◆見かねた常連が注意するも、火に油を注いでしまう
この酷暑の夏のことだ。騒々しいだけでなく、熱風が店内を襲うようになる。「クーラーの風が逃げてしまい、店内はムワっと気持ちの悪い温度にもなって……。この期に及んでもなお、ヤンキー夫婦はどこ吹く風。自分たちはお酒を飲んでは大声で盛り上がっていました。注意しろよと思いつつも、酔っ払いのヤンキーを相手にするのは面倒が勝ちますよね。われわれも含め、みんな見て見ぬ振りをしていました。チラチラと『帰れ』の念を込めた視線を浴びせながらも」
図に乗ったか、さらに酔いが回ったか。夫がなにやらスマホを取り出すと、机の上に置いた。スピーカーホンでの通話を夫婦ではじめたのだ。
「大声で話していたので内容は筒抜け。どうも“ツレ”を呼び出すための電話だったようですが……」
ついに一人の常連客の堪忍袋の緒が切れる。
「40代くらいの常連さんが『いい加減にしろ!』と、果敢にもそのヤンキー夫婦の席に行って注意したんです。ほかの客同士はというと、応援の連帯感がにわかに生まれさえしていました。けれど、ある意味さすがはヤンキーです。そんな空気はものともせず、夫のほうが『金を払ってんだから、テメエに言われる筋合いはねえだろ!』と、今にも手が出そうな勢いで怒鳴り返しました。慌てて女将さんとバイトが止めに入りましたが、むしろ怒りをヒートアップさせてしまったんです」
◆その場を収めた常連男性の意外な正体
ついに殴り合いか――。高島さんがそう思った矢先、店主が客席に来てピシャリ。「日頃は職人肌かつ穏やかな、物静かな方なんです。そんな店主が、『食事代はいらないので、出て行ってください。金輪際、出禁です』と、一喝。荒らげた声を聞いたのは5年以上通ってこの日が最初で最後ですが、かなり迫力があって、外野の私のほうが縮こまるほどでした。
なのに……“伊達じゃない”ヤンキー夫妻は、『今からツレも来んだからな! “お客様”に向かって舐めた口きいたことを後悔させてやるよ』と、さらに激昂。子供たちは泣き出すしで、もう通報するしかないかなとまで考えはじめていました」
結論からいうと、その考えは「正解」だった。
「カウンターでいつもしっぽり嗜まれている、素敵な70代後半くらいの常連さんがいるのですが、その人がやおらに立ち上がったんです。いつ拳が飛んでくるかわからないなか無謀だと止めようかと思ったところ、『俺は元警察官だが、現職に連絡してこの場で連行してもらうか、今すぐお金を払って自ら帰るか。ただちに選びなさい!』と言ったのです。
虫も殺さぬような好々爺然としたイメージだったので、店主と同じく想定外のドスにびっくりしつつ……効果はてきめんでした。なにか後ろめたいことがほかにもあるんでしょうね。“警察”の語が出た途端、手のひらを返したように謝罪をし、お金もきっちり払って、逃げるようにして帰っていきました」

