◆文系の修士号にはどれだけの価値があるのか
一方で、文系はどうでしょうか。現在博士課程在学中のTさんは「可能ではあるだろうが、それが修士課程進学の後押しになるとは考えにくい」と述べます。
「自然科学に対して、人文科学はある程度アプローチの切り口を変えることで対応できますし、研究にタッチする難易度は、理系よりも低いでしょう。簡単か否かはともかく、不可能ではないはずです。
ただ、だからと言って修士号を積極的にとるかどうかは別の話。
就活市場における理系の修士号と文系の修士号の価値が、事実上異なるからです。
出口がなければ入るわけありません。個人的に、文理問わず修士号を持つなら、かなりの『読解力』が保証されている点で価値があるはずなのですが……」(Tさん談)
やはり、ネックはキャリア事情。理系修士・理系博士に比べて、文系修士・文系博士が敬遠される理由はそこでしょう。研究者を目指しても全員がなれるわけではない。
大学からは助成金などが引かれ続け、その影響からか学費を値上げする大学も出てきた。
現在修士課程に通うUさんは「欧米の博士課程学生には給料が支払われるというのに、日本の大学生はアルバイトをしながら研究成果も出さないといけない。これでは、研究職から足が遠のくのも当たり前」と指摘します。
◆落ちる「修士号」の価値
「今回の施策で進学者が爆増することはないでしょう。本来は6年間で教育したことを5年間に短縮するのですから、『質を落としてでも、数を確保する』方向に舵を切ったように見えます。それがいいかどうか、判断はつきかねますが、『日本の修士号は甘い』とか言われるようになったら本末転倒ですよね。
正直、目的と手段が乖離している印象を受けます。大学院進学予定者の足を止める一番の要因は、やっぱり『金』です。
これに尽きる。運営交付金も下がり、DC(日本学術振興会が主催する奨学金や研究費の支給制度)も通るのは1割かそこら。
どうにか死ぬ思いで修士・博士を乗り切っても今度は就職で詰まってしまう。
この状態で『大学院に行って!』なんて、無理ですよ。もっと修士号・博士号取得者のキャリアパスを整備してから言ってほしいですね」(Uさん談)

