
円安・インフレによる「資産」の目減り。AIの台頭による「キャリア」の陳腐化。現代のビジネスパーソンは、この二つの大きな不安に直面しています。一見、まったく別の問題に見えますが、リスキリングの専門家である後藤宗明氏は、「どちらの解決策も、実は同じ」と指摘します。同氏の著書『中高年リスキリング』(朝日新聞出版)より、「資産運用」と「リスキリング」を貫く思考法をみていきましょう。
円安・インフレでより一層高まる「資産運用」の重要性
当然、健康寿命が長くなるほど、必要となるお金も増加していきますので、老後の生活費、医療費、介護費、娯楽費等を賄うための資産運用の重要性もより一層高まっていきます。
今後も、円安、インフレの傾向が続いていくとすると、さらに円預金の価値が目減りするため、投資による資産防衛をする必要が出てきます。日本政府もiDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)といった制度を整備し、個人の資産運用を推奨していますが、こうした時代変化に対する意識変革が求められているとも言えます。
お金もキャリアも「分散投資」でリスクを軽減
資産運用を行うことで身につけられる「投資マインド」はリスキリングの価値を最大化する考え方としても参考になります。
例えば、投資では、結果がどうなるかわからない中で挑戦していくマインドセットを持っていなくてはいけません。従来型の安全な資産運用とされる「預金」という発想から離れて、リスクを取りながら利益を出していく「投資」という発想にマインドセットを変えていく必要があるということです。
リスキリングを進めるにあたっても、投資して、失敗してもそこから学び、回復して利益を出すというサイクルに慣れていく必要があります。自分のキャリアにおけるチャンスを積極的につかみにいくために、リスク許容度を上げていくことが求められているのです。
投資の世界には、「Don’t put all your eggs in one basket.(卵を1つの籠に盛るな)」という格言があります。もしその籠を落としたりすると、卵が全部割れてしまうため、複数の籠に盛ることで、卵が割れるリスクを分散するのです。いわゆる「分散投資」のすすめです。
「一つの仕事」しかできないあなた人の“市場価値”も目減りする
実は、これからの時代、働く私たちのキャリアに関しても、この考え方が当てはまるのではないかと考えています。「学際的スキル」の考え方こそ、キャリアにおける分散投資だと思うのです。
もちろん、今勤めている会社が倒産してしまうといった事態に備えるという側面もあります。しかし、今後価値の上がらない仕事だけをやり続けていることで、自分の価値が目減りしていくという問題への対処のほうがより重要です。
定年後の選択肢を増やすためにも、自分のキャリアに対して分散投資をしていくという考え方の重要性が増してきていると思います。
※本記事は資産運用を解説することを目的にしたものではありません。
後藤 宗明
一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ
代表理事
