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第百三十話 小暑の花絵「アストランティア」

第百三十話 小暑の花絵「アストランティア」

星に由来する花

■ 起源と名前の由来
アストランティアはセリ科の多年草で、ヨーロッパ中部から南東部の山地や森林の草原に自生します。属名「Astrantia」は、ギリシア語で「星」を意味する「astron」に由来するとされ、星形の総苞(そうほう)の形にちなんで名付けられました。小花が中心に密集し、それを放射状の苞が取り囲む姿は、まさに星のような構造です。

英語ではHattie’s pincushion(ハッティーのピンクッション)とも呼ばれていて、ハッティーの由来は定かではありませんが、頭花の形がピンククッション=針山に似ていることから、こうした名前も定着したようです。

■ アストランティアの文化史
アストランティアを含むセリ科の植物は、16世紀から17世紀にかけてヨーロッパの修道院や貴族の庭園に取り入れられるようになりました。アルプス地方や地中海沿岸から持ち帰られた植物のひとつとして、観賞用・薬用に栽培されていたと考えられます。
「Masterwort*(マスターワート)」という別名は、古い属名「magistrantia」に由来しており、“master”=卓越した/偉大な、 “wort”=薬草(古英語)という意味から「万能薬草(master herb)」と信じられていたことが名称の背景にあります。

*「Masterwort」は主に「Astrantia major(アストランティア・マイヨール)」を指しますが、植物学的には同じセリ科の別属Peucedanum ostruthiumの英名でもあり、用途により使い分けられています。園芸やフローリストの分野ではアストランティアを指すことが一般的です。

花毎の花ことば・アストランティア「いたわり」

アストランティアには、「愛の渇き」「星に願いを」などの花ことばがありますが、これは乾いた質感や星のような形に由来しているようです。
花毎では、古くは万能薬草と信じられていた歴史から、現代に生きる人の心を癒やす存在として、「いたわり」という花ことばを添えました。
薬草としての役目を終えても、風にやさしく揺れるアストランティアの姿には、今もなおそっと心をいたわる力が宿っているように感じられるのです。

文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など

配信元: 花毎

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