらさを上司に申告し、X駅長は利用客対応の少ない業務へ回す対応をとっている。
同年4月4日、Aさんはいったん退職の意向を伝えたが4月14日に輸送サービス労組へ加入し、4月19日、退職を撤回したいと伝えるため面談に臨んだ。
この面談でX駅長は、組合を「会社にある意味反旗を翻すような労働運動をやってる人たち」と批判し、「早まるな」「もう1回考え直せよお前」などと述べたという。「人事権持ってるのは組合じゃねえんだよ、会社なんだよ」と、頼りになるのは会社だと力説したことも命令書で認定された。
もう1件は、別の若手組合員Bさんをめぐる面談だ。
2023年10月16日、Y副長はBさんとの面談で、組合加入の有無を確認したうえで、「まだ若いから、人間関係で辞められないのであれば、あと30年は余りにも長すぎると思う」と発言。
Bさんが主任試験に合格していない事実に触れ、「試験に受からない要素の一つに組合に入っていることが考えられるようであれば、それを排除する意味で考えてみてね」と述べたという。
輸送サービス労組は2023年1月にまず駅長発言について救済を申し立て、後にY副長の発言も追加で申し立てた。
争点は「個人の発言」か「会社の行為」か
最大の争点は、2人の管理者の発言が組合運営への支配介入に当たるか、当たるとして救済の必要があるかだった。会社は団体交渉で、不当労働行為かどうかは第三者が決めるもので、管理者個人の誤った見解によるものだと責任を争ってきたと、組合側は説明する。
都労委はこの主張を退けた。命令書はX駅長の面談について、勤務時間中に駅長室で部下に対して行われ、駅長が「会社がよく思うかって言ったら、それはよく思わないよな」と会社の立場に立った発言をしていた点を指摘。
会社の指示がなくても、管理者への指導に沿わない内容を含んでいても、「勤務時間中に職制が部下に対して行った使用者としての行為」であり、会社は責任を免れないと判断した。Y副長の面談についても、人事に密接に関連する場で職制上の地位に基づきなされたとして、同様に会社の行為と認めている。
「会社としての責任も免れない」と判断
労働組合側の代理人を務めた市橋耕太(いちはし・こうた)弁護士は会見で、命令の意義を語った。
一連の不当労働行為事件のうち、JR東日本“本体”の責任が明確に認定され確定したのは「初ではないか」と指摘。駅長と副長それぞれの発言について、職務と離れた個人的なものではなく職務の中で行われたとして、「会社としての責任も免れない」と判断された点に重みがあると述べた。
申し立てから命令交付まで約3年。輸送サービス労組の武田晃一(たけだ・こういち)執行副委員長は会見で「あったことをなかったことにはしない。前に出て闘った成果だ」と振り返った。
ただ命令の履行の中身をめぐる対立は残る。
都労委はJR東日本に対し、本件命令の内容について、各事業場の社員が見やすい位置に文書で掲示するよう命じていた。
だが、労組側は「会社が命令に基づいて文書を掲示したのは一部の事業場にとどまり、すべての事業場においてではない」と指摘。都労委に対し、完全な履行を求める申し立てを行った。
なおJR東日本の広報担当者は弁護士JPニュース編集部の取材に対し「東京都労働委員会の命令については、既に履行しております」とコメントしている。
「差別や偏見が深く染みついている」
会見では、グループ会社で起きた別の事件も報告された。JRバス関東労働組合の遠山真一郎(とおやま・しんいちろう)執行副委員長によると、2018年11月頃、白河支店の現場長(当時)が棚倉分会の組合員を市内の喫茶店に呼び出し、組合の脱退届の提出を迫ったという。
この組合員が「なぜ組合を抜けなければならないのか」と尋ねると、現場長は「会社がそういう方針だからだ」と答えたと、遠山執行副委員長は明かした。
この「棚倉事件」は、都労委が2021年8月に支配介入を認めて救済命令を出したものの、中央労働委員会は組合員がすでに組合を脱退したとして、2023年1月にこれを取り消した。2025年9月、東京高裁は中労委命令を取り消し、脱退の事実を理由に救済の利益を否定するのは「理不尽、不条理」と判断。
現在は中労委が最高裁へ上告し、判断を待っている。遠山執行副委員長は「JR東日本グループには裏の顔がありすぎる。労働組合に対する差別や偏見が深く会社の中に染みついている」と述べ「同調圧力に屈しない労働組合が必要だ」と訴えた。

